奇襲スキル持ちの復讐劇〜スキル奪って無双します〜

@nakamurayukio

第1話 スキル授与、そして復讐の始まり

「おい、アルフレッド!こっち来いよ!」 


 そう言われ、言われるがまま、近寄る。

 

「え!?」


 すると、突然足元が崩れ、体がすっぽり地面に埋まった。

 中にクッションになるような物は無く、体が痛い。


「はっ!?馬鹿じゃねぇの!?」

「正直に来るとか馬鹿過ぎだろ!」

 

 上から石を投げつけられる。

 拳ほどの大きさで、咄嗟に頭を守る。

 

「その黒い髪、母ちゃんが言ってたぞ!魔王の手先だってな!」

「早く死んでおけよ!魔物の手先!」


 更に石を投げつけられる。


「ちょっとちょっと!やめなよ!こんな穴掘って!」

「ほら、早くあっちいきな!」


 すると、女子の声が聞こえてくる。

 女子は穴を覗く。


「大丈夫?一人で出られる?」

 

 女子は手を差し伸べてくる。


「あ、ありがとう……。」


 その手を取り、地上へと上がる。

 すると、女子はにたりと笑い、そして急に泣き始めた。


「最悪!悪魔の手先に触られちゃった!」

「……え?」

 

 すると、他の女子も駆け寄ってその手に持っていた水筒から水を出し、洗い始めた。

 そこまで想定していたらしい。

 先程の石を投げていた男子達も来た。


「おい!大丈夫か!?」

「お前、キモいんだよ!調子のんなよ!」

「さっさと死ねよ!」

 

 殴られ、蹴られ、急所に入り、俺は嘔吐する。

 

「うわ!汚ねぇ!」

「ちょっと汚れたんだけど!サイアク!」

「おい!弁償しろよ!」

 

 嘔吐物が女子の靴にはねる。

 それを理由にさらに蹴られる。

 俺は耐えられず、その場に倒れた。

 が、それでも蹴り続ける。

 口の中に広がる血の味を感じながら、俺は耐えた。

 

「ちょっと!やめなさいよ!」

「げ!セラが来やがった!」

「逃げろ!」

 

 その様子を見ていた一人の女子が近付いてくる。

 

「大丈夫?」

「う、うん……。」

 

 親切そうに話すこいつはセラ。

 一見すれば虐めを見過ごせない優等生だが、俺は知っている。

 こいつは最初から見ていたのだ。

 機会を見計らって介入して来た。

 こいつが友達と話しているのを偶然聞いたことがある。

 こいつも俺を見下している。

 自分の価値を上げるために利用しているのだ。

 

「もう、あいつ等酷いわね。アルフレッド君が悪い事したわけじゃないのに。」

「……じゃあ。」

 

 そのままその場を後にしようとする。

 

「ちょ、ちょっと!……ちぇっ!……まぁ良いか。」

 

 舌打ちが聞こえてしまう。

 俺はそのまま帰路についた。

 

 

 

「おかえり……。アル!?どうしたの!?」

「……いや、何でも無い。ちょっと派手に遊んだだけだよ。」


 家に帰るなり親に心配される。

 父は早い内に他界し、母が一人で支えてくれている。

 心配させるわけには行かない。

 俺の家は村八分にされ、この集落全体から虐められているようなものだ。

 というのも、この黒い髪は父譲りで周りの者にこの黒い髪を持つものは居ない。

 魔王とやらがいるという東から父がやってきた事も原因らしい。

 そんな事で悪魔の手先だとか魔物の手先だとか言われている。

 それでも母は父を見捨てなかったのだ。

 苦労はさせたくは無い。


「……そう。明日はスキル授与の儀式の日なんだから早く寝なさいね。ご飯出来てるから。」

「……分かった。」


 もう遅い。

 すでに寝る時間だ。

 早く食事を済ませて寝よう。

 ……風呂も入らなくては。

 母はそのまま自室へ戻った。


「スキルか……。」

 

 スキル授与。

 一人に一つのスキルが18歳になったら与えられる。

 戦闘系のスキルから製造系のスキル、探索系等多岐に渡る。

 そして、スキルというのはある程度遺伝するらしい。

 父のスキルは『隠密』、母は『料理』らしい。

 

「隠密だったら……。」


『隠密』はどんな状況でも相手の認識から外れる事が出来るスキル。

『料理』はどんな料理も完璧に作れるというものらしい。

 自分には何が来るのか……。

 隠密ならば、復讐出来る。

 が、母の望まぬ事はしたくない。

 悲しませたくは無い。

『料理』スキルを駆使して作られた美味しい夕食を食べつつそんな事を考えていた。

 

「……寝よう。」

 

 軽く風呂を済ませ、布団に入る。

 スキルを得られれば状況が変わるかもしれない。

 早く寝よう。

 

 

 

「え?……母さんが?」

 

 スキル授与の儀式直前に、地元の警察から話を聞かされる。

 神殿にはすでに多くの人が集まっている。

 周りの人たちは既に授与された後だった。

 

「……火事だ。家は全焼、残ったのはこれだけだ……。」


 そう言いながら警官は一本のナイフを渡してくる。

 禍々しいデザインが特徴の短剣。

 刃先が鎌のように曲がっている。

 父の形見だ。


「そんな……。」


 周りには俺を虐めていた奴等がいる。

 そいつ等は俺を見てクスクスと笑っていた。

 

「フフフ……。何泣いてんの?ウケるんですけど。」

「まさかあんなに勢いよく燃えるなんてね〜。」

 

 ……恐らくこいつらが火を放ったのだろう。

 最後は儀式に向かう俺を玄関から笑顔で見送ってくれた母さん。

 こいつらはその笑顔を永遠に奪ったのか。

 警官からナイフを受け取る。

 そして、スキル授与の儀式を始める。

 

「さぁ、アルフレッドよ。神に祈るのです。」


 神官が儀式を始める。


(……神?)

 

 拳を強く握りしめる。

 そんな奴がいるのなら、こんな運命を与えた神を許しはしない。

 

(そんな奴……どうでもいい。)

 

 唯一の肉親である母はもう居ない。

 ならば、悲しませることも無い。

 

(俺は……こいつ等を殺す力が欲しい!)

 

 自分に光が降り注ぐ。

 スキルが授与された証だ。

 

「アルフレッドよ。そなたのスキルは何だ?」

 

 神官が聞いてくる。

 が、答えるつもりは無い。

 

「……何?アイツ笑ってるの?」

「キモ……。」

 

 思わず笑みが溢れてしまう。

 聞いたこともないスキルだが、その効果は最高だ。

 

「ね、ねぇ!アルフレッド君!」

 

 肩を掴まれる。

 振り向くとそこにはセラがいた。

 

「スキルは?どうだったの?」

 

 母のことでは無いのか。

 やはり、こいつはクソだ。

 スキルがどういった物か、それだけにしか興味が無いらしい。

 その手を振り解き、その場を後にする。

 

(こんなに最高のスキル、知られてたまるか。)

 

 ナイフを握りしめる。

 今夜が楽しみだ。

 

 

  

「ね、ねぇアルフレッド君?来たよ?どこにいるの?」

 

 その晩、手紙でセラを呼び出した。

 人気の無い公園だ。

 

「……帰ろ。」


 そう言い、セラは振り向いた。

 俺は茂みから様子を見ていた。

 今なら背後ががら空きだ。

 一気に駆け寄り膝の裏を木の棒で殴る。

 

「痛っ!」

 

 そのままバランスを崩し、膝をついた所を狙い、腹部を思い切り蹴る。

 倒れた所を馬乗りになって殴り続ける。

 

「かはっ!」

 

 俺が授かったスキルは『奇襲』。

 スキル『奇襲』は相手が認識していない場合、相手に与えるダメージが五倍になるというものだ。

 今、こいつが受けているダメージは物凄いだろう。

 セラは血反吐を吐いている。

 スキルのおかげか。

 

「あ、足が……。」

 

 簡単に殺してはつまらない。

 出来るだけ苦しんでもらわなくては。

 足もダメージから立ち上がれないようだった。

 

「……。」

「ア、アルフレッド君?どうして……。」

 

 顔を殴る。

 が、認識されているからかダメージは少ないようだ。

 やはり、認識されてしまえばスキルの効果は切れるようだ。

 

