第8話 暇つぶしに眺めてた人間がクッソキショイ夢見始めた件
ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。
地平線まで見渡せるだだっ広い空間。
頭上には桃色がかった乳白色の空が広がり。
足元には雲の大地がどこまでも続いている。
「……そうか。俺は死んだのか」
なろう系コンテンツでは割とよくある光景である。
どうやら俺は美一の金的で即死したらしい。
大袈裟だとは思わない。
あそこはエロ漫画の世界だ。
そして俺はその世界の竿役だ。
重要なのは俺にぶら下がったバカでかい竿であり、俺個人ではない。
言ってしまえば俺自身は竿についたオマケみたいなもんで、竿役としての機能を失った俺が世界から見捨てられるのは当然とも言える。
心残りがないわけではないが、不思議と美一に対する恨みはなかった。
彼女もまた俺と同じく、いや、それ以上に被害者なのだ。
俺という竿役に与えられた都合の良いヒロイン。
それが美一游だ。
俺が美一を拒絶した事で彼女は役割を失い、エロ漫画世界は静かに破綻したのだろう。
あの世界を作った変態神はエロ漫画世界をあるべき形に戻す為、登場人物の変更を画策したに違いない。
神の力で美一の嫉妬心を増幅させ俺を殺させたのだ。
俺はしがない竿役の竿谷だ。
代わりなんて幾らでもいる。
俺を舞台から降ろした後、別の誰かが竿役のポジションを引き継ぐのだろう。
こんな事になるのならお堅いことを言わずに美一と一発やっておけばよかった。
そんな考えがチンカス程も頭を過らなかったと言ったら嘘になる。
それでも俺は、美一に手を出さなくてよかったと思っている。
運命に抗った事で俺は俺自身の貞操と誇り、魂の純潔を守り、結果的に美一の貞操と誇り、魂の純潔も守ったのである。
その事に美一が気付く機会はないだろうがそれでもいい。
こんな馬鹿げた事実、知らない方が幸せだ。
願わくば、俺のささやかな反逆により彼女も役から降ろされて本当の人生を歩めるようになればいいのだが。
「――竿谷さん。突然ですがあなたは死にました」
そろそろかなとは思っていた。
案の定、振り返ると女神様としか言いようのない、薄布を纏っただけの金髪デカパイ美女がアンニュイな表情で立っている。
「次はチートマシマシで俺つえー出来るなろう系異世界ファンタジーの世界でお願いします!」
言いたい事は山ほどある。
なんであんな世界を作ったのかとか。
俺に恨みでもあるのかとか。
どうせ作るんならもうちょっとエロ漫画のディティールに凝れよとか。
でも、言った所で仕方ない。
だって相手は戯れにエロ漫画の世界を作ってしまえるような絶対的な力を持った狂人だ。
下手に歯向かってダークソウルライクな世界にでも転生させられたらたまらない。
もしかしたら別の部署の神様の可能性だってあるし。
なんにせよ、これはどう考えても転生チャンスだ。
ならば、ダメ元でも男の憧れなろう系ファンタジーの世界を希望するに越したことはないだろう。
「いいでしょう。ただし一つ条件があります」
「条件? なんでしょうか?」
それにしてもなんてエロい女神様なんだ。
神様だから当然なのかもしれないが、この世のモノとは思えないエロさである。
まるで俺の性癖を詰め込んだみたいにドンピシャだ。
エロ漫画でもなきゃ許されないくらいデカい胸、薄布に滲むように透ける薄桃色の輪の大きさも素晴らしい。ミニ丈の薄布からはみ出した巨大な桃尻は川に流したらどんぶらこ~と擬音付きでぷかぷか浮かびそうだ。そこから伸びる健康的なおみ足はどこぞの錬金術師や某ヒーローアニメに出て来るジャンク屋の娘にも引けを取らない立派さである。
彼女が美の女神ヴィーナスだとしても驚く事はないだろう。
「私とエッチしてください」
「エロ漫画世界は天界もエロ漫画なのかよ!」
普通そういうのって天界は例外なんじゃねぇの!?
