第2話 俊足 Ⅰ

 後日、俺は遺体を処理しなかったのであの公園にあったセラの遺体はすぐに発見された。

 警察が集まり、野次馬が集まっていた。

 俺は公園を見渡せる高台から現場を見ていた。

 

(……体調は大丈夫ですか?)

「問題無い。」

 

 寝床が無く、野宿した事を心配されたらしい。

 このナイフについてもいずれちゃんと知りたい所だ。

 

(まぁ、それについては追々。あと、私にはティルという名があります。このナイフだなんて呼び方はやめて下さい。)

「……分かった。」

 

 すると、野次馬の中に例の俺を虐めていた奴等が現れる。

 

「え?何?セラが?」

「嘘!?なんでよ!」

 

 セラと仲が良かったものは泣いていた。

 そして、遠くからありえない速度で近付く影があった。

 

「うわっ!」


 その場に突風が吹く。

 急ブレーキしたせいだろう。


「セラが死んだって!?本当なのか!?」

「セイン……。」

 

 あの男はセイン。

 密かにセラに思いを寄せていた男だ。

 

(あれが二人目ですか?)

「あぁ。」


 セインに虐められていた記憶が蘇る。

 

 

 

 数年前。

 俺はセインに半ば誘拐に近い形で連れ出された。


「セラに優しくされて喜んでじゃねぇよ!」

 

 椅子に縛り付けられ思い切り殴られる。

 セインは俺がセラと仲良くしていると勘違いし、俺を虐めていた。

 

「別に……。そんなんじゃ……。」

「口答えすんじゃねぇ!悪魔の手先のくせに!」

 

 腹部を蹴られる。

 その勢いで、椅子ごと倒れた。

 

「クソが!」

 

 更に蹴られる。

 

「そこで反省してろ!」

 

 ここは村外れの小屋。

 助けは来ない。

 セインはそのまま出ていった。

 

「……クソ。」

 

 セインが遠くに行った事を確認し、隠し持っていたガラスの破片で腕を縛り付けていた紐を切る。

 手は血だらけだが、そんな事はどうでも良い。

 今はこの場を切り抜けるだけだ。

 ……この生活にも慣れてしまった。

 

 

 

「あいつも殺す。必ず。」

 

 ナイフを握りしめる。

 そして、スキル『隠密』を発動させる。

 効果は一分間。

 どんな状況でも相手の認識外になることが出来る。

 高台から飛び降りる。

 それくらいの高さだ。

 一気にセインの元へと駆け寄る。

 

「ん?」

 

 視線を感じた。

 その方向を見るとカインがいた。

 刀を持っている。

 そして、確実にこちらを見ている。

 

(主様!逃げて!感づかれてます!)

 

 セインを殺し、スキルを奪って逃げるつもりだった。

 が、カインに気づかれている?

 いや、動かないということは完全には気付いていないが、違和感を感じている程度か。

 奴のスキル『剣聖』は全ての能力が強化される。

 第六感のような物も強化されるのか。

 急ぎその場を離れる。

 

「……。」

 

 カインは刀に手をかけつつ警戒を解いた。

 どうやらどうにかなったようだ。

 

(どうするのですか?)


『隠密』の効果は切れた。

 再度使用するには一分間待たなければならない。


「……やはり、俺には待ち伏せのカードしか切れないか。」

 

 公園の様子を見つつその場を後にする。

 俺は諦めない。

 必ずやあいつら全員殺してやる。

 一人一人、確実に。

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