第2話

最近橋本さんとよく会う。というより、よく見かける。

入学式の日、隣のクラスだということもわかり、絶対に話しかけようと思っていたのに、明日こそは明日こそはと言っているうち、結局話しかけられないまま、今に至ってしまった。隣のクラスだけど、橋本さんと共通の友達がいるわけでもないし、わたし自身目立つキャラでもないので、わたしの名前は知らないと思う。まずまず、

認知すらされていないかもしれない。もしそうだったら、それを知った日は一日中鬱状態になると思う。



わたしの名前が奇抜な名前だったら良かったのになーと思う。わたしは、加藤 凜かとう りん。別に自分の名前を一度も不満に思ったことはないけど、苗字も下の名前も、なんというか、印象に残るほどのものではない。


「あ」


ぼーっとそんなことを考えていたら、橋本さんを見かけた。学校外で見かけるのは初めてだ。つまり、橋本さんの私服姿を見るのも初めてだ。

デニムのミニスカに、白Tというシンプルな服なのに、

とてもかわいい。しかもふわふわのポニーテールも

とても似合っている。


けど、橋本さんの隣には、彼氏さんがしっかりといらっしゃっていた。彼氏さんも、橋本さんとペアルックで、デニムのジーパンを履いていて、本当にお似合いのカップルだなぁと思う。2人ともスタイルが良くて、かっこいい。


「あ」


橋本さんと目が合ってしまった。やばい。見過ぎてしまった。

と今更ながらに後悔していると、なぜか橋本さんがこっちに向かってくる。

走ってきてる。


「え」


絶対に気持ち悪がられたうえに、注意しに来てるよねこれ。どうしよう、やばいやばい


「ねねー!1組の加藤さんだよね!2組の橋本っていうんだけど、1組にさ、町田って子いるじゃん?」


「え、、、あ、いるいる!!」


「だよね!その子にこれ渡して欲しいんだよね、ほんとにごめんなんだけど、てか嫌だったら全然いいんだけど!!」


といって橋本さんがおしゃれなディオールの黒バッグから出したのは、


「、、モバ充?」


「そうそう!!これ珠理奈のやつなんだけどさ、昨日みおのいえに忘れて行ったぽくて、明日みお学校休むから渡せなくてさぁ、あほんとに嫌だったらまじ断ってくれていいんだけど!!!」


珠理奈_____町田さんは全然話したことないし、なんならこんなこと思うとか失礼すぎるけど、、ザ一軍すぎて話しかけるのがちょっと怖い。

けど、橋本さんのお願いだ。そして橋本さんの初会話。そんなの答えは一つに決まってる。


「いいよ!明日朝学校に着いたらすぐ渡すね!」


「え、ほんとに!?まってほんとにごめんね、まじでありがとう」


と言って、橋本さんはわたしに町田さんのを手渡した。

だけでなく、そのままモバ充を持ったわたしの手ごと両手で包んで


「ほんとにありがとう、初めて話したのにこんなお願いしちゃってほんとにごめんね」


と、ほんとうに申し訳なさそうに言った。


わたしは芯から熱っていく感覚がバレないことを願いながら


「ぜ!全然大丈夫!!そんなに気にしないで!大したことじゃないからさ」


と平静を装った、装えた?かな


「ほんとにありがと、、あごめんちょっと呼んでるからもういくね、ほんとにありがと!!よろしくです!」


と言って、橋本さんは愛らしい笑顔で敬礼のポーズをしてから、高めのポニーテールを揺らして、厚底のヒールを鳴らしながら彼氏さんのところに戻っていった。

頭の中が真っ白で、多分ちょっと手も震えているけど、

思うことはひとつ。


なんて罪深いおんなのこなんだ、

あと、とてつもなくいい匂いもした。



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