第42話 混戦 Ⅲ
「おい!何故撃たない!?」
「これは連射できません!交互に撃つことで隙は減らせますが、それでも十秒は必要です!」
激しい戦闘の音が周囲で鳴り響く。
「分かった!その十秒は俺達で稼ぐ!そっちも良いな!?」
「この状況だから仕方が無い!久々の共闘ですね!グロール副隊長!」
俺の名前は……アルフレッド。
これは大丈夫。
レインさん、それにグロールさん。
あの二人……駄目だ……。
レインさんについてきている陽炎部隊の二人。
もう思い出せなくなってきている。
あの矢はかするだけでも駄目なようだ。
「……アルフレッド君?大丈夫ですか?」
「……レインさん。あの矢の影響を受けてしまったようです……。記憶が無くなって来ています。」
「っ!本当か!アルフレッド!」
グロールさんの問いに頷く。
「徐々にですが、分からないことが多くなってきています……。名前が……思い出せなくなってきてます。」
少し頭がぼんやりしてきた。
これも矢の影響か。
「くっ!レイン!呼びかけ続けろ!」
「グロールさん!『ワープ』で安全な所へ行くのは……。」
「駄目だ!こいつらはここで始末して置かなければ!それに矢の保持者なら対処法も知っているかもしれない!」
戦闘を続けながらグロールさんは喋り続ける。
「先程のスロール殿達の攻撃で死んでいたら分からないが、蜃気楼のメンバーならば分かる者も居るはずだ。」
「アルフレッド君!もう少し頑張りましょう!」
「いえ……。」
俺は立ち上がった。
少し足元がおぼつかない。
もしや歩く事や立つことも忘れるのだろうか。
だが、まだ行ける。
「動けるうちに、やります。」
ナイフを握りしめる。
もしかするとこれが最後になるかもしれない。
「アルフレッド君!危険です!」
「っ!レインさん!」
レインさんの後ろから矢が飛んでくる。
それを『俊足』で取りに行く。
そして、投げ返す。
投げ返した矢は壁に突き刺さる。
矢は先程の廃屋から放たれた。
どうやら、矢の保持者はまだ生きているらしい。
「グロールさん。やれるとこまでやります。でも敵中で記憶が無くなれば確実に死ぬでしょう。その時は構わず逃げて下さい。」
「アルフレッド……。……分かった。敵を殺し回ればそれが治るスキルもあるかもしれんしな。援護するぞ。」
俺が今一番気にしているのはレインさんだ。
彼女を死なせたくは無い。
この状況、俺が死ねば全て解決するのだ。
ならば、脅威を全て殺し尽くしてレインさんのために安全を確保しておこう。
それが、今俺が出来る恩返しだ。
……母の顔が思い出せない。
俺は昔、どんな風に虐められていたか、分からない。
あれほど憎しみに満ちていたのに何も思い出せない。
この調子ではすぐにでも記憶が無くなるだろう。
その前に、やれることをやろう。
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