第4話 今日家行っていい?

「ねぇ竿谷。今日暇?」

「暇じゃない」

「いや暇でしょ。小森から聞いたし」

「言うなよ小森……」


 暫く経った放課後の事。


 その日も俺はこのエロ漫画世界の黒ギャルヒロイン枠こと、似非ビッチの美一游に付きまとわれていた。


 エロ漫画展開は回避したが、世界の強制力とやらが働いているらしく、あの日以来美一は友達面で俺に絡んでくる。


 ちなみに小森こと小森昇太こもり しょうたはもう一人の男子生徒だ。


 名前通りショタコン受けしそうな可愛い系のチビ助である。


 不登校になってる奴を除けば一組の男子は小森と俺の二人だけなので、必然的に友達のような関係になっている。


 女ばかりで肩身の狭い中、男二人で色々と支え合って生きているわけだ。


 美一の嘘や彼女との関係、巷で流れる俺の噂が根も葉もない事は知っているはずなのだが。


 見た目通りに気弱な奴なので美一に凄まれてゲロってしまったのだろう。


 たった一人の男友達だし、このクソッタレなエロ漫画世界において男子の小森はエロ漫画展開が発生する心配のない貴重な存在である。小森は俺にとって心のオアシスと言っても過言ではないので責める気にはなれない。弟みたいで可愛い奴だしな。


「なんで嘘つくわけ?」

「どうせエッチの誘いだって分かりきってるからだよ」

「い~じゃんしようよ。もう何回もやってるんだし」

「やってねぇよ! 妄想を垂れ流すな!」


 どうやら美一は継続的に俺とエッチした話を周りに吹聴しているらしい。


 お陰で俺は美一をセフレにしていると誤解されている。


 まったく困った女である。


「嘘も百回言ったら本当になるって言うし? 竿谷の事、あ~しは諦めてないから」

「お前なぁ……。なんでそんなに俺としたいんだよ……」


 当然の質問に美一は真っ赤になって俯いた。


「……そんなの聞かなくたってわかるじゃんか」

「ヤリチン野郎とエッチしたら箔が付くからだろ? くだらねぇ! 何度言ったら分かるんだ! そういうクソみたいな考え方はとっとと便所に流しちまえ! そういう事言ってる間は絶対にお前とはヤらないからな!」

「ちがっ、そんなんじゃないし!?」

「じゃあなんなんだよ。まさか、俺の事を本気で好きになったとか言い出すんじゃないだろうな?」


 俺とエッチする為ならそれくらいの嘘は言う奴だ。


 図星だったのだろう。


 美一は余計に赤くなり、パクパクと空を噛んで言葉を探した。


 結局上手い言い訳は見つからなかったようで、逆ギレを始める。


「……そ、そんなわけないじゃん! 誰が竿谷なんか好きになるし! あんたにあ~しじゃ良い女過ぎて勿体ないから! 調子乗んなし!」

「ほら見ろ。俺はお互いにちゃんと好き合ってる相手としかしねぇって決めてんの」

「あぅ……」


 論破され、美一はなんでこんな事いっちゃったんだろう……と言った感じで俯く。


 が、それくらいでめげる程柔でもないらしい。


 むぅっ! っとファイト溢れる顔で俺を見返すと。


「じゃあ! 友達から! それならいいでしょ?」

「いやだから、セフレとか求めてねぇから」

「そういうんじゃなくて! 普通に友達から! それでちゃんと関係を深めてから……」


 後半はごにょごにょ言っていて聞き取れなかった。


「……まぁ、普通の友達なら別にいいけど」


 悩ましい問題ではあった。


 美一はこのエロ漫画世界のヒロイン枠で、俺は主人公の竿役だ。


 エロ漫画世界の強制力はどうにかして俺達にエッチさせようとするだろう。


 愛無き不毛なエッチを避ける事を考えれば、一切の関係を断った方がいい気もする。


 けど、それを知らない美一を一方的に邪険にするのは可哀想ではある。


 俺になにかしらの好意を抱いているのは事実のようだし、友達になりたいという言葉にも嘘はなさそうだ。


 嘘つき女ではあるが、不思議と憎めない奴でもある。


 だから、友達くらいならいいかなと思ってしまう。


 というか、こんな世界でなかったら喜んでお近づきになりたいくらいのエロかわ美少女なのだ。


「マジィ!? やったぁ! じゃ、じゃあ、早速今日家行っていい?」

「ダメだ」

「なんでし!?」

「どう考えてもヤル気だろ」

「そ、そんな事ないですけど……」


 あからさまに目が泳ぐ。


「嘘こけ。てか、普通に考えてただの女友達を家に呼んだりしないだろ」

「いーじゃんか! 女のあ~しがこれだけアピールしてんだよ? 据え膳じゃんか! 竿谷のバカ! 意気地なしの甲斐性無し! それでもチンチンついてんの!」

「なにが据え膳だバカらしい。今は令和だぞ? そういうのには手を出さない方がよっぽど男らしいっての」


 なにを言われようが俺の意思は固い。


 俺だって男だ。


 本音を言えばエッチはしたい。


 相手なんか誰でもいいし、それが美一みたいな巨乳でムッチムチのエロかわ黒ギャルなら最高だ。


 けど、そんな本音を実行してしまったらただの獣である。


 人間は理性で本音を抑え込めるから人間なのだ。


 俺は獣にはなりたくない。


 人間として愛のあるエッチがしたい。


 美一にもそうなって欲しい。


 だから絶対手は出さないし出させない。


 そんな俺を自分でもかっこいいと思う。


 つまりこれは俺の美学の話なのだ。


 というわけで俺はさっさと帰ってシコりたかった。


 美一みたいなエロかわギャルに誘惑されたら嫌でも息子がムラムラする。


 どれだけ心だ理性だと言った所で身体は本音の味方である。


 人間は弱い生き物でもあるし、俺自身聖人君子を名乗るつもりはない。


 むしろ性欲が強い分人一倍危うい存在だと自負している。


 だからこそ、悪魔の誘惑に乗らない為にセルフケアは欠かせない。


「ん?」

「なに、どうかしたし?」


 唐突だが、下駄箱を開けたらまたしてもラブレターらしき封筒が入っていた。

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