第7話 私と有栖
「それで、こんなところに呼び出すなんてどういうこと?」
事件のあった次の日、私は有栖をあの空き教室に呼び出した。
「昨日、うちの店に来たでしょ」
「ええ、行ったわ。それがどうかしたの?」
「あんたたち、ぐちゃぐちゃにしていったでしょ」
「なに言ってるの?言いがかりはやめてちょうだい。私たちはただお菓子を選んでただけよ。あまりにおいしそうだったから少しはしゃいじゃったけど」
へらへらして癇に障る言い方だ。やっぱり有栖たちだったんだ。
「なんでそんなことしたの?おばあちゃん、しばらく店を開けられないって困ってるんだから」
「そんなの知らないわ。私には関係ない話でしょ」
「関係あるよ!あのお店の稼ぎで暮らしてるんだから!どうしてくれるの?謝罪の一言もないわけ?」
「だって、そんなことになるなんて知らなかったんだもん。悪気がなかったんだから、許してくれるでしょ?」
ダメだ、反省の色がまるでない。ふざけた態度にはらわたが煮えくり返りそうだ。
「それだけじゃないでしょ。結衣にも嫌がらせをして」
「かわいいからちょっといたずらしてるだけよ。いやがらせなんて人聞きが悪いわ」
「いたずらってほどじゃないでしょ!こっちは迷惑してるんだから、やめてくれる?」
「なによ、せっかく楽しく遊んでいるのに、つまらないわね。だったら、あなたが私と遊んでくれるの?」
「それは…」
時を刻む音が頭の中をかき乱してくる。そのせいで口に出すべき答えがなかなか出ない。
「もう話は終わり?それじゃあ私、帰るから」
そう言って有栖は教室から出て行ってしまった。
「結局何も解決しなかったな」
悪魔が残念そうにつぶやいた。
「でも、何もなくてよかったです。あの場で何かあったら止める人はいませんからね」
天使が落ち着く声で言った。
「なにもなかったわけじゃない。私はこれを用意してたから」
私はポケットからスマホを取り出した。
「さっきの会話録音しておいたんだ。昨日、うちの店に来た女子高生は一組だけ。有栖が私の店に来たって自分で言ってたからこれが証拠になるはず」
「それがあれば何かしらの制裁は下されるはずですね」
あとはこれを警察に渡せばきっと捕まえてくれるはず。急いで家に帰っておばあちゃんに伝えよう。
「ん?あれは…」
道の先には先に帰った有栖の後ろ姿があった。スマホをいじり、ヘッドホンをしてとぼとぼ歩いている。
私のほうが歩くスピードが速かったから追い付いたみたいだ。このまま追い越すのも気まずいから歩くスピードを落として有栖の後ろをついていく形になった。
「…遅いぞ!なんでこんなに遅いんだ!日が暮れてしまうぞ」
しびれを切らした悪魔が大声で叫びだした。
「耳元で大声出さないでよ。私だって我慢してるんだから」
「それにしても、ふらふらしてて危なっかしいですね。見てて心配になります」
さっきからずっと右へ左へ揺られながら歩いている。前はちゃんと見えてないだろう。
いらいらしながら歩いていくと信号のない横断歩道が見えてきた。前からトラックが来ている。にもかかわらず、有栖はその横断歩道を渡り始めた。
「ちょっと!何してんの⁉」
私は走って有栖を追いかける。その私の手を悪魔が引っ張った。
「お前こそ何やってるんだ!トラックもスピードを落とす気配がないしもう間に合わないだろ」
「何もせずに轢かれるのを見てろっていうの?」
「あんな奴、別に助けなくてもいいだろ。いろんな人にひどいことをしてきたんだ」
「それとこれとは話が別です。助けないなんて人としてどうなんですか」
「自分の身を危険にさらしてまで助ける必要ないだろ」
「人の命がかかってるんです。助けないと大変なことになりますよ」
「いいだろ!あいつがちゃんと注意しないのが悪いんだ。あんな奴ほっとけよ」
「もううるさい!」
私は悪魔の掴んでいる手を振り払って走り出した。
シャドウの真ん中にいる有栖を前に突き飛ばす。その瞬間、全身に激痛が走り、体が空に投げ出された。
いろんな人に声をかけられているような気がするけど意識が朦朧としてきてなにがなんだかわからなくなってきた。
誰の顔かもわからなくなってきたとき、一つだけ笑っている顔があったような気がした。
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