第4話 希少属性
「わたし、属性が植物魔法なんです」
彼女は思い詰めたように考え込んでいたが、覚悟を決めたのか、そう俺たちに向けて言葉を発した。
だが、それがなんなのか俺には全くぴんときていなかったのである。所詮は田舎生まれの人間であった。
「植物魔法?」
「聞いたことがあります、ご主人様。魔法には基本属性の他に、希少属性と呼ばれる滅多に出現しない属性があるのだとか。おそらく植物魔法もその一つなのでしょう」
ガッシュは都市部の奴隷から生まれたから、子供時代は都市部での生活経験がある。そのため、そのような知識があるのだろう。
それにしても、希少属性などより周りから求められそうなものだと思ってしまうが。なにせ、あまりいないのだから希少なんてつけられるわけで、俺の村では希少な動物の肉はどれも美味かった記憶がある。希少であるほど良いものだという価値観で生きてきた。
だが、彼女の顔を見るに、そう簡単な話ではないのだろう。
「植物魔法は、攻撃魔法ではないんです。攻撃手段がなく、魔法使いに求められるような、敵を殺す、倒す、無力化する、それが出来ないんです」
「なるほど? だから、そうして軍にも入れず護衛としても雇われないということですか」
「はい、そうです」
どうりで魔法使いというのに卑屈なのか。本来魔法使いであればもう少し傲慢な人間という印象がある。
村にも年に一回新たな魔法使いの才能を持つ子供を探しに来る。その時に出会う魔法使いたちはあまり気持ちのいい存在ではないが、反抗的であれば簡単に俺たちを殺せる存在ということもあって、おとなしくするしかなかった。
だが、彼女は魔法使いとして求められている人材ではなく、おそらく周りから必要とされてこない人生だったのだろう。虐められていたなんてこともあるかもしれない。そんな環境で生活していれば、性格も弱々しいものになってしまうということか。まあ、俺としては本来の魔法使いのような性格ではなくて命拾いしているわけだが。
「じゃあ、何が出来るんですか? 攻撃が出来ないのは分かりましたけど、そうではないのなら、どんな魔法が使えるんでしょうか? シンプルな興味でしかないんで、別に見せたくないなら良いですけどね」
「えと、畑とか、あ、ありますね。あれに魔法をかけてもいいですか?」
と、指差す先には家庭菜園規模の畑。まだ軽く芽が出たばかりの小さなそれに魔法をかけようとしているらしい。
言われるよりも見せてもらった方が分かりやすいかと思い、俺は許可を出すと、魔法使いは畑に近寄って、腰に差していたステッキを取り出し、軽く一振り。すると畑から芽が出ていた作物たちがキラキラと小さく輝いた。
「何をしたんですか?」
「はい、一日虫が近寄れなくなる魔法をかけました。これで明日は害虫の処理をしなくても大丈夫です」
俺たちはその言葉を飲み込んで、ゆっくりと考え込む間、一つも言葉を交わすことはなかった。が、ガッシュに目を向けてみれば間違いなく俺と同じ意見を持っているであろうことは見てとれた。
「採用。これからずっとこの開拓地にいてください」
「え? え?」
こんな有用な人材、決して手放してなるものかと、俺は深く頭を下げたのであった。彼女が困惑しようともお構いなしに。
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