第38話 心の内 Ⅱ

「よし、準備は良いな。」

 

 グロールさん達と共に酒場へと向かう。

 周囲にスロール達の兵が配備されたことを確認する。

 

「では行きましょう。」

 

 酒場へと入る。

 すると、店の中の客や店員の目線が集まる。

 

「……いるな。」

「やっぱりですか。」

 

 出入り口を見張るならばこちらからは死角となる位置だろう。

 つまり、二階。

 そこに居るはずだ。

 

「少し時間が経てば必ずや仕掛けてくる。準備しておけ。」

「はい。」

 

 だが、動く気配は無い。

 やはり相手は手練れだ。

 包囲する準備を何も感じさせない。

 

「早いな。囲まれた。」

「はい。」

 

 ほんの少しも時間が経たない内に囲まれた。

 流石にこれは素人でも気付くだろう。

 

「なら、先手必勝だな。」

 

 グロールさんがすぐさまナイフを投げる。


「ぐっ!」


 すると、二階にいた敵が喉を押さえながら落ちてくる。

 

「始めろ!」

 

 俺も負けじと針を投げる。

 グレンの技術を『模倣』した成果だ。

 そして勿論、それだけではない。

 

「ぐっ!……ぅあ……。」

「ん?おい!」

 

 針が刺さった敵は頭を押さえながら隣の仲間を傷つけ始める。

 幻覚が見え、暴走するようになる毒を『調合』したのだ。

 『剣聖』によってスキルもパワーアップしているようだ。

 『調合』する速度も毒の威力も桁違いだ。

 

「ちっ!やっぱり無理だろ!『剣聖』と副隊長相手にすんのは!」

 

 すると、早くも厳しいと判断した敵が離脱し始める。

 が、逃げようとする敵の眼の前にレインさんが現れる。


「逃がしません!」

「ぐっ!」


 レインさんの『ワープ』によって敵は無力化される。

 

「ちっ!今のうちに……ぐあっ!」

 

 まるで雷が落ちたかのような轟音と共に外に駆け出した敵が中に吹き飛ばされてくる。

 脳天から血を吹き出して。

 これが銃の威力か。

 凄まじい。

 

「な、なんだ!?」

「くそっ!やってられるか!」

 

 敵は混乱し、窓等のあらゆる出口から逃走しようとする。

 が、また同じような轟音が鳴り響き、逃げようとした敵は全て息絶えて戻って来た。

 その様子を見て、ようやく敵は逃げられないと悟ったようだ。

 

「何が起きてるんだ!」

「畜生!」

 

 この中にシャルはいない。

 恐らく、ここで俺達を仕留められるとは思っていないんだろう。

 だから危険な場所には来なかった。

 数も少ないし、練度も低い奴らだ。

 威力偵察か。

 

「ま、まて!降伏する!」

 

 敵は武器を投げ捨てた。

 一人がそれをしだすと他の者達も同じように武器を捨て始めた。

 

「……まぁ良いだろう。」

 

 グロールさんは武器を収めた。

 

「おい、捕縛しろ。」

 

 グロールさんがナウルとゲルグに指示を出す。

 二人は頷き降伏したものを縛り始める。

 

「良いのか?生かすのは一人でも良いだろ。情報を聞き出すだけならな。」

「そうだろうな。だが、アルフレッドはそのつもりは無いらしいぞ。」

 

 グロールさんにエドワードが意見する。

 が、エドワードの言い分も分かる。

 確かに敵は減らしておいた方が良い。

 それに副隊長であるグロールを眼の前にして動じていなかった所を見ると父の件についても知っているようだ。

 殺す理由はある。

 だが……。

 

「これからは出来るだけ人は殺したくは無い。」

 

 ナウルとゲルグによって敵が全て捕縛される。

 さて、この後はどうしようか。

 

「知っている情報はすべて話して貰うぞ。」

「も、勿論だ!何でも話す!」

 

 あわよくば仲間に引き入れる。

 かつてグロールさんが話していたどちらにも属さない第三の陣営。

 それを作る土台となるかもしれない。

 バインドさん達の助力があればそれも可能になるかもしれない。

 その現実味が出てきたのだ。

 恐らく、グロールさんもそう考えているのだろう。

 

「面白いことになってるね。」

「……え?」

 

 すると、捕虜にした男の腹からナイフが突き出してくる。

 男の背後にはシャインがいた。

 

「……どういうつもりですか?」

 

 気が付けば周囲を蜃気楼が囲んでいた。

 かすかにだが、敵意を感じる。

 

「いや何、確認したい事があってね……。」

「……。」

 

 グロールさんが気付かれないように、ゆっくりと武器を構える。

 が、直ぐ側にいたエドワードが剣を喉元につきたてる。

 

「……っ!貴様。……そういうことか。」

「動くなよ。」

 

 気が付けば捕虜は全員殺されていた。

 

「君達、いや、アルフレッド君。私達から離反しようとしてたりしないよね?」

 

 ……中々面倒な事になったな。

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