第21話 真実 Ⅲ
「さて、この状況で君達は逃げることは出来ないだろ?大人しくついてきてくれたら嬉しいんだけど?」
「レインさん……。」
隣のレインを見る。
レインに『ワープ』出来ないか確認したかったのだ。
が、レインは首を横に振る。
「駄目です。そこのシャインさんがアルフレッド君の手を離さない限りは……。」
「君は『ワープ』持ちのレインさんだね?残念だけど私達は全員『糸』で繋がってる。何処かへ飛んでも皆がついてくるよ。」
成る程。
相手にも『糸』を持っている奴がいるのか。
そこまで含めてこの握手か。
やはり、逃げられそうには無いな。
「いや、『ワープ』するんだ。レイン。」
「え!?グロールさん!?本気ですか?」
すると、シャインはうっすらと微笑む。
「そう。流石は元陽炎部隊の副隊長。さ、レインさん『ワープ』してくれ。勿論、君達のキャンプじゃないよ?どこでも良い。安全な所にね。」
すると、廃屋の扉が叩かれる。
「アルフレッドを殺せ!」
「奴を許すな!」
成る程。
村人が押し寄せて来ているのか。
だからこの王国の隠密部隊、蜃気楼とやらも離脱を望んでいるのか。
ならば……。
「レインさん。今陽炎部隊のキャンプに戻っても危険が生じます。俺達の身も、グロールさんも。何処か安全な場所へ行きましょう。」
「……分かった。」
すると、眼の前の景色が一瞬で変わる。
どうやら『ワープ』したらしい。
ちゃんと全員いる。
気を失っているグレンもだ。
「よし。取り敢えず話をしようか。アルフレッド君。」
「手は握ったまま?」
シャインは決して手を離そうとしない。
「そりゃね。逃げられたら困るし。」
「……逃げるつもりはありません。貴方がたはどうやら俺を殺すつもりでも無いようですし。」
だが、手を離そうとはしない。
まぁ、このまま話を続けるか。
「で、俺に何の用ですか?」
「いやね。そのナイフを見た時に既視感を感じてね。調べてみたら、なんとあのアーロンが使っていたスキル奪いの短剣じゃないか。ということになってね。」
シャインはフードを外し、顔を見せてくる。
肩まで伸びた綺麗な金髪が目立つ女性だった。
……いや、女性であることは声で何となくは分かってはいたが。
「私がまだ新米隊員の頃に奴には気を付けろとよく言われていたんだよねー。懐かしい。」
「で、何故俺達を助けたんですか?」
「……。」
シャインは暫く考える。
「君達の廃屋での様子を暫く見させてもらった。どうやら君達は陽炎部隊、いや、魔王軍からも追われる事になったらしいね。」
「……。」
隣のレインを見る。
彼女だけならばまだ帰れるのでは無いだろうか。
嘘をつけば何とかなりそうだが。
彼女が戻りたいというのならば戻らせてあげたいものだが。
「だから、君達を助けた。レインさんの『ワープ』は非常に有用なスキルだ。そこのグロールさんも知略が冴え渡っていると聞いた事がある。そして、君だ。」
「……やっぱり俺ですか。」
シャインは頷く。
「これまで村で起きた殺人事件。その犯人が全て君である事は分かってる。つまり、被害者が所有していたスキルは今君の手の中にある。しかし、これから君は村の人間や魔王軍からも追われる。そんな中で君たちだけで逃げ切れるかな?」
……逃げ切れるとは思えない。
村の人間に対する復讐がまだある以上、陽炎部隊がそこを張っている可能性があり、復讐が出来なくなる。
だからといって逃げたとしても奴等はかなりの腕前。
いずれは捕まるだろう。
「ということは、守ってくれるんですか?」
「……いいや?守りはしないよ。」
シャインはニヤリと笑いながら答える。
「私達が君の復讐を手助けしよう。」
驚きの言葉が出る。
だが、全く予測していなかったわけではない。
「……見返りは?」
「……魔王討伐。」
その言葉にレインとグロールは驚きを隠せずにいた。
「な、何だって!」
「そんなの無理に決まってます!それに危険すぎます!」
「そうかな?アルフレッド君がここの村の人間を全て始末し、スキルを奪い尽くす事が出来れば彼は事実上の最強となる。それに、現状の人類最強ももうすぐこの村にくるだろう?」
現状の人間最強……。
もうすぐ来る……。
思い当たるのは一人しかいない。
「勇者……ですか。」
「そう。勇者の引き連れているパーティーは王国中からかき集められた猛者ばかりだ。そして、勇者も勿論強い。彼等の力も君が手にすることが出来れば魔王は瞬殺だろうね。」
「……そ、そんな……。」
その恐ろしい計画にレインは驚嘆する。
「……つまり、復讐を手助けしてやる代わりに、勇者も殺してそのスキルを奪って魔王を殺せと?」
「まぁ、そうなるね。」
少し考える。
悪い話では無いのかもしれない。
蜃気楼の人達の強さは知っている。
現状、こちらにつくのは合理的かもしれない。
が……。
この話を受けるということはレインはもう戻れないということだ。
レインの方を見る。
「……アルフレッド君。私の事は気にしないで下さい。私は何があってもあなたを守ります。例え誰が敵となろうとも。」
「……分かりました。その話、承諾します。」
すると、シャインは笑顔になる。
「よし!ならばこれからよろしく!全力でサポートさせてもらうね!」
シャインが思い切り抱きついてくる。
「ちょ、ちょっと!アルフレッド君から離れて下さい!」
「えー!いいじゃん!減るもんじゃないし!」
「そういう問題じゃありません!」
やはりノリはキツイがようだ。
が、取り敢えずは何とかなりそうだな。
「あのシャインとかいう女……。危険だな。」
先程、アルフレッドに抱き付き、誰からも顔が見えない状況で浮かべたあの笑み。
非常に不気味だ。
俺のスキル『遠視』で見張っておいて正解だったかもな。
「アルフレッド……。後で注意しておかなくてはな……。」
先程の話、アルフレッドは指摘しなかったが、おかしく感じる部分があった。
彼はそれに気付いているのだろうか。
「……アーロン。お前の息子は俺がしっかりと守ってやるからな。」
隊長でもあり親友でもあったアーロンを副隊長として支えて十数年。
あいつを最後まで守れなかった分、息子のアルフレッドを必ずや守り抜こう。
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