第35話 変化 Ⅲ
「さて、どこから話しましょうか。」
俺達はバインドの屋敷に招待されていた。
が、屋敷とは言ってもボロ家だ。
本当に領主かと問いたい程に。
「その前に、ここって本当に領主様のお屋敷なんですか?」
俺が聞こうか迷っていると臆せずレインさんが聞いた。
中々聞きにくい事だと思うのだが。
「ええ。そうですよ。生まれてからずっとここです。と言っても国から与えられた本当の屋敷は別にあるんですけどね。」
バインドは窓の外を見る。
そこには立派な屋敷があった。
三階建ての立派な作りだ。
「あそこは難民や迫害されてきた魔族の方々が暮らす場所となっています。」
「何故、あなたはここに?」
レインさんに乗じて聞いてみた。
「私の家は代々質素倹約に務めるように言われてきました。それに、民が苦しい生活を強いられているのに、何故私が豪華な暮らしができましょうか。」
「……アルフレッド。このお方はそういうお方だ。」
グロールさんが敬っているということはそれ程の方なのか。
「グロールさん。あなたの方が歳上なんですから畏まらないでくださいよ。」
「いやいや、俺の人生であなたほど立派なお方は見たことが無い。」
それに、仲が良いようだ。
少し羨ましく見える。
「さて、アルフレッド君。君のお父上、アーロン殿の事は聞いています。……何かしてあげられれば良いのですが……。私に出来ることならば、何でも申して下さい。」
「……では、父の話を。実は父を失ったのは幼い頃であまり記憶に残っていないんです。」
すると、バインドは笑顔になる。
「そんな事で良いのならばいくらでも!そうだ、詳しい事情は分かりませんが、この場所でやることがあるのでしょう?宿を用意いたします。」
「事情については俺から手紙で軽く説明してある。バインド殿、後でしっかりと説明いたします。」
どうやら、グロンダール領に向かうと決まった時に既に書状を出していたようだ。
さすが、手が早い。
「まぁ、本日はもう遅い。実は宿はもう用意させてあります。この者等が宿までご案内致します。」
すると、屋敷の中に武装した者が数名入ってくる。
しかし、その鎧はボロボロで戦場で拾ってきたもののように見える。
正規兵ではないな。
「バインド・グロンダールが家臣、スロールと申します。外にも兵を待機させてあります。」
「家臣と言っても、この者等は勝手に家来になったんです。禄も払えないので、ただ働きなんですが……。」
「バインド様にお使えすることこそが、褒美と心得ております。」
どうやら、領民にも相当慕われているらしい。
が……。
「何故こんな兵を?」
「……アルフレッド。どうやら、密偵狩りが向こうに気付かれたらしい。陽炎部隊の面々がここに多数来ている。道中も危険だ。」
「じゃあ、この兵の手筈はグロールさんが?」
グロールさんは頷いた。
どうやら書状で用意してもらっていたらしい。
「そうだ。数で襲われれば我々は負ける。……なぜ我々が次にここに来ると分かっていたのかはわからん。気を付けろよ。」
「……バインドさん。だとすれば敵は手練れです。ろくに訓練も受けていない人が戦える相手ではありませんよ。」
すると、バインドさんは軽く笑みを浮かべ、スロールに目配せをする。
「……それは?」
スロールをちゃんと見てみると、剣を持っていない。
いや、厳密には短剣は持っている。
が、戦闘には不向きだ。
その変わりに何やら鉄の筒を抱えている。
「……この世の中はスキルこそが全ての世界。スキルによる差別も生まれている世界です。優秀なスキルを持つ者を多く抱える国、領地こそが勝つ。そんな世界です。私はそれが間違っていると思う。」
バインドさんはスロールから鉄の筒を受け取る。
「これは銃と呼ばれる物です。世の中を平等に出来る武器です。」
あんなもので何が出来るのだろうか。
鈍器にしては……物足りないだろう。
果たして、こんなものであの陽炎部隊の相手が出来るのだろうか。
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