第5話 女神が来りて茶をすする
「単刀直入に言いましょう。竿谷君の男性器を私に貸してください」
「イヤです勘弁してください」
やはりここはエロ漫画の世界なんだ。
確信を深めつつ丁重にお断りする。
性懲りもなく呼び出されたのは礼拝堂の近くにある奉仕部の部室である。
愛聖高校というくらいなのでこの学校はカトリック系で、聖書の授業や礼拝堂があったりする。
だからと言って宗教色が強いかと言えばそんな事もなく、国語や歴史の授業の延長みたいなノリである。
待っていたのは奉仕部部長にして二年三組の先輩、
いかにもエロ漫画に出て来そうな名前である。
見た目もそんな感じで、バブ味溢れるおっとり系のお姉さんといった雰囲気だ。
それにしてもなんて巨大な胸だろう。
元気よくパンと張り出した美一のそれとはまた違う、どっしりとした重量感のある巨乳である。
男を惑わす魔性の胸、魔乳と呼ぶのが相応しい。
こんなエロい胸が現実の世界にあっていいはずがない。
つまりこれはエロ漫画の世界だ。
Q.E.D。
証明完了だ。
ここに来るまで紆余曲折があった。
美一が来たがったのである。
『はぁ!? ダメだし! 竿谷はあ~しのセフレじゃん! そんなん浮気と一緒だから!』
『セフレじゃないし浮気でもない。そもそも付き合うどころか指一本触れてないだろ』
『そうだけど……。あ~しとのエッチ断っといて愛園先輩の告白受けるのは納得いかないじゃん!』
まぁ、美一からすればそうだろう。
『別に告白を受けるとは言ってないだろ。手紙の内容も大事な話があるから放課後一人で来いって感じだったし。そもそも告白と決まったわけじゃない』
実際はもっと丁寧な書き方だったが。
『そんなん告白以外あり得ないし! もしそうだったらどうする気!?』
『それはまぁ、相手次第だろ。話してみてまともそうなら付き合うかもしれないし、そうでないならごめんなさいだ』
『そんなん絶対付き合うじゃん! 愛園先輩超可愛いし優しいし! あ~しじゃどう頑張っても太刀打ちできないじゃん! やだやだやだぁ! 行っちゃやだぁ~!』
『だぁ! 子供みたいに駄々こねんな! てか、心配しなくてもそんな事にはならねぇよ! それに、仮に告白でも十中八九断る事になる』
『なんでし!』
『お前以上に面識ないの状態でいきなり告白だぞ? しかもだれかさんのお陰であらぬ噂が立ちまくってるのにも関わらずだ。そんなの絶対まともじゃない。どうせお前みたいな身体目当てだろ。後ろ髪は引かれるが、そういうのは無条件で却下、お断りだ』
それを聞いて美一は少しホッとした様子だった。
『……ならいいけど。だったら行かなきゃいいじゃん』
『そういう訳にもいかないだろ。告白ならしっかり話を聞いたうえで断るのが礼儀だ。というわけで、分かってると思うがついて来るなよ』
『え~!? なんでし!?』
『なんでもクソもあるか! お前は、呼ばれて、ね~の! 一人で来いって言ってんのにクラスメイト連れてったらおかしいだろうが!』
『そ~だけど……。竿谷の事、心配じゃん……』
『討ち入りに行くわけじゃないんだぞ? 心配な事なんかないだろうが!』
『わかんないじゃん! 愛園先輩に迫られてエッチしちゃうかもしんないじゃん!』
『するか!? 俺はな! お前に迫られてもエッチしなかったんだぞ!?』
『だからなに! そんなの理由になんないし!』
『なるだろ……。鏡を見ろよ! この歩く十八禁! 処女ビッチの欲張りボディが! お前の誘惑を振り切るのに俺がどれだけ大変だったと思ってるんだ! 心配しなくても、お前に勝てる程エロい奴なんかそうはいねぇよ! てか居てたまるか!』
まぁ、ここはエロ漫画世界なのでエロい女子なんか幾らでもいるだろうが。
それでもやはり、美一はメインヒロインポジだと思う。
クラスメイトだし、見た目だけでなく中身のポンコツ具合もそそる物がないとは言えない。処女ビッチという設定も斬新だ。
別に俺は処女厨というわけじゃないが、まだ高一だし、実際に自分が付き合うとなればビッチは遠慮したい所である。
いやまぁ、年上の淫乱お姉さんに筆おろしされるのも悪くはないのだが……。
ってバカ! なにを考えてるんだ俺は!
エロ漫画世界でそんな事を考えたら実現しそうで怖い。
ともかくだ。
『にゃぁっ!? そ、そんな事言われたって……。う、嬉しくなんかないんだし!』
と、満更でもなさそうな美一をどうにか言いくるめ、言われた通り一人で来たらコレである。
面識どころか顔を突き合わせるのも初めてなのに、開口一番チンコ貸せだ。
まぁ、そうなるだろうとは思っていたが。
いくらなんでも導入が雑過ぎるだろ!
エロ漫画世界だからって手ぇ抜くなよ!
いや、確かに導入が長すぎるエロ漫画は早くエロパート入れよと思うけれど。
ストーリー物やりたいんなら一般紙で描けよと思うけれど!
仮にもエロ漫画の世界だって言うんならもうちょっと細部にも拘って欲しい。
そんなんじゃ俺を竿役にする事なんか出来ないぞ!
聞いてんのかよ、エロ漫画世界の女神様よぅ!
†
「……いや、そんな事言われても。そこ普通の世界ですし……。そもそもエロ漫画世界とかわけのわからない世界作った事もないですし……」
ここではないどこか。
この世界を司る女神の一人が渋い顔でお茶を啜った。
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