第3話 俺のマラ棒で往復ビンタ喰らわせてやる
「で。何処でする?」
「いやしないが」
「は?」
「は? じゃなくて。俺は美一さんとはエッチしないから」
「なんでだよ!」
「なんでって……。むしろ俺が聞きたいんだが?」
どこの世界にろくに面識もないクラスメイトのエロギャルにチンコを貸す男がいるよ。
まぁ、エロ漫画の世界ならよくある事なんだろうが。
生憎俺はまともな世界の魂を受け継いでいるらしい。
魅力的な誘いではあるが、彼女でもない相手とエッチをするつもりはない。
俺の童貞は心から好きだと認めた相手に捧げると決めているのだ。
てか、こんな訳の分からない相手とエッチするとか普通に嫌だし。
病気とか貰いそうで怖いだろ。
「だってあんた、女と見れば親友の彼女にも手を出す性欲オバケのヤリチン野郎で、中学の頃は寝取りの竿役とか呼ばれてたんでしょ?」
「呼ばれてねぇよ! どこ情報だよそれ!」
びっくりしたわ!
デマにも程があるだろ!
「おっかしいなぁ……。竿谷と同じ中学だった女子がそう言ってたって噂になってんだけど」
「そいつを今すぐ連れて来い。俺のマラ棒で往復ビンタ喰らわせてやる」
しまった。
つい中学時代の男子ノリを出してしまった。
こいつは俺の鉄板ギャグなんだが。
もしかするとそれすらもこの世界がエロ漫画ヴァースである影響なのかもしれない。
「いや無理っしょ。あ~しもまた聞きだし。誰が言ってたかなんて知らないから」
「なんて迷惑な話だ……」
てか、一人称があ~しのギャルってマジかよ。
そんなの絶対エロ漫画だろ!
くそ! 前世でどんな罪を犯したらこんな事になるんだよ!
エロ漫画の違法ダウンロードサイトを運営してたとかか?
いや、それならもっと重い地獄に堕とされるか。
精々地震のせいで一万冊のエロ漫画に押しつぶされた中年童貞とか、性癖を拗らせすぎた売れないエロ漫画家くらいが妥当か。
「ともかく俺はヤリチンでもなければ親友の彼女を寝取った事もない。そもそも俺は童貞だ!」
「その顔で童貞!? 絶対嘘じゃん!?」
「どんな顔だよ!?」
「いぇ~い彼氏君見てる~? みたいなハメ撮り動画送ってそうな百人斬りセックスモンスター?」
「そんな……嘘だろ……」
鏡を向けられ愕然とする。
美一の言う通り、そこに映るのはエロ漫画の寝取りの竿役としか思えないオラついたツーブロック男だった。
「いやいや、自分の顏じゃん。驚く事ある?」
「色々事情があるんだよ!」
愛聖でモテる為に友達に教えてもらったイケてる美容院でモテる髪型にして貰ったのだ。
いわゆる高校デビューという奴だ。
その時はなにも思わなかったというか普通にかっこいい髪型だと思ったのだが。
元々無駄にガタイが良い事もあり、改めて見ると完全にエロ漫画の寝取りの竿役である。
「なんでもいいけど。てかチンコ貸してよ」
「だからイヤだって! そんなもん教科書感覚で貸せるかよ!」
「い~じゃん。減るもんじゃなし。ちょっと出し入れするだけじゃん」
「これだからエロ漫画世界の住民は……」
「はい?」
「なんでもない。こっちの話だ」
言った所で無駄である。
「それより、なんで美一さんは俺とエッチしたいんだよ」
「そりゃ噂になってるし。竿谷とやったら自慢出来るじゃん?」
「出来ないだろ!? 親友から彼女を寝取る最低のヤリチン野郎だぞ!?」
「まぁそうなんだけど。あ~しも一応ビッチだし? 箔が付くって言うか? うちって元女子校のお嬢様学校じゃん? 興味はあるけど経験ないって子多いからさ。一種のステータス的な?」
「……なんだよそれ。くっだらねぇ! そんなゴミみたいな価値観は今すぐゴミ箱に捨てちまえ!」
思わず声を荒げる俺に、美一がビクリと肩を怯えさせる。
「……そんな怒る事ないじゃん」
「いいや怒るね! 好きな相手としかしちゃだめだとは言わないけどよ、美一さんは女の子だろ! しかもまだ高一だし! 子供出来たらどうすんだよ!」
