第20話 真実 Ⅱ
「逃げろ!アルフレッド!」
グロールの声が鳴り響く。
が、俺は動けずにいた。
何を信用して良いのか。
グレンを信用しきれなくなってしまったが、完全に敵として見ることも出来そうにない。
……そうだ。
レインさんも陽炎部隊だ。
なら、隣りにいるこの人も信用しては駄目なのか……。
駄目だ。
体を動かさなければ。
……いや、もう遅いか。
眼の前にはもう既にグレンがナイフを振りかざしている。
「悪いな。」
「っ!……?」
死を覚悟した。
しかし、死んでいない。
気が付けば俺はグレンの遥か後ろにいた。
そして、俺の肩にはレインが手を置いていた。
「グレンさん!何でですか!?何でアルフレッド君を殺そうとするんですか!?」
「……そうか。お前はアーロンを殺す時、別任務だったな。……そういえばアーロンを殺す時もシャルが敢えて外したんだったな。」
シャルもグルなのか。
段々と頭が冴えてきた。
冷静に行こう。
「……じゃあ、あなた達が父を殺したということで間違い無いんですね?グロールさんはどういう事ですか?」
「……おう。お前の親父は俺達が殺した。グロールもアーロンと親しかったから協力される前に消そうとした。まぁ、そっちは逃げられたんだが。お前の親父については完璧に偽装したからな。警察とかも誤魔化せたぜ。」
隣を見る。
レインは信じられないというような顔をしている。
「な、何で!?何で隊長を!?あんなに私達に良くしてくれたじゃないですか!?」
「……そのナイフだよ。」
グレンは俺を指差した。
「そのナイフによってアーロンは無数のスキルを手にした。やろうと思えば魔王軍幹部はおろか、魔王様も殺せた。危険視されたんだよ。」
「……ティルは知ってたのか?」
(……いいえ。アーロンさんは私を持たずにお亡くなりになったので、最後は見届けていません。特段、隊の人間と仲が悪くなったりしたわけでは無かった筈ですが……。)
グレンは再度ナイフを構える。
「お前がまたアーロンのようになり始める前に、危険ならば排除しろとシャルが言っていた。そこのグロールのこともある。まとめて始末させてもらうぞ。……レイン、分かってるな?」
成る程。
レインさんも陽炎部隊の一員。
俺とグロールさんを始末しろと言いたいのか。
確かにこの二人を相手にしたら俺でも敵わないかもしれない。
グロールさんは戦力にならなさそうだし、ここが墓場となるかもしれないのか。
「……嫌です。」
「何?」
「私はアーロン隊長に恩を感じています。恐らく当時私がいても隊長の暗殺には断固反対しました。今も、反逆罪で死ねと言われても、私はアルフレッド君を殺しません。」
「……そうか。」
すると、グレンは懐から針を取り出した。
「じゃあ、死ね。」
ナイフがレインに向かって投げられる。
レインならば回避できるだろう。
だが、レインは動こうとしない。
死ぬつもりか。
「くっ!」
「ア、アルフレッド君!?」
咄嗟にレインさんを庇ってしまった。
腕に針が刺さる。
この人が敵対する可能性もある。
そもそも父の仇の陽炎部隊の一員である。
庇う必要も無いのかもしれない。
が。
レインに罪は無い。
「死なせませんよ。」
「え?」
「まだ父の話を全く聞けてません。契約はまだ切れてませんから。」
「で、でもそれは……。」
「俺が契約したのは父が率いた陽炎部隊の人とです。あいつらは……シャルやグレン達は父を殺しました。それは父の率いた陽炎部隊とは言えません。ちゃんと父の友人であるグロールさんとレインさんから話を聞かせて下さい。……ぐっ!」
やはり、毒が塗られていたか。
「ア、アルフレッド君!」
「……だ、大丈夫です。」
すぐに『調合』で薬を作成し、飲む。
毒は即死毒では無かったのが救いだな。
「成る程。さっき村長から奪ったスキルがそれか。だがまぁ、薬が完全に効くまではまだ時間がかかるだろ?その間に俺は逃げさせてもらうぜ。」
「ま、待ちなさい!」
グレンは勝ち目が無いと悟ったのか、すぐに踵を返して逃げようとする。
が、レインは『ワープ』を持っている。
そう簡単に逃げられるはずはない。
そう思った矢先、グレンは窓ガラスに石を投げ、割った。
「ここにアルフレッドがいるぞ!村長を殺したのは奴だ!」
「くそっ!っ!?」
体が思うように動かない。
そうか、毒の効果は致死毒だけでは無い。
麻痺毒もあったのか。
薬をすぐに作らなくては。
「レ、レインさん……。追って下さい……。」
「奴を逃がすな!シャルに報告されたら厄介だぞ!」
「で、でも……。」
レインは俺が心配なのか、グレンに敵対したくないのか、迷っている。
本当に時間が無い。
恐らくそう時間を置かずして村の外で騒いでいる奴等が押し寄せるだろう。
そして、もうグレンも逃げてしまう。
俺は動けない。
グロールも足腰が弱く、早くは動けない。
レインが一人でグレンを取り押さえ、俺達を『ワープ』させなければならないのだ。
「え、ええと……。」
しかし、レインの本質はポンコツ。
この一瞬の迷いが逃げるべきチャンスになると奴は知っていたのだ。
「はっ!やはりレインはポンコツだな。これだから……。」
「まぁ、逃さないけどね。」
グレンの眼の前に矢が放たれる。
あの矢は見たことがある。
俺がフレンを襲った時に放たれた矢と同じだ。
たしか、当たれば記憶を失うとか……。
「くそっ!何でてめぇらがここにいやがる!?」
「まぁ、村長の家が燃えたのは流石に怪しいよね?因みに、君はもう詰んでるよ?」
気が付けばグレンはフードの者達に包囲されていた。
これでは逃げ場はない。
「くそっ!」
「じゃあね〜。」
グレンに向かって矢が放たれる。
グレンも何本か躱すが、躱しきれず、数本当たってしまう。
グレンはすぐに意識を失い、その場に倒れた。
「やぁ、アルフレッド君?であってるよね?取り敢えず私はシャイン。王国隠密部隊、蜃気楼の隊長だよ。よろしく〜。」
無理矢理握手される。
……俺達はこれからどうなるのだろうか。
全く想像がつかないが、これだけは分かる。
逃げることは不可能だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます