第33話 変化 Ⅰ

「レインさん。夕飯の時間ですよ。」

「分かりました!今行きますね。」

 

 あの一件が終わってから別の町の防諜活動を始めるべく目的地に向かっていた。

 が、目的の町に辿り着く前に、数日前の豪雨で目的の町までの道が閉ざされたようで、暫く中継地点のこの町に滞在していたのである。

 因みにだが、例の二人は予想以上に働いてくれる。

 先の任務では手を抜いていたのかもしれない。

 

「にしても、ここのご飯は美味しいですね!私、任務以外でも訪れたくなっちゃいました!」

「そうですね。落ち着いたらまた来てみても良いかもです。」

 

 食事を取りながら他愛の無い会話を続ける。

 こんな平和な時間がずっと続けば良いのに。

 

「どうしました?」

「……いや、考えてみれば俺の心の中にあった恨みや復讐心なんかは俺の村の件が片付いた頃に無くなってました。」

 

 レインさんは静かに俺の話を聞く。

 

「今は、父の仇を討つって理由をつけてますけど、それでも陽炎部隊の皆を殺したい程憎んでません。正直、父の事も殆ど覚えてないんですよね。」

「……そうですよね。アルフレッド君がまだまだ小さい頃ですもんね。」

 

 俺は頷いた。

 

「はい。だから、俺を助けてくれた陽炎部隊の皆さんを出来れば殺したくはありません。でも、俺達の置かれた状況的に蜃気楼と協力するしかありません。」

「陽炎部隊は私達を殺そうとする。蜃気楼としても私達は危険な対象。今は協力関係ですけど、いずれは両陣営から狙われてしまいますもんね。」

 

 もう全て放り投げて、どこか田舎でひっそりと暮らしたい物だ。

 

「まぁ、今の所悩んだってしょうがないだろ。」

「あ、グロールさん。」

 

 すると、テーブルに食事を持ったグロールさんが座ってくる。

 今は何もできないので、皆は自由行動としている。

 

「何もかも放り投げて逃げたとしても。両陣営から狙われるのは確かだ。なら、今の所俺達を殺そうとしていない蜃気楼と協力し、この場を乗り切るのが最善だな。」

「……で、勇者を倒して魔王を倒せば、もう狙われる必要も無いですもんね。」

 

 レインのその言葉にグロールは少し怪訝そうな顔をする。

 

「そこなんだが、アルフレッド。」

「はい。」


 グロールは少し辺りを見渡す。

 周囲に怪しい人物がいない事を確認すると、小声で話す。

 

「恐らくだが、全てが終われば俺達は消されるぞ。」

「……やっぱりそうですか。」

「アルフレッド君は分かってたんですか?」

 

 どうやら、レインは気付いていなかったらしい。

 

「良いですか?蜃気楼側からすればこの世界での脅威は魔王です。このまま上手く言って魔王が死ぬとします。すると、勇者もいない世界で最強は俺になります。」

「……で?」

 

 まだレインさんは分からないらしい。

 流石にグロールさんもため息をつく。

 

「良いか?今度の脅威はアルフレッド自身になるんだ。」

「……成る程。」

 

 流石に理解できたようだ。

 

「魔王には軍団があった。それを持たないアルフレッドは脅威ではあるが、魔王程脅威ではない。仲間であると信頼されきっている蜃気楼がアルフレッドが油断している所を……というわけだな。恐らく、これがシャインの目論見だろう。」

「じゃあ、勇者が殺されるのは王国の意思という事ですか?」

 

 グロールさんは頷く。

 

「おそらくな。耳にした所、今回の勇者は愚鈍らしい。スキルこそ優秀だが、頭が悪い。そんな時にスキル奪いの短剣を持つ優秀な暗殺者を見つけたとあっては利用しない手はないだろ?」

「……ひどい話ですね。」

 

 だが、合理的ではある気がする。

 王国としてはそれが最高のストーリーだろう。

 

「ま、全部憶測だ。何はともあれ、今できることをやるしか無い。アルフレッドは自分を磨け。そして、信頼できる仲間を増やす。」

「仲間?」

 

 グロールさんは頷く。

 

「そうだ。今のうちに心の底から信頼の出来る仲間を増やすんだ。そうすれば、俺達は俺達の陣営を作ることが出来る。そうすれば、不足の事態に対処できるかもしれん。」

「陣営……。」

 

 つまり、王国陣営と魔王陣営。

 そして、そのどちらにも属さない陣営か。

 

「まぁ、今の話はまだ色々考えている所だが。独自の陣営を組織した所で何か出来る訳でも無いからな。忘れてくれて構わんぞ。」

「……。」

 

 成る程。

 それは面白いかも知れないな。

 何はともあれ、今は出来ることをやろう。

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