第43話 大事な物

 一体何人殺したのだろうか。

 もはや数えるのはやめた。

 ティルも途中からスキルを奪った報告をしてこなくなった。

 

「……。」

 

 全身が血に塗れ、辺りが真っ赤に染まる。

 ある程度注意を反らせただろうか……。

 ……彼らが無事ならそれで良い。

 いや、彼女等か?

 それも怪しくなってきた。

 名前が……。

 分からない……。

 

「アルフレッド君!」

 

 その声に意識が戻る。

 すると、眼の前に敵が居た。

 その敵の持つ刃の切っ先は俺の目を貫こうとしていた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に躱す。

 だが、披露していた俺の体は反応しきれなかった。

 刃が眼球をかすった。

 

「……惜しかった。あと少しで殺せたのにな……。」

 

 右目を押さえながら相手を見る。

 眼の前の敵。

 何処か見覚えがある気がする。

 あの女は敵の親玉か?

 先程までの奴らよりも遥かに手強い事が分かる。

 

「誰だ……。……まぁ良い全員殺す。」

「もはや私も覚えてないとはね。まぁ良いさ。戦うことすら忘れるまで時間を稼いであげよう。陽炎部隊と君の仲間は放っておいても良い。狙いは君だ。」

 

 すると、その女は煙幕を張った。

 辺りが全く見えなくなる。

 

「……ちっ。」

 

 おぼつかない足どりで前へと進む。

 いや、何処が前かはもう分からない。

 とにかく進む。

 

「アルフレッド君!大丈夫ですか!?」

 

 すると、背後から声が聞こえる。

 その声に反応し、後ろを振り向く。

 

「……敵、か?」

 

 敵なら殺す。

 しかし、その姿を見ても敵意を感じない。

 殺意を覚えない。

 逆に安堵感すら感じる。

 

「……私です。」

「……誰だ。」

「っ!やっぱり記憶が……。」

 

 だが、警戒は解いてはいけない。

 油断を誘って殺す戦法かも知れない。

 ナイフを握りしめる。

 

「レインです!アルフレッド君!思い出して!」

(主様!右の手の平を見て下さい!)

 

 頭の中に響く声。

 それに従い、右手を開く。

 するとそこには「エルフの女性、レインは必ず守れ。彼女を泣かせるな。」と書かれていた。

 顔を上げる。

 

「……っ。」

 

 眼の前のレインと名乗ったエルフは涙を浮かべていた。

 成る程。

 これは俺のメッセージか。

 記憶を失ってもこれだけは守るために。

 

「レイン……さん。」

「っ!思い出してくれたんですか!?」

 

 レインさんが駆け寄ってくる。

 彼女がどういった人物なのか、分からない。

 が、守るべき人なのは分かった。

 俺も近寄ろうとする。

 が、躓いてしまう。

 

「あっ!」

 

 すると、気が付けばレインさんに抱きかかえられていた。

 

「もう、大丈夫です。安全な所へ行きましょう。グロールさん達も待ってます。」

「……。」


 優しく抱き抱えられる。

 その心地よさに目を瞑ろうとする。

 レインさんはそのまま立ち上がろうとした。

 

「……っ!」

 

 レインさんの動きが止まる。

 

「レイン……さん?」

 

 目を開けるとレインさんの腹部から刃が飛び出していた。

 レインさんは俺を咄嗟に庇ってくれたのか、刃は届いていない。

 

「レインさん!」

 

 レインさんは膝を付く。

 

「ご、ごめんなさい……。」

 

 そのままレインさんはその場に倒れた。

 気を失っているようだ。

 まだ生きてはいる。

 

「……届かなかったか。」

 

 そして、レインさんの居た所の後ろには先程の女が居た。

 

「貴様!よくも!」

「もはや誰だか覚えていない女のために怒るのかい?変な奴だね。」

 

 俺は右手を開き、相手に見せた。

 

「確かに覚えていることはもう少ない。でも、大切な者は分かっている。最後に俺が教えてくれた。」

 

 最早戦える力はほとんど残っていない。

 これが、最後になるだろう。

 

「お前を殺す!」

「やれるならやってみな!私達もこれで全員だ!」

 

 煙が晴れると辺りには敵がいた。

 囲まれていたようだ。

 まだこんなにいたのか。

 だが、関係無い。

 全員殺すまでだ。

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