第5話 私と結衣

「ええ!また告白されたの⁉」


ある昼休みの時間、結衣からとんでもないニュースを聞かされた。


結衣はそのおしとやかさで男子からかなりの人気を集めている。この話ももう3回目だ。


「それでどうしたの?」


「うーん、よくわからなかったし断っちゃった」


結衣はいままでいろんな男子からアプローチを受けてきたけど、あまり異性に興味がないみたいで全部断っている。


「試しに誰かと付き合ってみてもいいんじゃない?」


「私そんなにいい女じゃないし、期待に応えられなかったら申し訳ないじゃん」


なんて謙虚なんだ。私だったらうれしさのあまり一発でOKを出してしまうけど。


「結衣がいいならいいけど、怖い目に合っちゃうかもしれないよ」


「大丈夫だよ。今のところ何も起こってないし。あ、チャイムなっちゃった」


気がついたら昼休みが終わってしまった。私たちは次の授業の準備をするために席に戻った。




その後の授業もなんとか終えることができた。今日出された課題は一癖ありそうだから静かな図書室でやることにした。


苦戦しながらもなんとか課題を終わらせ、窓の外を見ると空が赤く燃え上がっていた。


「もうこんな時間か。早く帰らないと」


ノートや筆記用具を無造作にバッグに詰め込み、急いで靴箱に向かう。


靴箱にはもう数人分の靴しかなかった。そこには結衣の靴があった。


「まだ結衣残ってたんだ。だったら一緒に帰ろうかな」


手に持った靴を再び靴箱にしまい、校内を探すことにした。


私たちの教室、保健室、中庭、いそうな場所を片っ端から見て回ったけど、どこにもいない。


どこで何してるんだろう?ほかの場所も探してみよう。


まだ探していない場所をぶらぶら歩きまわっていると、普段使われていない教室から物音が聞こえてきた。


気になって窓からのぞいてみる。


中には結衣が数人の女子に囲まれている。何をやってるんだろう?


「どういうつもりなの?私の男を誘惑して。調子に乗ってるんじゃないの?」


「そんなこと言われても、私何もやってないよ」


結衣がうちのクラスで有名な悪いグループのリーダー、川口有栖ありすに詰められていた。


「そんなわけないでしょ。私のほうが仲良かったのに、何であんたが告白されてるのよ。意味わかんない」


「私断ったし、もしかしたらチャンスあるかもよ」


「はあ?私をばかにしてるの?自分がいろんな人から告白されてるからって余裕ぶってるんでしょ。そういうところが前から気に入らなかったのよ!そうだ、その顔をぐちゃぐちゃにすれば私が1番になるでしょ」


有栖が結衣に詰め寄っていく。


このままだとまずい。助けに行かないと。


そう思ってもなかなか足が動かない。


「おい、どうしたんだ?」


固まっている私に悪魔が話しかけてくる。


「結衣を助けたいけど、怖くて体が動かない…」


「だったら今すぐ職員室に行って先生を呼んで来よう。その方が安全だしすぐに止めてくれる」


「確かに、ここは大人を頼った方がよさそう」


「ここから職員室まではかなり遠いです。呼びに行っても間に合わない可能性が高いです。何をされるかわかりません。今すぐ止めに行かなければ」


今度は天使が話しかけてきた。


「私が行くの?人数も多いし無理だよ」


「きゃっ!放して!」


もう一度教室を覗くと有栖が結衣を壁に押し付けている。今にも殴り掛かりそうだ。


とっさにドアに手をかける。


「行っちゃだめだ!お前も目を付けられるぞ!」


悪魔の声にドアを引こうとしている手が止まる。


「早く行かないと手遅れになります」


そうだ、今結衣を助けられるのは私しかいない。意を決して思いっきりドアを開けた。


みんなが驚いて私に注目する。アリスもとっさに振り上げた手を引っ込める。


「…結衣!ここにいたんだ!早く行かないとお店しまっちゃうよ」


結衣の手を引いて教室を出る。顔を見ないようにしていたけど一瞬にらまれたような気がしたけど、その場から逃げた。

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