「それはほら、ちゃんとゴム? してるし……」
それまでの太々しい態度はどこへやら。
美一は急にしどろもどろになった。
エロ漫画世界のビッチにも一欠けらの理性は残っているらしい。
ならば、俺の言葉が通じる余地はある。
「あのなぁ! コンドームだって絶対じゃないんだぞ!」
「え、そうなの!?」
「そうなの!」
やっぱり分かってなかったか。
「妊娠問題抜きにしても適当な相手と軽率にヤルのはよくないだろ。そんな男は絶対まともじゃないし。乱暴されたり病気になったり、美一さんにとってもよくないって! 今はいいかもしれないけど、いつか絶対後悔するぞ。悪い事は言わないから、ビッチなんかやめた方がいいって! ってかやめろ。そんなんで箔つけなくたって美一さんは十分魅力的だから!」
「にゃ!?」
奇声をあげると美一の顔が赤くなる。
「い、意味わかんないし……。魅力的とか、別に話した事ないのに適当言うなし!」
確かにその通りなんだが、ここで怯むわけにはいかない。
「話した事はないけどさ。ビッチって事はモテるって事だろ? 俺が言いたいのは……。美一さんならそんな風に自分を安売りしなくたって十分モテるって事だよ! むしろ安売りなんかしたら勿体ないって! そういう事してるとそういう男しか寄ってこなくなるだろ! エッチするのは勝手だけど、相手は選んだ方がいいよ。そういうのはもっと美一さんの事を大事にしてくれるちゃんとした男としなって!」
この世界がどんなルールで動いているのか知らないが、今まで生きてきた感覚ではそこまで普通の世界と変わらないように思う。
実際、俺は中学を卒業するまではある程度普通にやってきたのだ。
多分だけど、この世界自体はそこまで変な所はなくて、エロ漫画的なキャラがいるだけなんだと思う。
その中で美一さんは竿役の俺に与えられたヒロインの一人かなにかなのだろう。
そう思うと、なんだか彼女が可哀想に思えてくる。
俺自身も可哀想だ。
美一さんには美一さんの、俺には俺の人生があるはずで、愛し合うべき運命の相手がいるはずなのだ。
ここがエロ漫画の世界だからってご都合主義のエロ展開を押し付けられたらたまらない。
オカズにするには良いけれど、ああいうのはフィクションだから良いのだ。
現実の世界なら、俺は自分の人生を歩みたいし、他のヒロインにもそうあって欲しいと思う。
え?
なんで高一の俺がエロ漫画に詳しいのかって?
それはまぁ、なんだ。
上にエロ漫画家の姉が居て、家に資料と称したエロ漫画が大量にあってだな……。
そんなのこっそり読んじゃうに決まってるだろ!!!!
思えばアレもエロ漫画世界の影響に違いない。
世界が俺にこのエロ漫画の竿役になれと囁いているのだ!
ちくしょう!
俺は負けないからな!
絶対に貞操を守り抜いて運命の相手と出会ってみせるぞ!
なんて思っていると。
「……それって例えば、竿谷とか?」
「へ?」
上目づかいで恥ずかしそうに呟く美一に思わずたじろぐ。
いつの間にか美一は俺の机の上でお行儀よく股を閉じていた。
「だって竿谷。あ~しの事大事にしてくれたじゃん。普通に黙ってヤッちゃえばいいのにさ。バカみたいに真面目な事言って説教までしちゃってさ」
「それはだって、一応クラスメイドだし……」
「……そんだけ?」
ムスッとして美一が尋ねる。
そんな目で見られても困るんだが……。
「あとはまぁ、なんだ。どんな理由でも俺とエッチしたいと思ってくれた女の子を無碍には扱えないだろ?」
間違った理由ではあったけれど、それでも俺は嬉しかった。
だからというのも妙な話だが、そんな理由で彼女とエッチをしたくはない。
「……ほら、優しいじゃん。めっちゃ大事にしてくれてるじゃん。つまり竿谷とはエッチしていいって事でしょ?」
「なんでそうなるんだよ!?」
ちくしょう!