「ご、ごめん。許して!もうやめて!」

「……俺がそう言っても誰もやめてくれなかった。お前も自分に都合のよいタイミングで入って来たにすぎないだろ!俺は知っている!お前はずっと見ていた!なのに助けに来なかった!」

 

 さらに殴り続ける。

 俺は決して力が強いわけではない。

 懐にある父の形見のナイフを使えば簡単に殺せる。

 が、使わない。

 痛めつけてやる。

 

「ま、待って!脅されてたの!アイツに!カインに!」

「……何?」

 

 手を止める。

 

「カインに……彼に止めに入るタイミングを指定されてたの!だから助けたくても助けれなかった……。」

「……誰がお前の言う事を……。」

「信じて!お願い!」

「……。」

 

 少し話を聞いてみても良いだろう。

 カインの噂は聞いている。

 馬乗りになっていたのをやめ、背を向ける。

 木の棒を拾おうとした。

 その瞬間。

 

「……馬鹿ね!」

 

 後頭部を思い切り殴られる。

 尋常じゃない痛さだ。

 女の力ではありえない。

 そのまま倒れ、俺が持ってきた木の棒を奪われ、殴られ続ける。

 ……まさか。

 

「私のスキル『不意打ち』は相手が油断した所を攻撃したらダメージが二倍になるというもの!良くも私の顔に傷をつけれくれたわね!死んでよ!」

 

 そう言いながら、セラは笑いながら殴り続ける。

 油断していないからかスキルの効果は切れ、今は痛みはそれほどでもない。

 が、頭部を殴られ続ければ本当に死ぬかもしれない。

 こいつのスキルは俺のスキルの劣化版か。

 

「……クソが。」

 

 もう油断はしない。

 懐にある形見のナイフを握りしめる。

 

「っ!?どこ行った!?」

「……?」

 

 すると、何故かセラの攻撃の手が止まる。

 取り敢えずその隙にその場を移動する。

 やはり、セラは俺に気付かず探しつづけている。

 そして、頭の中に声が流れ込んでくる。

 

(私はこのナイフの意思。私の名はスキルテイカー。スキル奪いと呼ばれているナイフです。)

 

 ナイフを見る。

 不思議なナイフだとは思っていたが、こんな特殊なナイフだとは。

 

(特殊なナイフ……。そう言われても仕方がないでしょう。私は太古の昔に、禁止された手法で作られたナイフですので。)

 

 どうやらこちらの思考は読み取られるらしい。

 

(私が過去に奪ったスキルは『隠密』。彼女は貴方の存在を完全に見失っています。)

 

 ……父の形見のナイフが父のスキルを持っている。

 ……考えるのは後だ。

 俺はセラの背後から忍び寄り口元を抑えた。

 

「……死ね。」

「……え?」

 

 そのまま首を掻っ切った。

 血を吹き出し、セラは倒れる。

 すると、ナイフが僅かに光る。

 

(彼女のスキル『不意打ち』を奪いました。これで私は『隠密』と『不意打ち』の二つを持っていることになります。)

 

 まだ復讐は始まったばかりだ。

 眼の前の死体を見る。

 彼女のスキルは他の奴等に比べてまだまだ弱い。

 他の虐めていた奴等のスキルは非常に優秀な物ばかりだ。

 これだけでは足りない。

 やはり、カインだ。

 こいつが言っていた事が嘘だとは思えない。

 俺の虐めに関与しているのは確かだろう。

 

(カインのスキルは何ですか?)

「あいつのスキルは『剣聖』。全ての能力が五倍となる。今の俺じゃあ殺せない。」

 

 最強のスキルだ。

 ならば狙わない。

 このナイフがあればスキルを集め放題だ。

 強くなってから狙えば良い。

 ならば次は……。

 

「セイン。あいつのスキルは『俊足』。速さが三倍になるというものだ。」

(……成る程。奇襲が失敗し、見つかっても逃げて認識から外れられるように、ということですね。)

 

 奴は強くはない。

 カインを殺すための土台となってもらおう。

 

  



 保有スキル


『隠密』   強制的に相手の認識外になる

『不意打ち』 相手が認識していない場合、攻撃力が二倍。

『奇襲』   相手が認識していない場合、攻撃力が五倍。

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