第41話 混戦 Ⅱ

「……準備は良いな。」

「はい。」

「いつでも。」

 

 恐らく、ここが正念場だ。

 まずは陽炎部隊を対処しなければ話が始まらない。

 

「来るぞ。全力でやる。」

 

 グロールさんが来ると言うと、本当に陽炎部隊が現れる。

 グロールさんのスキルのおかげだ。

 シャルが近付いてくる。

 

「久しぶりだね。アルフレッド君。……グロール元副隊長も。」

「そうだな。あの時の仕返しをここでさせてもらうぞ。」

 

 町の広場。

 気が付けば包囲されている。

 一応スロールさん達は自分達を放置する形で配置してもらっているが、あてにはしていない。

 この後のために温存しておく。

 

「だが、まずは話をしないか?」

「話?」

 

 怪しみながらも耳を傾けてくれるようだ。

 

「そうだ。俺達の状況は知っているだろ?このままじゃ、俺達が負けても疲弊したお前達は簡単に始末されるぞ。」

「だろうな。だが、国に最も危険を及ぼすであろうアルフレッドが死ぬのならばそれで良い。交渉の余地は無いぞ。」

 

 だが、グロールさんは話を続ける。

 

「まぁ落ち着け。国にとって危険なのはアルフレッドもかもしれないが蜃気楼も危険じゃないか?」

「……ここでお前たちと共闘しろと?」

 

 グロールさんは頷く。

 

「そうだ。悪い話じゃないだろ?その後疲弊した俺達を殺せば良いんだからな。」

「だとすれば疲弊するのは私達もだ。蜃気楼も始末出来ない可能性がある……いやまてよ。どちらにせよ、お前達は死ぬ。ならば蜃気楼の戦力を少しでも減らしておくのもありか……。」

 

 シャルがそう言うと何処からともなく矢が飛んでくる。

 すぐにグロールさんが反応する。

 

「っ!アルフレッド!」

「くっ!」

 

 しかし、反応が遅れてしまう。

 肩を掠めてしまった。

 

「大丈夫ですか!?アルフレッド君!」

(これは……例の記憶を奪う矢です!)


 久々にティルの声を聞いた気がするな。


「……これは、記憶を奪う矢です。掠めたので効果は出ないかも知れませんが……。」

「っ!スロール殿!あそこだ!」

 

 すると、グロールさんが指を指す。

 その先には少し離れた位置に木造の廃屋があった。

 というか、ここら一帯は全て木造建築だ。

 わざわざこのを戦場にしたのは理由がある。

 

「全軍!一斉射!」

 

 すると、辺りに潜んでいたスロールの手下達が飛び出し、銃を構える。

 そして、一斉に放たれる。

 雷のような轟音と共に銃が火を吹き、廃屋は穴だらけになる。

 

「密集陣形取りつつ次弾装填!急げ!」

 

 そして、スロール達は俺達を取り囲むように陣形を作る。

 

「さて、これで選択の余地は無くなったな。」

「……そうだな。だが、戦局をみて、お前達を始末するぞ。覚悟しておけ。」

 

 取り敢えず陽炎部隊の対処は出来たようだ。

 

「アルフレッド君。大丈夫ですか?」

「はい。でも良かったです。事が上手く進んで、もし……。」

 

 そこで口が止まってしまう。


「アルフレッド君?」


 ……名前が思い出せない。

 陽炎部隊のリーダーの名前が……。

 忘れた……。

 いや、まるでそんな物は全く知らなかったのかと思う程思い当たらない。

 

「……まずいな、これは。」

 

 だが、やることは決まっている。

 完全に動けなくなる前に、戦局を決定的にする。

 それしか無い。

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