「勘違いしないで下さい。私は勿論神なのでエロ漫画世界の法則の外に居ます。それはそれとして、あなたのアレがあまりにも立派なのでちょっと試してみたくなりました」
薄着の女神に大興奮する不敬な息子にねっとりと視線が絡みつく。
見えない手で嬲られているような気分になり思わず腰が引ける。
まぁ、自分で言うのもなんだが俺はエロ漫画世界の竿役だ。
それだけ規格外に立派なブツを持っているという事なのだろう。
「い、いいんですか? 女神様相手に……」
「私は好色なタイプの神ですから」
「なるほど……」
神も色々いるのだろう。
でも、いいのかなぁ~。
神様とエッチなんて。
しかも俺、童貞だぞ?
「女神と出来る人間なんてそうはいませんよ。筆おろしとなれば猶更です。その分来世の加護もオマケしてあげましょう」
「マジっすか!?」
そんなのやるっきゃないだろう!
こんなエロエロの美人女神様で童貞捨てれてチートまで貰えるとヤバすぎだって!
でも念のため。
「ちなみになんですけど、もし断った場合は」
瞬きもしない内に周囲の光景が地獄に変わった。
人骨の大地を血の川が流れ、頭上には火薬臭い暗雲と文字通りに燃える空。
遠くからは先客達の阿鼻叫喚が聞こえてくる。
「女神に恥を掻かせた人間の末路など知れたものでしょう」
「デスヨネー」
聞いた俺がバカだった。
相手は絶対的な上位種である。
今の俺は人間にとっての犬猫以下、ありんこ並みの存在だ。
選択肢など元より存在しない。
「それで、答えは?」
「も、もちろんやらせて貰います!」
「よろしい」
ニッコリ笑って指を鳴らすと辺りは再び殺風景な雲の上。
そこに一つ、天蓋付きのダブルベッドが追加されている。
「それではしましょうか」
女神の肩から薄布が滑り落ちる。
俺はゴクリと喉を鳴らし。
「ハイ!」
言い忘れていたが俺は全裸で、股間の時計はピッタリ0時を示していた。
そして俺は女神様に誘われるままベッドへと――。
「ぬぁあああああにやってるんですかぁ!?」
ちんちくりんな幼声が響いたかと思うと、セクシー女神様と天蓋付きベッドがドロンと煙のように消滅する。
「な、なんだぁ!?」
振り返ると、そこにはダルダルのスウェットを着た若い女性が立っていた。
引き籠りの日本人形とでも言うべきか。
腰まで伸ばした黒髪に、クラスで6番目くらいの微妙な容姿。
大人であるのは間違いないが妙に幼く、それでいて老けた感じもある。
子供部屋おばさんと言うか、自分を女子中学生だと思い込んでいる三十代みたいな雰囲気の女性だ。
実際胸も皆無で背も小さく、パッと見は中学生のように見えた。
「いくらなんでも失礼すぎるでしょ!?」
「ヘブゥッ!?」
キャミィのスパイラルアローみたいなドロップキックを受けて雲の床をバウンドする。
「ってぇな!? なにすんだよ!」
「それはこっちの台詞です! 一人でバカみたいな夢見るのは自由ですけど、女神とエッチは流石に見過ごせません!」
謎のこどおばが両手で×を作りながらぴょんぴょん跳ねる。
「こどおばって言うなあああああ!?」
「グハッ!? お前、人の思考が読めるのか!?」
「当然です。だって私は本物の女神ですから!」
「女神? お前が? そのなりで?」
「不敬罪!」
「イデェ!?」
謎の紐を引くとどこからともなく降ってきたタライが俺の頭に直撃する。
「とにかく! あなたは死んでませんから! バカみたいな夢見てないで起きてください! あと、エロ漫画の世界とか存在しないですから! するわけないでしょ! 常識的に考えて! あなたのそれはランダム生成の偏りです! ただのおちんちんが大きな高校生がたまたま変な女の子に絡まれてるだけです!」
「黙って聞いてりゃちんちんたまたま、流石エロ漫画世界の女神だぜ」
「違うって、いってんでしょぉおおお!?」
「フゴッ!?」
こどおば女神のちょっと臭そうな素足キックを股間に貰い、俺の意識は雲の床を突き抜けた。
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