第32話 意義 Ⅲ

「じゃあ、手はず通りに。」

「わ、分かりました……。」

 

 俺の提案にレインさんは渋々承諾してくれた。

 まぁ、それも当然だろう。

 いきなり神になれとか言われても訳が分からないだろうしな。

 

「……皆さん。聞いてください。」


 レインは部屋に戻ると皆と話をしだした。

 

「アルフレッド。上手く行きそうか?」

「はい。グロールさんのお陰です。」

 

 実はあの後、すぐにグロールさんが来た。

 単独行動で独自に諜報員の居所を突き止めたと、俺とレインさんが話しているところに来たのだ。

 流石と言わざるを得ない。

 

「……だが、お前のその計画……上手く行くか?」

「……頑張ります。」

 

 

 

「レイン様!まだっすか!?」

「馬鹿野郎!エルフであるレイン様を疑うのか!?俺は全く疑ってませんよ!」

「う、うん……。」

 

 レインがナウルとゲルグを連れ、所定の位置で待機する。

 身を隠しているつもりだろうが、騒がしくて目立っている。

 

「グロールさん。」

「あぁ。」

 

 その様子を確認した後、少し離れた場所にいるグロールさんに合図を出す。

 すると、グロールさんは町の酒場に入っていく。

 フードを被り、辺りをこれでもかと言うほど見渡し、明らかに不審者のような行動で酒場に入っていく。

 

「あれです。私には分かります。あれが諜報員です。」

「あの不自然な動き!間違い無いっす!」

「流石はレイン様!」

 

 作戦はこうだ。

 まず、レインさんがエルフの超能力で相手の諜報員の場所を探り当てる。

 という設定で酒場まで誘導する。

 酒場にはグロールさんが探し当てた本当の陽炎部隊の諜報員がおり、グロールさんはそいつと同じ格好であからさまに怪しく入って行ってもらう。

 後はレインさん達が突入して何も知らない陽炎部隊の諜報員を捕える。

 そして、神の如き千里眼を持つレインさんをあの馬鹿二人が信奉する。

 というストーリーだ。

 これならレインさんがいる限りあの二人が離れていく心配は無い。

 ……筈だ。

 

「にしても、レインさんもノリノリだな。」

「……お前、よくもこんな事を思い付くな。」

 

 ちなみにだがエドワードには効かないだろうということでこちら側に来てもらっている。

 レインさんが皆に話し、部屋を出たタイミングで声をかけたのだ。

 

「じゃ、お前も頼むぞ。」

「お前と言うな。年上は敬え。さんをつけろ。」

 

 すると、エドワードも酒場へと駆けていく。

 相変わらず口うるさい奴だ。

 何だかんだで協力してくれるというのが面白い。

 すると、エドワードが酒場に入った後、暫くしてから酒場の前でレイン達が話し合う。

 

「良いですか。私は貴方がたに活躍してほしいのです。ですので、今回は二人で捕まえなさい。それに、この先を見通す力は寿命を削ってしまうのです……。乱用は出来ません……私は少し休みます……。」

「了解っす!」

「任せて下さい!」

 

 二人はものすごい勢いで酒場へと入って行く。

 寿命を削る設定か。

 これなら今後使わなくても違和感は無いな。

 レインさんの元へ駆け寄る。

 

「良いですね。慈悲深さを演じ、身を削ってまで自分達の為に動くことで、アイツラは本気でレインさんの事を敬うでしょう。……大丈夫ですか?」

「……うぅ。疲れる……。」

 

 あからさまに気を抜くレインさん。

 少し申し訳なく感じてしまう。

 

「すいません。こんな事を頼んでしまって。」

「いえいえ、これもアルフレッド君の為ですから。これからもがんばりますよ!」

 

 すると、いきなり酒場の中が騒がしくなる。

 

「てめぇ!なにしやがんだ!」

「室内でフード被って気持ち悪いんだよ!」

 

 酒場の中を覗くと、帽子を被り、メガネをかけて変装したエドワードが何やら男と揉めている。

 どうやらエドワードが飲み物を男にかけたらしい。

 

「いたぞ!さっきのフードの男だ!」

「俺が捕まえるっすよ!」

 

 その騒ぎを見たナウルとゲルグが一気に駆け出す。

 その男は確かに先程のグロールさんと同じ格好をしていた。

 

「何っ!?」

「遅い!」

 

 ゲルグが男に一発蹴りを入れる。

 そして、すかさずナウルが男を捕縛する。

 瞬く間に縄で縛り上げている。

 その一瞬の出来事に周りは目を奪われていた。

 

「さぁ!我々旅の大道芸人のサプライズ演劇は楽しんていただけたでしょうか!」

 

 すると、服を着替えたグロールが皆の前に姿を表す。

 

「短い一幕てしたが、派手なアクション、そして逮捕劇をお送りいたしました!」

 

 グロールは皆に向けて頭を下げる。

 そして、グロールは気付かれないように鋭い眼光でナウルとゲルグを、睨む。

 すると、二人は慌てて頭を下げた。

 

「すごかったぞ!またやってくれ!」

 

 俺は少し声色を変えて叫んだ。

 そして、拍手をする。

 すると、周りの客もそれにつられて拍手をする。

 歓声まで上がる。

 

「では!またお会いしましょう!」

 

 グロール達はそそくさと撤収していく。

 因みに、酒場の店主には金を握らせてある。

 問題は無いだろう。

 

「これでうまく行ったんでしょうか……。私、頑張った甲斐がありますよね?」

「……さぁ?」

 

 流石に言い切れない。

 

「何でそういう事言うんですか!?」

「だ、だって……いくらあの二人でもこんな不自然な展開疑いますよね……。」

 

 思いつきでやってはみたが、結果を見返すと……酷い。

 もう少し別の方法もあっただろうに。

 

「まぁ、一度部屋に戻りましょう。」

「うぅ……。私の努力……。」

 

 

 

「「レイン様!ありがとうございます!今まで本当に申し訳ありませんでした!」」

 

 部屋に戻ると二人は平伏してレインを待っていた。

 

「……本物の馬鹿だ。」

 

 部屋の隅にいたエドワードが思わず口を開いてしまう。

 が、二人には聞こえていなかったらしい。

 

「……今回の件はこの二人が諜報員を捕まえたとして報告する。レインがエルフであること、……超能力……を……プッ……使った……事は伏せておく。」

 

 グロールさんも若干笑いを堪え切れていない。

 

「ま、まぁまぁいつも通りにお願いします。」

「「レイン様がそう仰せられるのならば!」」

 

 レインの言葉に二人は一斉に立ち上がる。

 しかし、あの一瞬で敵を捕縛した実力は凄い。

 連携もそうだが、個々人の能力も凄まじい。

 上手く使おう。

 ……いや、レインさんに上手く使ってもらおう。

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