第2話 倒れている人

 ガッシュに薪木を取りに行かせて、俺は収穫物を将来的に入れるように、籠を新しく作っていると、ガッシュがさっさと帰ってきた。つい先ほど行かせたので、こんなに早く帰ってきても、そんなに集められていないはずだ。となると、何か問題が起きたわけで、俺は慌てて彼に近づく。

 怪我でもしていれば、ここには医者もいないし薬師もいない。待っているのは死であり、村よりも怪我に対しての危機というのはあった。


「どうした? 怪我でもしたか?」

「違います。少し行ったところにこの人が倒れていたんです」


 と、木の影に人が横たわっていた。死体かと一瞬顔を顰めるが、それらしい不快な臭いがしているわけではないので、どうやらまだ生きているらしかった。

 顔を覗き込んで見れば、それは女の人で胸元につけられているバッジは魔法使いを表すものである。


「攻撃とかしたわけじゃないよな。怪我もしていないし、熱もないから病気じゃない。ガッシュ、最初は意識があったりしたか?」

「いえ、見つけたときにはもうすでに地面に倒れていまして、意識もありませんでした。呼びかけに反応しなかったので気絶していると思いまして、ここまで運んできた次第です」

「そうか。まあ、近くで死なれるよりはマシか」


 俺の出身の村には魔法使いなんていなかったので、目にしたのは初めてだが、魔法使いがどういう存在かなんて子供の頃から聞かされる。少なくともこんなところに一人で来るような身分の人間ではないのは間違いない。

 なんだか厄介そうな案件ではないだろうかと不安になるが、それでもここで放置なんてしていたら、それこそ俺たちの身が危ない可能性すら有り得た。

 魔法使いの怒りに触れた人間が柱に吊るされて火炙りにされたなんて話を噂で耳にするほどで、中には貴族ですらも恐れて、大人しくなるような、そんな危険な人間の集まりだという話もあるくらいだ。

 しばらく唸るように悩んでいたが、それでも全く良い案が浮かび上がるなんてことはないわけで、それならば人としてやらなければならないことをするしかないと思い至るのであった。


「仕方ないな。ガッシュ。家の運ぶぞ」

「大丈夫でしょうか。雨風は凌げるとは言っても、みすぼらしいことには変わりないので、それで怒ったりしたら•••」

「そもそも、こんなところまで何が目的かわからないが、歩いてきているんだからたかが家がボロっちいくらいで怒る気力なんてないさ。いざそうなったら今日が命日ということで、二人仲良く天国行きになるだけだしな。あの世でも楽しくしようぜ」


 そう、ガッシュにも、俺にも言い聞かせるようにして、彼女を家の中に運び入れる。出来ることなら、彼女を保護して何か危険な目に遭わなければいいが。

 そうして、ボロボロなベッドに寝かせる。木で作ったカチカチベッドだから、地面とそんなに変わりはないが、シーツだけは敷いているので見た目はそれっぽい。


「ご主人様。いくらこの人が美人だからと襲ってはいけませんよ」

「いや、俺をなんだと思っているわけ? 俺だって流石にいっときの欲望で魔法使いを襲おうなんて思わないよ。ほら、さっさと薪集めの続きだ。早くしないと凍えながら眠ることになるぞ」


 確かに見るからに美人であり、少し見つめてはいたが、気の迷いがあったとしても魔法使いになんて手を出す愚か者なんて、どこの世界にいるというのか。人間の尊厳を失いながら死ぬことだけはしたくはない。理想の死に方くらいはある。

 そうして、再びガッシュを薪集めに行かせる。俺もまた、作業途中の籠作りを再開するのであった。

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