第3話 帰宅とボール
やっと終わった地獄の時間。さすがにもう我慢の限界だ。今ならどんなものでも食べられそう。
下校のチャイムが鳴った瞬間、教室を出る。まっすぐ家に帰って家に取り残された弁当を私が受け入れてやるんだ。
そんな思いで帰路を急ぐ。
「うえーーーん!」
公園の横を通りかかったとき、子どもの泣き声が聞こえた。公園を覗いてみると、どうやらボールが木の上に引っかかって取れなくなっているようだ。
「大変です。あの高さは子どもだと取ることは難しいでしょう。周りに人もいないみたいですし、助けてあげましょう」
「なに言ってんだ。ボールなんてどうでも…っておい!」
私はバッグを地面に放り投げ、木に登る。そして枝に挟まっていたボールを叩き落とす。
「やったあ!お姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。ボールで遊ぶ時は気を付けるんだよ」
顔に着いたままの涙をハンカチで拭ってあげる。
ぐぅーーーっ
ここにきてお腹の化け物がうなりだした。もう限界だ。全身の力が抜けていく。
どうしてこんなにカッコつかないのかな?
「お姉ちゃんお腹空いてるの?だったらこれあげる!」
男の子はポケットからクッキーを取り出した。
「僕のおやつだけどボールを取ってくれたお礼にあげるよ」
男の子が持っているクッキーは宝物のように光輝いて見えた。喉から手が出そうになっている。
取り乱しちゃだめだ。冷静を装ってそのクッキーを受け取る。
「ありがとう。君、優しいんだね」
軽く頭をなでると男の子は顔を赤くしてはにかんだ。
男の子に手を振り、公園を後にする。
「おい!せめておれの話ぐらい聞いて行けよ」
悪魔が拗ねてほっぺを膨らましている。
「あんなの、あんたの意見を聞くまでもないじゃん。助けない理由なんてないよ」
「その通りです。あなたの行動、とても素敵でしたよ」
天使が横からほめてくれる。でも、誰が何と言おうとあの行動をとっていただろう。
さっきもらったクッキーをほおばる。砂糖の甘さとバターの香りが口いっぱいに広がって心も満たされる気分がした。
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