開拓地は人手が足りない
海沼偲
第1話 二人と開拓地
森の奥深く、少しひらけたところに掘っ立て小屋が一つ。その周りには家庭菜園と呼べる程度の小さな畑があり、建造物らしきものはそれくらいしかなかった。
その家庭菜園を俺と奴隷のガッシュの二人で手入れしていた。この場所で暮らしているのはその二人が全てであり、それ以外は一人として寄りつかないような場所なわけであった。
なぜこんな人っこ一人来ないような森の奥深くに住んでいるのか。それは俺が次男だからだというのが大きな理由としてあった。
俺はここから一番近い村の村長一家の次男として生まれたが、俺が過ごしていた村は貧乏で小さな村だった。そんな村の跡継ぎとして長男がおり、俺に分け与える財産なんてそうなかった。他の村の婿養子の話も特産品もない貧乏村なんかには来なかった。
となれば、新たに俺の土地を開拓して、自分のものにするという選択しかないのである。それか冒険者となり戦いの世界に身を置くくらいだが、俺には戦闘能力なんてないので、こうして土地を拓くことくらいしか選択肢はなかったと言えるだろう。
これは別に俺が特別不幸というわけではない。次男以下の男なんてこのぐらいの待遇が当たり前なのだ。女であればどこかの家に嫁入り出来ただろうが。俺がイカれた人間であれば兄を殺して俺が村を継ぐなんてこともしただろうが、兄弟の仲は良く、そんなことで大切な家族を殺そうなんて、俺にはとても出来ることではない。後をついだとしても村は貧乏なわけで、どうして貧乏な村を手にするために仲のいい兄を手にかけなければならないのか。
そんな俺が両親からもらうことができたのは、一月分の食料と奴隷を一人。これは、世間的にはかなりの量であり、俺がどれだけ愛されていたのかということと、貧乏村でこれを捻出するのはどれだけ大変であったかを考えると涙が出てくる。村を出発するときには、家族四人で抱き合って別れを告げほどなのだ。
思えば、村に残る選択肢はあったのか。いや、なかっただろう。残っても兄の雑用として木っ端な仕事ばかりをする人生は俺が受け入れられない。たとえ、兄を慕おうがそんな未来は嫌だ。そんな男に嫁に来てくれる女もいるわけがないしな。だからこそ、こうして村を出て森の奥で開拓しているわけであるし。
だが、そんな強く、そして俺の数少ない我儘を家族の愛にもよって叶えてもらって、そうしてこうも今まで生きているわけであり、それを一番感じられるのがガッシュの存在であり、少なくとも俺が今まで死なずに生きて来れた一番の要因であった。
貧乏村の次男以降の男はみなこれ以下の境遇ということまあり得るという話で、俺はかなり恵まれている。中には本当に兄弟で殺し合う殺伐とした村もあるそうだし、そうではないことに神様に感謝して生きている。
とはいえ正直、こうして家を出された男たちがどんな人生を歩んだかを言えば、俺の命もいつ無くなってもおかしくないと、毎日震えながら過ごしている。どれだけ貧乏の中では頑張った方とはいえ、足りるわけではない。家族とは今生の別れだと思って離れたのだ。でなければあれほど感情的にはならないということもあった。
今こうして生きているのはただの男としてのプライドだけでしかなかった。強がりと、村として栄えて、いつかは家族に見せびらかしてやりたいという、ちっぽけな夢が俺の一日の活力を搾り出してくれる。
ただ、掘っ立て小屋、竪穴を掘ってその上に木の枝や藁で組み立てたチンケな家であろうとも、住むところはあり、服は家から持ってきたものを丁寧に使い回しているし、食料は村から持ってきたものもまだ残っているし、近くに果物がなる樹木がそこそこ生えていた。おかげで、一月経過して、まだ元気に過ごせている。また、家族の顔を見る。いずれ嫁と子供でも連れて行けば、もっと喜んでもらえるかもしれない。希望で不安を押しつぶして、今日も生きていた。
「ご主人様、今日の雑草抜きも終わりました」
「ああ、ご苦労。ではそろそろ昼ご飯にしようか」
ガッシュはよく働く。彼に何かしらの形で報いたいのだが、今の俺にはなんの資産もない。そこがもどかしい。いつか、お金を稼げるようになったら、彼の嫁となる奴隷を買ってきてやりたいと思っているのはここだけの話である。
そんな最近になって慣れつつある、ありふれた一日が続いていくのであった。が、このままでは、今日を生きるのに精一杯というのも間違いなかった。
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