第30話 薬


「おかえり」

 桐生院は何も知らずに座って出迎えた。

「ただいまだこの野郎」

 怒った俺は机を蹴り飛ばした。

「俺が悪かったよ」

「当たり前だ!最後の生き返りの薬がなかったら一生後悔してたぞ」

「誰か死んだのか?」

「鈴木さんがな」

「生き返ったのか」

 みりゃわかんだろ。

「あぁ」

「すまなかった」

「いいですよ」

「もう作るなよ」

 あんなダンジョン二度とごめんだ。

「アァ。誓って」

「ならよし。あー疲れた」

「ごめんな鈴木」

「本当ですよ!死んだ時はもうダメだと思いましたし」

「本当にごめん」

「もういいですよ」

 土下座をしている桐生院。

 オキヌは白狐に戻って欠伸をしている。

「みんなとりあえず休んでくれ、報告は後でもいいし」

「あー1ついいか?」

「どうした?」

「永遠の命の水が出たぞ」

「それは捨ててくれ」

 即答だったのにビックリだ。

「いいのか?」

「永遠の命なんて要らないさ」

「カッコつけて」

「あはは。ヤマトよりは先に死にたいからな」

「じゃあ捨てよう」

 影収納に入れておく。

「あ。あれは白井さんが使ってくださいよ」

 鈴木さんが俺に言う。

「なにをだ?」

「若返りの薬」

「なに!そんなのも出たのか」

「あるぞ?使うか?」

「いや。お前が使え」

「えー。俺は38でいいよぉ」

「私が使って欲しいんです!」

「いや、とりあえずこのままで良いかな」

「なんでよー!」

 若返りの薬…20歳若返る。

 だから飲めなくなっちゃうんだよねー。

「そんな理由で?」

「桐生院もそう思うか?」

「酒飲み友達がいなくなるのはなぁ」

「だろ?」

「じゃあ40になったら使って下さい」

「へーい」

 忘れそうな気がするが影収納に入れておく。

 さて、それから聖剣なんかはマサキにでも渡すか。

「100階層は疲れたぞ」

「済まなかったな、作ってしまって」

「まぁいいさ、なんとかなったんだから」

「本当に作るのは辞めるよ」

「作ってもいいけど50階層くらいまでにしといてくださいね」

「あぁ」

「さて腹が減ったな」

「よし。夕食に行こうか!」

「えっ!もうそんな時間か」

「あぁ、一回くらい帰ってくると思ったぞ」

「すぐにでも攻略して消したかったからな」

 そうか、そんなに時間がたっていたとはな。

「さて。今日は和食の気分だな、あそこにしよう!」

「まかせるよ」

 夕食を食いながらしゃべる。

「魔石エネルギーは順調なんだろ?じゃあ、あとはダンジョンを要る分だけ消していけばいいんじゃないのか?」

「それが、まだ枯渇するかどうかの検討もしなければいけない」

「あぁ。そうなのか」

「魔石エネルギーが順調にいけば来年からでも運営できるが、どれだけでも出るとは考えられないのだ」

「そりゃそっか。いつまでもダンジョンを攻略できるとは思わない方がいいよな」

「だからダンジョンは大切な資源になるから迂闊に消したりはできない」

「だが増え過ぎも問題になるぞ?」

「そこら辺のバランスを今考えているんだ」

 ダンジョンを消してダンジョンコアを集めるなんてことは…結構きついな。

「で?100階層作ったダンジョンコアはどうなったのだ?」

「ここにある。光がだいぶ弱くなっているな」

「そうだな。それじゃあ今後は少し攻略の頻度を下げるか」

「そうだね。同じダンジョンを攻略するのを少し控えてくれ」

「わかった。まぁ、いっとき休もうと考えてたしな」

「そうなのか?」

「もう38だぞ。いくらなんでも働きすぎだ」

「あはは。そうは見えないから凄いよな」

「どこか旅行にでも行くさ」

「わ、私も一緒ですよね?これでもそれなりに英語なんかは堪能ですし」

「あぁ。鈴木さんさえ良ければお願いするよ」

「ヨシっ」

 その小さくガッツポーズは何なんだ?

「はぁ。うちの部下を取られてしまうとはね」

「ハハッ。まだいっぱいいるだろうが」

「有能な部下はいくらいても足りないくらいだよ」

 そして他愛ない話に移り変わり、俺たちは帰った。


 半年後。

「いやぁ、世界一周は楽しかったな!」

「えぇ!まさか自分が行けるとは思わなかったですよ!」

「あんな国がいっぱいあるんだな」

 俺たちはどこに行くのか決めかねて折角だったら世界一周してみようと世界一周クルーズのたびをしてきたのだった。

 まぁ色々見れたしなかなか刺激的だったな。

 部屋に戻りビールを開けてテレビをつける。

 冒険者がサイキッカーに殺されるという事件が起こったそうだ、サイキッカーってなんなんだ?

「鈴木さん。サイキッカーって?」

「何でも。最近冒険者じゃなくてサイキッカーと呼ぶものが増え始めているそうです」

 サイキッカー、超能力者か…まぁ、そういう意味合いにもとれるな。

 冒険者の不良版か?

「縄張り争いなんかも頻繁に起きてるみたいですよ」

 電話をしてみる。

「まさかマサキ達は関わってないよな?」

『は?あーしラがあんなダサいことするわけないじゃん』

「だよなぁ、おじさんにはついていけないんだが」

『まぁ、普通に冒険者してたらスカウトされるけど無視してればいいと思うよ』

「そうか。あと世界一周してきたから土産を持っていくわ」

『な!何であーし達も誘わないんだよ!いちなぁ』

「楽しかったぞ?行ってくればいいさ、それくらい金はあるだろ?」

『まぁね。でも一言誘えよなぁー!』

「わかったから、今度から誘うよ」

『わかればいいよ。そんじゃお土産楽しみにしてるから』

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る