第34話 変化 Ⅱ
「アルフレッド。どうやら、道が開通したようだぞ。」
「そうですか。では、早くいきましょう。」
これから向かう先は王国領でありながらも魔族との融和政策を進める貴族の領地だという。
なので、この前の町のように姿を隠す必要がない。
その分、魔王領にも近いので、最低限警戒はしなければならないが。
「皆さん、準備は大丈夫ですか?」
「はい!」
皆が頷く。
どうやら、足止めを食らったおかげで十分に休息が取れたようだ。
「グロンダール領か……。」
「来たことがあるんですか?」
馬車に揺られるなか、グロールさんが口を開いた。
「あぁ。まだ若い頃にアーロンとな。」
「そうでしたか。その時は何を?」
そういえば、何だかんだで、父の話を聞くのは初めてだ。
「あの時はグロンダール領内に魔王側の貴族が亡命したという事件があってな。その始末に二人で派遣されたんだ。あの頃は俺達はまだまだ新人だったな。……アルフレッド。魔族と人間の違いは何だ?」
「え?……そう言われてみると……。何でしょう?」
髪の色や肌の色くらいであろうか。
それ以外は人間と同じだ。
考えてみれば明確な違いは無い。
肌の色如きで人種を差別するなどおかしいことこの上ない。
すると、グロールさんはレインさんを見る。
「レインのようなエルフが良い例だな。人に近いが人ではない存在。エルフやドワーフを亜人と呼び、ゴブリンやトロルなんかは魔物だな。」
「では魔族は?」
すると、レインさんが手を上げ、発言をする。
「はい!亜人や魔物、人間等の血が混ざった混血の人の事を言います!」
「つまり……魔族は人間の血が流れている?」
「そうだ。遥か遠い昔、亜人が支配する地で魔物により亜人や人間が連れ去られ、亜人や人間と魔物の混血種が生まれた。そして、亜人は人間と協力し、連れ去られた亜人や人間達を救う為、魔物を討伐していった。」
果たして、この話はどれ程昔の話なのか。
考えるのもはばかられる程の遠い昔なのだろう。
「そして、自我のない魔物と違い、自我があり、言葉を理解する魔物との間に生まれた混血種を保護した亜人や人間達によって更に魔物の血は薄まっっていった。それが俺達魔族だ。」
「じゃあ、魔族は魔物や亜人の血が入った人間ということですか?」
グロールさんは頷いた。
「そうだ。逆に言い換えれば魔物の血が入った人間が魔族だな。その結果、魔族は迫害され続けた。そして、その中から生まれた強力な魔族が魔王となり、魔物の血が入ったおかげか、魔物を従え、人間達に復讐をしているんだ。」
「それが何度も何度も繰り返されているんですね。」
今代の魔王が何代目かは知らないが、人間たちは迫害をやめず、それに苦しみ続けた魔族は人間に復讐をしてきた。
そして、それに対抗して人間は勇者を使って魔王を倒してきた。
というわけか。
「エルフは魔族の生い立ちを知っていますし、魔族が生まれた頃を知っている人達もまだまだいるので、魔族と協力しています。それに、エルフの里が元々魔王領の近くだったっていうのもあるんですけどね。」
「……それ位誰でも知ってるだろ。」
エドワードが口を開く。
これまでまともに学習する機会がなかったので始めて知った。
実はこういうのは一般常識なのか。
「いえ!俺は知らなかったっす!」
「俺も!」
……まぁ、このバカ二人は無視しよう。
「アルフレッドはまともに勉強することが出来なかったんだ。仕方が無い。」
「ありがとうございます。」
すると、グロールさんは立ち上がり、馬車の進む先を見る。
「グロンダール領は領主が代々魔族を保護していてな。魔王軍もここは攻めていなかったんだ。王国側も黙認している。が、俺とアーロンが若い頃、それにつけ込んだ反乱者の貴族が敗北し、ここに逃げ込んだ。」
「それを始末しに来たんですか?」
グロールさんは頷いた。
「あぁ。だが、ここでの活動が俺達の運命を変えたんだろうな。」
「どういう事ですか?」
その発言に疑問を浮かべていると、向こう側からも馬車が来た。
馬車には一人だけ乗っていた。
「旅のお方ですか!?我が領地へようこそおいて下さいました!いやぁ、早いとこ道が復旧して良かったです!」
「おお!バインド殿!お久しぶりですな!」
「おお!グロールさんでしたか!お久しぶりです!」
グロールさんは馬車を飛び降り、反対側から来る馬車へ駆け寄っていく。
向こうの馬車には領主と思われる人物が一人だけである。
領主だと言うのに護衛もいないのか。
身なりもボロボロだ。
「アルフレッド。紹介しよう。この方が俺やアーロンとも親友であったバインド卿だ。」
「よろしくお願いします。」
バインドは軽く頭を下げた。
この人が父の親友か。
初めてその名を耳にした。
が、不思議と好印象を覚える。
少し、話を聞いてみようか。
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