第2話 違います。

 一応言っておくと、中学までの俺は完全無比の非モテだった。


 見た目は悪くないと自分で言うのも恥ずかしいが、まぁ普通な方だろう。


 とは言えあだ名がマラ王だ。


 俺の噂は学校中に広まって、女子の間では近づいたら孕まされる恐怖のコウノトリ人間みたいな扱いを受けていた。


 まぁ、半分ネタみたいなもんなんだが、そういう立ち位置にいたもんだから女子と関わる機会なんか全くない。完全に避けられていて、目も合わせて貰えなかった。


 幸い男友達には恵まれていたからなんでもない振りをしていたが、心の中では泣いていて、夜な夜なせがれを慰めていた。


 俺も男だ。


 ちょっと――いや、かなりチンコがデカくて性欲が強いだけのごく普通の男の子である。


 当然彼女も欲しい。


 セックスがしたい! なんて不純な理由じゃないと言えばやはりこれまた完全な嘘になるのだが。


 そういうのは心の通じ合った相手としかるべき手順を踏んだ後にロマンチックに迎えたい。


 それより俺はぎこちなく手を繋いで一緒に帰ったり、寝落ち通話でドキドキしたり、流行りの映画を見て感想を言い合ったり、勉強を教えあったりと、周りの彼女持ち男子が普通にやっている事をしたかった。


 俺の相棒は凶悪だが、俺自身は少女漫画的な恋愛を求めるロマンチックなタイプなのである。


 けど、このまま普通の高校に進学したらそんなささやかな夢を叶える事も困難だ。


 それで色々考えて選んだのがここ、愛聖学園である。


 なにを隠そう愛聖は去年まで女子校で、少子化やらなんやらで今年から共学化する事が決まっていた。


 とは言えそれも色々賛否があったようで、男子の定員はかなり少ないそうである。


 今になって思えばそれすらもエロ漫画みたいな設定だと思うのだが。


 名前だって愛聖だし、いかにもだろ。


 けど、その頃の俺はこんな事になるなんて夢にも思っていなかったので、普通にチャンスだと思って猛勉強して受験した。


 元女子校の愛聖なら一人くらいこんな俺を好きになってくれる物好きな女子もいるかもしれない。ライバルとなる男子も少ないから好都合だ。


 そんな感じで無事に愛聖に合格した俺なのだが。


 男子の数は予想以上に少なかった。


 なんと一クラスに3、4人だ。


 それすらも共学クラスの三つだけ。


 他は全員女子である。


 俺のいる一組は三人で、その内一人は入学早々不登校になって来る気配がない。


 まぁ、その気持ちも分からないではない。


 入学前は合法ハーレム、より取り見取りの青春大バーゲンみたいな場所だと思っていたのだが。現実は女子が全てを支配する超女社会。当然男子はドアウェイである。


 肩身が狭いどころの話ではない。


 無視か邪魔者、またはおもちゃだ。


 一例をあげよう。


 体育の授業前の休み時間になると女子達は平気な顔で着替えだす。


 俺達男子が教室に残っていようがお構いなしだ。


 その癖俺達がモタモタしていると変質者を見るような冷たい視線をぶつけて来る。


 中にはわざわざ下着を見せびらかすように着替えて俺達が慌てる様を楽しんでいる奴もいる。


 うっかり前の授業で居眠りした時なんか、気付いたら周りが全員下着姿の女子で死ぬかと思った。そんな時に限って俺の相棒はフル勃起だ。


 男子諸君なら分かってくれると思うんだが、男子には何故か意味不明なタイミングで勃起してしまう事がある。


 とは言え、そんな事を悠長に説明出来る余裕もなく、仮に余裕があったとしても女子相手にそんな事を言えるわけもない。


 俺に出来る事といえばギンギンに膨らんだ股間を体育袋で隠しながら転がるように教室から出ていく事だけである。


 いやまぁ、最高の景色だったのは間違いないのだが、あの時の女子達の路上にぶちまけられた反吐を見るような目を思い出すと心臓が痛くなる。


 てか、一人くらい起こしてくれても良くないか?


