出会いもあれば別れもあり

 ここはクライデ大陸でも『ネルザ』と呼ばれる地域らしい。東京とか千葉とか埼玉とか、そういった〝都市〟がクライデ大陸にもあって、そのうちのひとつなのだと、客のうちの一人が困り顔の俺に教えてくれた。


「次はレマクルに行くぞ!」


 ケーキを持ってきてくれたサナエという女性――黒髪ロングで清楚系の見た目なのに、中身はエネルギッシュな体育会系のノリのメイド服をお召しの女性だった。いくつなのかは知らないけど、学生じゃあなさそう。学生時代は相当モテてそう――と歌って踊ってはしゃぎまくっていたモアだったが、急に次の目的地を宣言した。


 レマクル。また聞いたことのない地名だ。そりゃあまあ、クライデ大陸自体が初めて聞いた場所なのだから、地名もまた聞いたことのないものであってもおかしくないけどさ。


 見た感じ、メニューは日本語で書いてあるし、サナエさんは日本人っぽいし、なんだかテーマパークに来た感覚なんだよな。テーマパークって、日本の中にあるけど日本らしくなく、その作品のテーマに沿った世界観を頑張って造り上げてるけど、看板とかメニューとかは日本語が併記されてるもんじゃん。そこを現地語にしちゃうと、客が理解できねぇから。


「もう出ていくの? サナエ、さみしい!」


 サナエさんがモアの胴体にがっしりとしがみついていて、名残惜しそうに頬擦りしている。もう、っていうか、ここに来てからだいぶ経っているような気はするんだけどな。当事者たちにはあっという間だったのかもしれない。楽しい時は過ぎるのが早く、退屈であればあるほど時計の進みは遅く感じる。


「今回の滞在には制限時間が設けられていてな……」

「なにそれ」

「我らはクライデ大陸の住民ではないゆえ、制約があるのだぞ」

「そうなの?」

「うむ。日没までには帰らねばならぬ」


 門限みたいだな。


「誰が決めたのさ」


 純粋に気になったから聞いてみただけ――宇宙の果てからの侵略者とそんな取り決めができるような人が一体何者なのか、興味がある――なのに、モアは『俺がクライデ大陸を気に入った』ものだと判定してしまったらしく、口をへの字に曲げて「タクミがクライデ大陸に永住したいのなら止めないぞ! 我は一人でも帰る!」と言われてしまった。


 さっきまでご機嫌でダンスしていた人とは思えない発言だ。まだミートボールスパゲティを食べただけだけど、美味しかったし、周りの人とも日本語が通じるから不便さもないし、いいなって思うけどな。住むとは別にしてね。お国柄っていうの?


 住むとなったら家賃とか物価とかそういう問題があるから、その辺を調べないといけないよな。だから今ここで即決ってわけにはいかない。永住ってそういうもんじゃん。


「じゃ、おにいさんはもーらいっと」


 モアをホールドしていたサナエさんがモアから離れて、今度は俺の背中に抱きついてきた。正面からは来てくれなかったけど、これはこれで……


「あげないぞ!」


 前門のモア、後門のサナエ。


 可愛い女性に挟まれる経験なら何時間あってもいい。が、サナエさんが「ちぇっ」とつまらなそうに剥がれていった。五秒ぐらい。


「まー、また来ておくんなまし!」

「うむ! 今度はタクミだけでなく、我の友も連れてくるぞ!」

「いつでも何人でもウェルカムよん」

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