第19話 真実 Ⅰ

「さて、村は火事の始末に追われて俺達には気付かなかったみたいだな。まぁ、そもそもお前のスキルのお陰だが。」

 

 グレンとともに廃屋まで帰ってきた。

 少し油を撒きすぎたのか、すぐに火が燃え広がっていた。

 

「そうですね。そろそろレインさんが迎えに来る頃だと思うんですが……。」

 

 すると、別の部屋からレインが飛び出してくる。

 

「お、噂をすれば。」

「良かった!帰ってきていたんですね!」

 

 レインは少し慌てた様子だ。

 

「どうしたんですか?」

「ゆ、勇者が……。」

 

 勇者?

 スキルを複数所持する事が出来る特別な者をそう呼び、その者は魔王が現れた時は勇者として任じられると聞いたことがある。

 何やら昔からそういう決まりなのだとか。

 そうか、勇者がいてもおかしくは無いのか。

 レインは呼吸を整えてから口を開く。

 

「ゆ、勇者がこの村に来ます!」

「何だって!?」

 

 その言葉にグレンが驚く。

 

「何でこんな辺境に!?」

「こ、この村の連続殺人事件を聞いて、カインの『剣聖』スキルも耳にしたそうで、カインが被害に合う前に事件を解決するために先日王都を出立したそうです。」

 

 成る程、レインの別任務とはそちらの調査だったのか。

 足の早いレインならではの任務だな。

 

「おい、アルフレッド。さっさとカインを始末しないとな。」

「そうですね……。」

 

 魔王軍からしてもカインは脅威なのだろう。

 すると、家の外が騒がしくなっていることに気が付く。

 村長の家の火事だけではない。

 

「勇者だ!勇者がくるぞ!」

「これでこの村も救われる!」

 

 村は村長の家の火事よりも勇者の来訪を祝しているようだ。

 村長の死はもはや村全体に知られている。

 だからこそ勇者の来訪を喜んでいるのだろう。

 

「ここに来る前に村の状況を探ったら村長が家を回って勇者の来訪を告げていました。」

「成る程な。それで帰りが早かったのか。」

 

 グレンの言う通りだろう。

 まさかそんな事で予定が狂うとは。

 まぁ、殺せはしたから良かった。

 

「あ、そういえば村長は始末したんですね?流石です。アルフレッド君。」

「いえ、グレンさんのお陰です。」

 

 他愛もない会話をしていると、グレンが大広間の階段の方を向く。

 そして、ナイフを構えた。

 

「……おい。誰だ?」

「え?」

 

 それに応じ俺とレインも遅れてナイフを抜く。

 確かに二階には人影があった。

 暗くて良く見えないが、老人か。

 

「レインさん……。二階はまだ行ったことが無いんですよね?」

「は、はい。拠点とするなら一階だけで十分ですし……人がいるとは聞いていませんでしたので。……でも、初めてきた時に、階段の手すりが一部ホコリを被っていなかったのは気になったんですよね。」

 

 成る程、あの時レインが気にしていたのはそういうことだったのか。

 レインがこちらを見る。

 俺は首を横に振った。

 

「……俺も知りませんでした。ここを出入りする人間は居ないはずです。」

 

 老人はゆっくりと階段を降りてくる。

 

「おい!動くな!何者だ!?」

「……勇者。勇者といったか?」

 

 老人が光が差し込んでいる場所に現れる。

 その姿がはっきりと見えた。

 髭を長く伸ばし、白髪も長い。

 本当にただの老人に見える。

 

「……お前は……アルフレッドか?」

「っ!何故俺の名前を!?」

 

 老人は少しずつ階段を降りてくる。

 そして、グレンを見た。

 

「……貴様!何故アルフレッドと共に居る!?」

「……あんたはまさか!グロールか!?」

 

 そのグレンの言葉にレインが驚く。

 

「え!?グロール副隊長!?」

「グロール副隊長?」

 

 俺の問いにレインは頷いた。

 

「はい。アーロン隊長がお亡くなりになった頃に行方不明となった当時の副隊長です。あ、因みに今はグレンさんが副隊長なんですよ。まともに仕事しないんですけど。」

「おい!ふざけてる場合か!」

 

 グレンは全く油断せずナイフを構えている。

 どういうことだ?

 元副隊長なら味方だろう。

 行方不明と言っても敵対する理由は無いはずだ。

 

「アルフレッド!離れろ!そいつは、グレン達陽炎部隊は、お前の父を!アーロンを、殺したんだぞ!」

「……は?」

 

 その言葉を聞き、思考が一瞬停止する。

 一瞬だが、グレンがこちらを見た。

 まるで獲物を狩るかのような目で。

 

「逃げろ!アルフレッド!」

 

 グロールが叫ぶ。

 気が付けばグレンはこちらに向き直し、駆け出していた。

 俺は何を信じれば良いのだろうか……。

 何を……。

 誰を……。

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