第6話 攻めと守り

それから結衣は陰湿な嫌がらせを受けるようになった。


私は結衣が直接手を出されないように登校から下校までつきっきりになった。じゃないと次なにされるかわからない。


「ねえ、これからどうなっちゃうんだろう?」


「大丈夫だよ。結衣は私が守るから」


「でも、もしかしたら紬にも何かしてくるかもしれないよ」


「1人でいるより2人でいた方が安全だし、心強いでしょ。それに友達を見捨てるようなことはできないよ」


結衣は申し訳なさそうにしているけど、何もしないで友達を失いたくはない。


先生に話して注意はしてくれたみたいだけど、それでも懲りずにやってきている。


私にできることは一緒にいてあげることぐらいだ。


「それじゃあ、今日もありがとね」


「うん。また明日」


結衣を無事に家まで送り届けた。この生活は苦ではないけど毎日が不安に襲われる日々が続くと思うと気が気じゃない。


向こうがあきらめるまでこれで耐えるしかない。


「どうだろうな。このまま引き下がるとは思えないけどな」


「どういうこと?」


「簡単に暴力を振るおうとしたやつだぞ。きっと何かしてくる」


「なんでそんなことが言えるの?」


「おれは悪魔だからな!悪いことは大体わかるんだぞ」


ここぞとばかりに悪魔アピールしてくる。


確かにあそこまでやろうとしている子がこれで終わるとは思えない。私が途中で止めに入ったし、かなり鬱憤が溜まってるだろう。


「警察に相談するのも1つの手でしょう。その方が被害が最小限になるんじゃないですか?」


「だめだよ。警察は何か起きてからじゃないと動いてくれない。今はいやがらせしかされていないし、誰がやったのか証拠もない。助けてくれるとは思えないよ」


やっぱり私にできることはない。


考えれば考えるほど自分の無力さを感じる。そうしているうちにいつの間にか家に帰り着いた。


「ちょっと…なにこれ…」


私の目に飛び込んできたのはぐちゃぐちゃになった店内だ。棚に並べてあるお菓子がバラバラにされ、床に落ちているものもある。


その中でおばあちゃんが1人、片づけをしていた。


「おばあちゃん!何があったの⁉」


「おや帰ってたのかい。お客が暴れてしまってね。あたしはこの年だからねえ、止めることができなくてやりたい放題されたよ」


「おばあちゃんは大丈夫だった?怪我してない?」


「あたしは大丈夫だよ。だけど店がこれじゃあしばらく商売はできないねえ」


「警察には通報した?」


「ああ、もう少しで来るはずだよ」


数分後、警察が現場にやってきた。いろいろ調べてくれたが、うちの店には監視カメラがなく犯人を特定することができなかった。


わかったことは女子高生らしき人数名の犯行だということだけだった。警察は調査を続け、犯人が分かり次第連絡すると言って帰っていった。


「おい、もしかしてあいつらじゃないのか?」


「そうですね、ほぼ確定でしょう」


「私、許せない。おばあちゃんの店にまで手を出すなんて」


心の底から熱いものがふつふつとこみあがってくるのを感じる。今まで我慢してきたものが爆発しそうだ。


「おい、どこに行くんだ?」


気がついたら足が勝手に動いていた。


「わからないけど、あいつを探し出さないと」


「探してどうするんだよ」


「それは…」


そこから先の言葉が出なかった。冷静になると何をしたかったのかわからない。


「どうすればいいんだろう?」


「警察も動いてくれていますし、解決してくれるまで待ちましょう」


「ダメだ。ここは一発ぶちかましてやろうぜ。抵抗しないとずっとやってくるだけだ。ほかの人に何か言われても説明すればわかってくれるさ」


一発ぶちかますって言っても、どうすればいいんだろう?犯罪になるようなことはしたくないし、やっぱり周りの大人が動いてくれるまでおとなしくしておく方がいいのかな?


結局、答えを出せないまま夜が更けてしまった。

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