これもエロ漫画世界の強制力って奴なのか?
「竿谷が言ったんじゃん! 自分を大事にしてくれる奴とエッチしろって! てか、あ~しも竿谷なら初めてあげちゃってもいいかなって思ったし……」
はい?
「初めてってなんだよ。ビッチじゃなかったのか!?」
「なわけないじゃん。小中高って女子校だし……。周りに見栄張ってそういうキャラ被ってただけ! 今までは誤魔化せてたけど、高校生になったらそれも難しいし……。バレる前になんとかエッチ出来ないかと思って……。ヤリチンならオッケーしてくれそうだし、慣れてる方が痛くなさそうじゃん?」
「余計にくだらねぇ! バカかお前は!」
まぁ、美一が本当にビッチじゃなくてホッとはしたけど。
「バカじゃないし! こう見えてあ~し、成績メッチャいいんだからね!」
「なら勉強の出来るバカって事だろ。なんでもいいが一旦落ち着け。今のお前はどう考えてもまともじゃない。こんな状況でやったらそれこそ後で後悔するぞ!」
「しないもん! てか、最初からそのつもりだったんだし同じじゃんか!」
「同じじゃねぇーから! とにかく俺は絶対にお前とはやらないからな!」
「なんでそんな事言うの? あ~しの事嫌いなわけ?」
泣きそうな顔で美一が言う。
当然俺は焦った。
「いやそうじゃなくて!? この展開は多分エロ漫画世界の筋書きで、本当のお前の気持ちじゃないんだよ!」
「意味わかんない事言ってはぐらかさないでよ!?」
「それもそうなんだが……。とにかく! 俺は彼女としかやらないって心に決めてるんだ!」
「じゃあ彼女になるし……」
「ダメだってば!」
「なんでし!? やっぱりあ~しの事嫌いなんじゃん!」
「好きとか嫌い以前にさっき初めて話したばっかりだろ!? とにかく落ち着け。お互いにいったん冷静になろう。な?」
「もういいし! 竿谷に相談したあ~しがバカだったし! 竿谷のバカ! オタンコナス! 意気地なしのデカマラオバケ!」
「今の話のどこが相談だったんだよ!?」
などと言ってる間に美一は逃げるように教室を出て行った。
「ビッチを公正させようと思ったら逆に惚れさせてしまうとは。恐ろしいなエロ漫画世界は……」
ここがエロ漫画世界じゃなかったら大喜びで付き合うんだが。
今のままじゃ催眠アプリで洗脳してエッチするのと大差ない。
そんなのは俺からしたらレイプと同じだ。
†
そんなこんなでここがエロ漫画世界だと自覚した翌日。
いつも通りに登校すると、やけに女子達の視線を感じる。
どいつもこいつも、俺の事をチラ見してヒソヒソコソコソ内緒話をしているようだ。
なんなんだ?
そう思って聞き耳を立てると。
「ねぇ聞いた? やっぱりあの噂本当だったんだって」
「聞いた聞いた! 美一さん、竿谷君に食べられちゃったんでしょ!?」
「ビッチで有名な美一さんを逆に食べちゃうなんて! 流石は千人斬りの竿役だよ。油断してたらあたし達も襲われちゃうかも!」
「ちょっと待った!? なんで俺が美一さんを襲った事になってるんだ!?」
聞き咎めて思わず叫ぶが。
「うわぁ、白々しぃ」
「自分から襲っておいて知らんぷりはないよね」
「最低……死ねばいいのに」
ゲロ以下を見るような視線が矢のように降り注ぐ。
ハメられた!!!
美一の奴、俺に振られた腹いせに俺とエッチしたって言い触らしたに違いない!
なんて事しやがる!
地平の彼方に遠ざかる青春の二文字に、思わず俺は拳を握って美一を睨みつける。
その時美一はイケてる女友達に囲まれて得意気に俺との捏造武勇伝を語っているらしかった。
と、不意にわざとらしくこちらを向き、拗ねたような顔でベーと長い舌を晒して見せた。
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