 ちなみにその後は男子トイレに駆けこんだ。


 この学校には男子の為の更衣室なんてものは存在しないので、男子はトイレで着替えないといけないのだ。


 まぁ、普通に勃起が納まらなくて抜いたのだが。


 ――待ってくれ!!!!!


 確かに学校でシコるのはよくない事だ!


 俺だってこんな変態みたいな真似はしたくない!


 けど、仕方ないじゃないか!


 この通り、俺の相棒は金冠級だ。


 その上血気盛んで、一度火がつくとそう簡単には鎮まらない。


 体操着の前をもっこりさせたまま授業に出るわけにもいかないからやむを得ずというわけだ。


 なにをオカズにしたかなんて野暮な事は聞かないでくれ。


 お前らが同じ状況になったら絶対に同じ事をするはずだ。


 とまぁそんな感じで暫くは絶望的な日々が続いていた。


 と言っても元々俺は女子に避けられていたから、それ程大差はないのだが。


 むしろラッキースケベが多発するだけこちらの方がマシではある。


 なんにしろ、このままでは俺が夢見た甘い青春なんか無理だろうなとは思っていた。


 そしたらある日、下駄箱に謎の手紙が入っていた。


 いかにも女子って感じの可愛らしい封筒には、やはり女子らしいカラフルな丸文字で放課後に空き教室に来てとだけ書かれていた。


 こんなの絶対ラブレターだろ!


 ……いや、そうだろうか?


 入学してまだ一ヵ月。


 クラスの女子の好感度は入学時から一ミリも増えていない自信しかない俺である。


 むしろ体育の前の居眠りラッキースケベ事件でマイナスになっている気さえする。


 それに女子の間ではなんとなく男子と接触を持つのはタブーみたいな雰囲気が漂っている。


 そんな状況でいったいどんな物好きが俺にラブレターを出すと言うのか。


 それよりは、女子が暇つぶしに俺をからかっていると考える方がよっぽどありそうだ。


 ……とはいえ生まれて初めてのラブレターだ。


 これだけ女子がいるのだから、一人くらいそんな物好きがいたっておかしくはない。


 それこそ俺が望んでいた展開である。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずという故事もある。


 それで俺はのこのこ指定された空き教室に来てしまったのだが。


 そしたらいかにもビッチな見た目をしたクラスメイトの金髪黒ギャルが煽情的なポーズで待ち構えていた。


 彼女の名は美一游びいち ゆう


 ………………。


 いや、そんなん絶対ビッチじゃん!!!


 しかも開口一番「よぉ竿谷。ちょっとチンコ貸してくんね?」だ。


 もしかすると俺はエロ漫画の世界に転生したのかもしれない。


 そう疑うのも当然である。


「………………あー。一応確認したいんだが、それはつまり、どういう意味だ?」


 困惑しながら俺は尋ねる。


 もしかすると「チンコ貸せ」というのは俺の知らない女子の間でだけ伝わるスラングかもしれない。


「あ~しとエッチしろって意味。てか他に意味なんかなくね?」

「だよなぁ……」


 俺だってそう思う。


 やっぱりこれ、エロ漫画の世界だろ。


 だっていきなり「よぉ竿谷。ちょっとチンコ貸してくんね?」だ。


 しかも相手はお前みたいな女子高生(しかも一年)がどこにいるんだよ! とツッコミたくなる程の超巨乳でムッチムチのエロギャルである。制服だってあり得ないくらい着崩していて、煮卵みたいな太ももが目に眩しい。


 中学時代の友人のピアノが上手い小沼おぬま君(ゴリラ似)の魂を賭けてもいい。


 これは絶対エロ漫画の世界だ!

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