第14話 強敵 Ⅲ

「止まれ!今日はここで野営する!」

 

 谷で騎士団が野営の準備を始める。

 荷物を下ろし、テントを張り、兜を脱ぐ者もいた。

 すると、一番豪華な甲冑の男の元に一人駆け寄ってくる。

 

「団長!村までもうすぐですよ?一気に行ったほうが良いのでは?」

「こんな深夜に村に大軍が押し寄せたら村人に迷惑だろ?お前も新人なんだから良く覚えとけよ。将来は団長になれるかもしれないんだからな。」

 

 団長と呼ばれた男はポンポンと肩を叩いた。

 駆け寄ってきた男は軽く頭を下げた。

 

「わかりました!ありがとうございます!」

 

 その様子を暫く見ている。

 テントを張り終え中で休むものが出始める。

 警戒に数名が起きている程度だ。

 すると、手に握る糸が数回引っ張られる。

 合図だ。

 

「よし、行くぞ。」

(無理はしないでくださいね。)

 

 ティルには悪いが、無理はしよう。

 別に死ぬわけでは無い。

 ナイフを握り、『奇襲』を発動させる。

 

「っ!?」

 

 すると、一気に疲れが押し寄せる。

 気を抜くと気絶しそうな程だ。

 それもそうか、三十名に共有しているのだ。

 少し舐めすぎていたな。

 すると、一斉に火矢が放たれる。

 

「な、何だ!?」

 

 見張りに起きていた者は全員始末した。

 テントの中の敵も流石に目を覚まし、テントから出てくる。

 が、何の準備も整っておらずその都度矢を放たれ、致命傷の位置でもないのに無力化される。

 

「……まずいな。」

 

 中々辛い。

 このままでは本当に気を失ってしまいそうだ。

 すると、糸が数回引っ張られる。

 やめて良いという合図だ。

 

「っ!はぁはぁ……。」

(大丈夫ですか!?)

 

 スキルを解除する。

 

「……これはやばいな。」

(だから無理はしないでと……。)

 

 ティルの言う通りかもしれない。

 ここは戦場だし流れ矢が来るかもしれない。

 敵が来るかもしれない。

 気絶でもしたら本当に死ぬかもしれないのだ。

 

「すまんな、ティル。」

(いえ、わかってくれればよろしいのです。)

 

 すると陽炎部隊の隊長、シャルが先陣を切り敵に突入していく。

 それに皆が続いて突入し、乱戦となる。

 

「……すごいな。」

 

 初撃でかなり仕留めたとはいえ、相手は百近くもいる騎士団だ。

 それをこうも簡単に相手取るとは。

 ……そうか、白兵戦を仕掛ける者と遠距離から援護する者に分かれているのか。

 前線で戦うものを上手く支援している。

 数分が立つ頃には戦闘は沈静化し始めていた。

 圧勝だ。

 

「ん?」

 

 すると、眼の前の茂みからガサガサと音がする。

 

「だ、団長!気をしっかり!」

「すまんな……。新人のお前に……。」

 

 眼の前の茂みから二人の騎士が姿を表す。

 最初に会話していた団長と新人だ。

 二人共ボロボロである。

 慌てて俺はナイフを握る。

 

「っ!何者だ!」

 

 すぐさま『隠密』を発動し、団長に肩を貸している新人を狙う。

 スキルによって俺を見失った新人の背後に回り、首を狙う。

 が、それはかなわなかった。

 

「くそっ!」

 

 厚い甲冑によって喉が守られている。

 少し考えれば分かるはずなのに、やはり疲れているのか。

 すぐに振り払われてしまう。

 そして、いつもより早くスキルが切れてしまう。

 

(主様!精神力が限界です!スキルは使えません!何かスキルを使えばそのまま気を失ってしまいます!)

 

 まずい。

 個人の戦闘能力でいえば完全に負けている。

 ナイフを握り直す。

 何か、何か無いだろうか。

 そして、あることを思い出した。

 

「くらえっ!」

 

 新人は距離を詰めるために近付いてくる。

 俺は背を向け走り出す。

 

「待て!深追いするな!」

「大丈夫です!やっでみせます!」

 

 団長の静止を振り切り、新人は追ってくる。

 素人で助かった。

 林の中を駆け回る。

 縦横無尽に。

 そろそろかかる頃だろう。

 

「うわっ!」

 

 新人は急に転んだ。

 俺はシャルの伝達用の糸を持ちながら林の中を駆け回ったのだ。

 伝達用の糸は分かりやすいように木の枝に引っ掛けておいた。

 シャルは決して切れぬように頑丈な糸にしたと言っていた。

 その糸を足を引っ掛けるくらいの高さに持ちながら、逃げながら罠を張ったのだ。

 そして、まんまと引っかかってくれた。

 

「くっ!」

 

 俯向けに転んだ新人騎士の背後にのりかかり、鎧の隙間からナイフを射し込む。

 まずは腕と足を傷つける。

 鎧の隙間は関節部。

 つまりは人体にとっては急所だ。

 これで両手両足は動かせない。

 

「これで終わりだ。」

 

 俺は兜を掴み、上に持ち上げる。

 兜の外を見るための隙間からナイフを刺す。

 

「がぁっ!」

 

 何度も何度も刺す。

 一番弱いところは目だ。

 次第にジタバタと暴れることも無くなり、絶命した。

 念の為、軽く鎧を外し、喉を斬る。

 

「……ふぅ。」

 

 流石に疲れた。

 疲労困憊の中を走り回ったせいか、本当に気を失いそうだ。

 

「よくも……。」

 

 声のする方を振り返る。

 すると、そこには騎士団長が剣を杖にしながらこちらに向けて近づいてきていた。

 

「良くも俺の部下を!」

 

 剣を構え、こちらに向けて駆け出してくる。

 まずい。

 もう立ち上がるのも難しい。

 

「はい、そこまでです。」

 

 すると、騎士団長の眼の前にレインが現れる。

 そして、容赦無くナイフを鎧の隙間から一瞬の内に何度も突き刺す。

 

「……ぐ。」

 

 騎士団長はなすすべなくその場に倒れる。

 ビクともしない。

 死んだのだろう。

 危なかった。

 こればかりは本当に死んだと思ってしまった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 安心し、倒れそうになってる所をレインに抱きかかえられる。

 レインが来なければ本当に死んでいた。

 

「……ありがとうございました。」

「すぐにキャンプに戻りましょう!」

 

 レインに抱きかかえられながら俺は意識を失った。

 何はともあれ、作戦は成功したようで何よりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る