第4話 俊足 Ⅲ

 どうする。

 どうすればこの状況を抜け出せる。

 背後に窓はあるが割ってから逃げるには時間がかかりすぎる。

 それに狭い。

 抜け出せずにはまってしまえば詰みだ。

 

「どうした?来ないのか?」

 

 どうする。

 早くしなければ……。

 

(主様。あと十秒程で『隠密』の効果が切れます!)

 

 ……考えている暇は無い。

 一か八か。

 自分の場所はバレるが、やるしかない。

 

「……ん?」

 

 セインの死体を持ち上げる。

 死体を盾に進み続ける。

 

「……馬鹿だな。」

 

 カインは即座にセインの死体を貫いた。

 セインの死体の背後に犯人がいると知ってのことだ。

 が、そうなることは予想済みだ。

 今しかない。

 

「……一人だけだな。」

 

 貫いた感覚が一人だけだった事に違和感を感じたのだろう。

 だがもう遅い。

 俺はカインが突いてくると信じ、出来るだけセインの死体の中央から外れて死体を運んだのだ。

 もし横に斬られていたら死んでいた。

 セインの死体を突き放し、カインに寄りかからせる。

 

「な!?」

 

 想定外の事態にカインは態勢を立て直せなかった。

 俺はナイフを握りしめる。

 

(スキル『俊足』だ!)

(了解です!)

 

 そのまま最高速度でその場を離脱した。

 

「……くそ。逃がしたか。」

 

 

 

「……はぁ、何とかなったな。」

(間一髪でしたね。スキルが奪えていなかったら危なかったかも。)

 

 ティルの言う通りだ。

 何故バレたのか。

 それは分からないが、今後はもっと警戒して事にかからねば。

 

(そういえば、寝床はどうするんですか?)

 

 そうか、それも考えねば。

 

(昨日は野宿でしたけど、主がそんな状態で過ごすのは見逃せません。)

 

 ……どうしたものか。

 どこかに居を構えれば身柄を拘束されかねない。

 近くの洞窟なんかは村人は把握している。

 森の中に居を構えるのも無理がある。

 姿を表さない俺をいずれ村民達は疑い始めるだろう。

 ……そうだ。

 あのスキルがあったな。

 

(あのスキル?)

 

 ……次の標的が決まった。


「次の標的は『キャンプ』だ。」

(キャンプ?)


 このスキルは輸送隊等で重宝されるスキルだ。

 どんな場所でも規模に制限無くキャンプを作ることが出来る。

 

(……お詳しいですね。)

「まぁ、授与の儀式の前にかなり調べていたからな。」

 

 奴等に復讐するためにどんなスキルなら良いか、名前だけで判断するのではなくとにかく調べ続けた。

 

(そのスキルを持っている人は誰なんですか?)

「……セラの姉であるフレンだ。」

 

 セラも美人で有名だったが、姉のフレンは村一番の美人で有名だ。

 そして、カインの彼女でもある。

 つまり、完全にカインを敵に回す事になる。

 

(危険では?)

「まぁ、そうだろうな。でもこのスキルは欲しい。『俊足』のお陰で逃げられなくなる事は殆どなくなった。やれる。……いいやってみせるさ。」

 

 あの『剣聖』スキルを持つカインを殺すためにそれくらいの困難は乗り越えなければならない。

 

「それに、捜査を撹乱させる良い手になるかもしれない。」

(……成る程、同じ家族から複数人被害者が出たとなれば警備や捜査はセラさんの家族や関係者に集中するでしょうしね。)

 

 さて、ひとまず今日は野宿だ。

 森の中の食べられるものは掌握している。

 早く採集して夜に備えよう。

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