第2話 お昼ご飯とダイエット

学校に着くと1時間目はすでに始まっていた。社会の優しい先生だったから軽く注意されるだけで済んだ。


急いで席に着き、すでに書かれている黒板の文字を必死にノートに書き写す。


ノートに書きなぐっているうちに終わりのチャイムが鳴り響いた。走った時の疲れがどっとあふれてきた。


「ほら、たいへんだっただろ。だからやめておけって言ったんだ」


「この大変さを持ち越すことがなくなったんです。よく頑張りましたね」


「ふんだ。今頑張らなくても後でゆっくりやることもできたのによ」


「誠実に生きることができたんです。素晴らしいじゃないですか」


「やめてよ疲れてるんだから。静かにしてて」


耳を塞いで煩わしい言い争いを遮断し、机に突っ伏した。


そのまま何事もなく午前の授業を乗り越え、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。朝はごたついたけど何とかなってよかった。


「今日は大変だったね、つむぎ


いつも一緒にいる幼馴染みの結衣ゆいが話しかけてきた。


「そうなんだよ。朝からあんなに走らされるなんて…」


「まあ遅刻なんて出れにでもあることなんだし、そんなに気を落とさないで大丈夫だよ。そんなことより早くお弁当食べようよ」


そうだ、今は待ちに待ったランチタイムだ。早くおいしい弁当を食べて今朝のことは忘れよう。


私と結衣の机を向かい合わせに並べて座る。そして、バッグの中から弁当を取り出す。


「…あれ、ない」


バッグの隅々まで漁っても弁当と思わしき手触りのものは何もない。


もしかして急いで出てきたからバッグに入れるのを忘れてる?売店で何か買ってもいいんだけどお小遣い少ないし、どうしよう…


「目の前のやつにもらえばいいじゃないか」


ここぞとばかりに悪魔が語り掛けてくる。


「空腹のまま過ごすのはつらいだろ。友達から借りてご飯を食べた方が身のためじゃないか?」


「いけません。借りるのはやめておきましょう」


今度は天使が話しかけてきた。


「ご友人に迷惑をかけるのはよろしくないです。自分が起こした失態なのですから我慢しましょう」


「たった一言お願いするだけだ。優しそうな友達だし、別にいいだろ」


「返せる見込みがないのに借りてはご友人の信頼を損ねてしまいます。何とか放課後まで耐えましょう」


うう、どうしよう。結衣に気を遣わせるのも嫌だし、我慢するしかないか。


「どうしたの?お弁当食べないの?」


なかなか弁当を出さない私を不思議がっていた。


「それが、朝慌ててたせいで弁当忘れちゃって。お金もないし我慢しようかなって」


「そうなの?だったらお金貸してあげるから何か買ってきなよ」


「大丈夫だよ!ちょうどダイエットしようって思ってたし」


「でも、何か口に入れた方がいいよ。よかったらこれでも食べて」


結衣はバッグから飴を取り出して私にくれた。


「お腹は膨れないと思うけど、ないよりマシでしょ。これ食べて頑張って!」


「あ、ありがとう!」


早速口に飴玉を投げ込む。口の中いっぱいにイチゴの味が広がっていく。朝から何も食べていなかったから余計甘く感じる。無駄にしないように最後まで舐めて飴玉を堪能した。


そして5時間目が始まった。何とか耐えていたがやっぱり飴玉1つじゃ足りなかった。


まだ時間はたっぷりある。耐えろ、私のお腹!


頑張ってお腹に力を入れていたら、お腹の音が教室中に響き渡った。クラスメイトが犯人探しにそわそわしている。


こんなことならお金を借りてご飯買ってくればよかった…

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