第3話 場違いな魔法使い

 夕飯の支度をするため、火を起こしていると、家から魔法使いが出てきた。

 元気というわけではないだろうが、腹は減っているのは間違いないわけで、それで起きてきたのだろう。今もまさにぐーぐーとお腹を鳴らしていることからも間違いはなかった。それに恥ずかしそうに顔を赤くしているみたいで、俺たちが警戒するような初対面ということはなくてほっとした。


「起きましたか。どうですか、豪勢な料理なんてものは出来ませんが、軽く焼いたものならどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 と、俺が手渡すのは串焼き。渡されたそれを見て、じっとしたまま固まって動かない。実はお腹が空いていなかったのだろうか。


「あの、これはなんですか?」

「串焼きです。美味しいですよ。それともお腹空いてないですか?」

「あの、お腹は空いているんですけど、それとは別に、これは何の肉なんですか?」

「トカゲの肉ですよ。丸焼きなんで形丸々残ってますけど、普通に食べられます」


 俺も一口食べる。焼き加減としてはちょうどよく、中までしっかりと火が通っている。たまに捕まえられたら食べている、いつもの味である。今日は少し贅沢な夕食だが、これが贅沢だと思われるのもなんだかと思い、それは言わないでおいた。

 魔法使いはひどく顔を歪ませて、ためらう様子を見せていたが、覚悟を決めて口に含んだ。そして、嫌そうな顔一つしながら食べ切った。


「お、美味しかったです」

「それはよかったです」


 明らかにそうは思っていないが、吐き戻すなんてことをしなかったので、俺はそれに敬意を示した。

 もし、傲慢な魔法使いであればこれを出すことはしなかっただろう。この短い時間で彼女は危険な人間ではないとカテゴライズ出来たという証明でもある。

 と、果物と薪木を持ってガッシュが帰ってきた。それに魔法使いが警戒心を持った目で見つめてくるが、首元の首輪で俺の奴隷であることを認識すると、こちらに顔を戻した。


「所で、なんで魔法使いなんて身分の方がこんな森の奥深くで倒れていたんですか?」


 やはり、本題を切り出さないと。俺は藪蛇になることも覚悟して、質問をした。倒れているということは、間違いなくここに来ることを望んでいたわけではないだろう。そうであれば何かしらの準備はあるだろうし、見るからに着の身着のままといった感じである。


「えと、あー。•••わたし、魔法使いの学校で落ちこぼれだったんです。だから、どこも雇ってくれなくて、都市部で無職で生きていけるほど甘くはなくて、追い出されちゃって、その、あてもなく彷徨っていたんです」

「魔法使いが雇ってもらえないなんてあるか? 軍に雇ってもらえるのが大多数だし、そうじゃなくても商会の護衛なんてものも常に募集しているはずじゃないですかね。うちの村に来ていた行商人ですら雇いたがっていたはずですよ」


 そう、魔法使いというだけで絶対に何処かには雇ってもらえる。それなのに、無職でいるなんて、よっぽど仕事を選り好みしていたのか、それとも彼女自身に何か大きな問題があるのか。

 ただ、犯罪者とかではなかったことは安心材料であった。そんな危険人物を助けたなんて、そんなことになれば俺たちの命も危ないし、この周辺の街や村に住んでいる人たちにも危害がいく可能性だったある。そこには俺の家族もいるのだ。

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