第53話山が緑色だった理由
レオンは一度屋敷に戻って、準備を整えることにした。
エマが炎の魔石を用意し、レオンに渡す。
「これがあれば、寒さも少しは和らぐわ」
「そっすね」
「それで、これ」
エマがレオンの首にマフラーを巻いた。
邪魔だと思ったが、それを言い出せずに巻いたままにしておく。
ノノが、
「僕もついていこうか?」
「いや。大丈夫だ。このあたりは強力な魔物なんていないしな」
「そうか」
本当に平和なだけが取り柄なのだ。
レオンは雪山へと向かった。
空を飛んで、山の頂上を目指す。
上空から目的の緑色の地点を見下ろしてみると、うにょうにょと動く透明な何かがあった。
蠢いていて、3メートルほどはある。
「……スライム」
ぷにぷにとしたゼリー状の魔物で、この辺りには本来いない。
雪山に観光にでも来たのか。そんなわけがない。奴らには知能がないのだ。観光をしたいと思うことすらないのだ・
スライムは透明でぷにぷにしていて、水分を吸って膨張する魔物だ。水を吸いすぎた個体は勝手に破裂したりするのだが、目の前のスライムは雪や川、土壌の水などを吸って少しずつ少しずつ膨張していた。
「マジか……」
面倒くさい魔物を相手にしないといけなくなるが、このあたりに生息していない魔物の発見だから、王国にも報告をしないといけないかもしれない。
レオンは慎重に距離を詰めていく。
スライムは人を襲ってくるような魔物ではないが、用心に越したことはない。
近づいていくと、スライムの中央に人間がいた。女だ。意識はない。
この寒さの中だし、スライムの中だから生きていないかもしれない。だが、スライムは固形物を飲み込むことはしない。
レオンは思い当たるフシがあったが、今は考えないことにして、左手をヒラヒラさせて、剣を出現させる。
スライムの厄介さは弾力のせいで普通の攻撃が通らないことと切ると切っただけ分裂して増殖してしまうことだ。
そんな面倒な魔物のスライムの倒し方は体の何処かにあるコアとなる魔石を破壊することだ。
だが、魔石は女が抱えている。
レオンはエマの奴隷になった時、人を殺めることはできない制限が魔法でかけられているから、女ごと魔石を貫くことはできない。
だが、女が人間でなかったら?
「確かめるか」
レオンは目を細め、狙いを定める。
もし女が人間だったら、レオンの魔法は外れる。
「風刃」
目に見えない風の刃がスライムを貫き、女ごと魔石を切断した。
魔石が壊されたスライムはどろどろに溶け、形を失い、消えていった。
残されたのは切断された女だが、女の体には傷一つない。
「やっぱりな……」
レオンは渋い顔をしながら、女を拾い上げた。
よく見たら、まだ10代の少女だ。まだ生きている。
「相変わらずだな……」
レオンはこの少女をどうするべきか悩んだ。
このまま完全に殺して、全てなかったことにするべきだと思った。
少女がピクリと動いた。
だが、殺したところでこの少女がやって来たこともやって来た理由もなくなりはしない。
「ここで死ねたら、お前も良かったのにな」
拘束魔法で雁字搦めにして、レオンは少女を荷物のように担いで村へと急いだ。
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