第11話 再開 Ⅲ
「……なぁ、本当にこの坑道は外につながってるのか?」
「あのアルフレッドを閉じ込めた時にいつの間にか逃げてたんだからそういうことだろ?」
足音が近付いてきた。
それに段々と話し声が聞こえてくる。
「そういや、アルフレッドの母親の最後の死に様面白かったよな!」
「あぁ、アルには手を出さないでー!ってな。あれはウケたわ。ま、最後まで喋らせるつもりはなかったからすぐ殺したけどな。」
その言葉を聞き、怒りを覚える。
つまり、奴等は母さんを殺した張本人だ。
「抑えて下さい。今はまだ早いです。」
「……分かってます。」
ナイフを握る手に力が入る。
まだだ。
まだ『隠密』を発動するわけには行かない。
レインの言う通り、早すぎる。
「お、曲がり角だな。」
眼の前の角から灯りが近付いてくる。
「今です!」
レインの小声の合図に応じ、スキルを発動させる。
「ん?」
「どうした?」
「いや……。気のせいだろう。」
タイミングが少し遅かったのか感づかれる。
曲がり角から二人現れる。
カインの取り巻きだ。
まだ気付かれてはいないようだ。
「お?灯りがあるぞ。つまりは出口か。」
「やっとか……。さっさと出て帰ろうぜ。」
油断したその隙に松明を蹴り飛ばす。
「何!?」
咄嗟に二人は剣を構える。
が、こいつらは暗闇に目が慣れていない。
それにスキル『隠密』で気付かれていない筈だ。
「くそっ!『ファイアボール』!」
すると松明を持っていた男がスキルを使った。
火の玉を出すスキルだ。
「っ!そこか!『ライトニング』!」
「っ!」
雷撃が放たれ、狙いがこちらだったのですぐに躱す。
が、スキル『隠密』の効果は消えていない筈だ。
何故気付かれていないのにこちらに攻撃が来るのか。
「アルフレッド君!影です!」
「っ!そういうことか!」
二人の放ったスキルが光源となり、俺達の影を映し出している。
つまり、スキルでは影までは消せないということか。
すると、レインが手を離し、突如として二人の前へと姿を表す。
「っ!こいつか!」
「……中々の上玉だな。」
先程フードを外したので顔が丸見えだ。
囮になるために姿を表したのだろうが、顔までバラす必要は無いだろう。
レインは慌ててフードを被っている。
……もう遅い。
「……。」
レインは動かない。
ナイフを構えるのみだ。
……成る程。
そういうことか。
(ティル。『隠密』はまだ行けるか?)
(はい。あと三十秒程です。)
レインならば軽々と二人を殺せるだろう。
だが、殺さない所を見ると俺に母さんの復讐の機会をくれているのか、もしくはスキルを奪わせたいのだろう。
「へっ!二対一だからビビって攻めてこれねぇのか!」
「さっさとやっち……。」
最後まで喋らせるつもりはない。
背後から喉元を切り裂く。
男は血を吹き出し、倒れる。
まずは一人。
「お前等も母さんの言葉を最後まで聞かなかったんだろ?」
ナイフが光る。
(スキル『ライトニング』を奪いました。)
隣の男は腰を抜かし、座り込む。
俺は『隠密』を解除する。
「……なぁ、聞かせてくれよ。母さんの最後を。どうやって殺したのか。」
「ふ、ふざけんなよ!『ファイアボール』!」
俺がまだ殺すつもりが無いと知ったからか反撃してきた。
まずい。
この距離で躱すのは……。
「……ん?」
「大丈夫ですか?」
気が付けば俺は男の背後に立っていた。
俺の肩にはレインが手を置いている。
「『ワープ』でアルフレッド君の近くまで移動して、肩を触ってもう一回『ワープ』したんです。怪我は無いですね?」
「は、はい。ありがとうございます。」
今のはまずかった。
圧倒的優位であると油断した。
あんな真似は二度とないようにしなければ。
流石はレインだ。
そのスキルもあってトップを争う実力というのも頷ける。
「……さて、さっきの質問の続きだ。ちゃんと答えてくれれば悪いようにはしない。」
「ひいっ!わ、分かった!分かったから!」
背後から喉元にナイフを当てる。
もはや俺を殺すことは不可能と悟ったのかペラペラと話してくれた。
「あ、アイツが『ライトニング』で痺れさせてから縛って、油を撒いた!目を覚ますとすぐに状況を把握したのかアルフレッドに手を出すなといったんだ!それだけだ!」
「……それで、お前が最後まで話を聞かずに『ファイアボール』で燃やしたのか?」
男は必死に頷く。
「そうか。」
そのまま喉を切り裂く。
「な……なんで……。」
「苦しまないようにしてやったよ。まぁ、『奇襲』も『不意打ち』も使ってないからお仲間みたいに即死ではないがな。」
そして、ナイフが光る。
(『ファイアボール』を奪いました。お疲れ様でした。)
レインの元へと行く。
「死体は隊長達の下へ送っておきますね。アルフレッド君は待ってて下さい。」
「あっ!ま、待って下さい!」
すぐに死体を片付けようとするレイン。
が、話したい事がある。
今言わなければ後々気まずくて言わないだろう。
「その……。ありがとうございました。」
「え?お礼ならさっきも……。」
俺は首を横に振る。
「いえ、スキルを沢山手に入れて実力を身に着けたと油断していました。レインさんのお陰で自分の弱さを思い知りました。ありがとうございます。」
そう言うと、レインは少し笑って見せた。
「なんだ、そんなことでしたか。良いんですよ。私も最初は弱かったですし、アーロン隊長にしごかれてここまでこれたんです。これは恩返しですから。」
そう言うレインは何処か悲しそうだった。
本人に感謝しているのだろうが、恩返し出来ずに死んでしまい、後悔していたのだろう。
「……じゃあ、死体を片付けます。少し待っていて下さい。」
「……はい。」
そう言うと、レインは死体と共に消える。
一人残された坑道で俺はナイフの素振りをした。
今後はあんな真似はしない。
決して油断はしない。
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