第54話スライム少女の正体
村に戻ると、村人たちが総出でレオンを出迎えた。
今後の井戸のこともあるからだろう。もちろん、村人たちには温泉も大事ではあるが。
で、雪山に行ったら女の子を抱えて戻ってきたのだから、誰もが驚いている。
特にエマの驚きようったらなかった。何か言おうとしたが引っ込めた。
レオンは村人たちに、
「井戸と温泉はそのうち湧くはずだ。原因っぽいものは対処したからな」
これを聞いて、村人たちは安堵した。
レオンがジジイに、
「話がある。館まで来い」
「……面倒くさいのは嫌なんじゃがのう」
そうは言っているが、すでに足は館へと向かっている。
村長が、
「馬を出します」
「すぐそこじゃから構わんよ」
そして、館に戻ってきたレオンは床に少女をおろした。
レオンが簡単に、
「山に行ったら、巨大なスライムがいて、それが水源や雪を吸って膨張していた」
「で、その娘は?」
「スライムの中にいたんだ。まだ生きてる」
「ほぅ」
ジジイが不思議そうに少女を見た。
「俺がその娘に攻撃魔法を放ったら、当たった。つまりそいつは人じゃねぇ」
「なんと」
ジジイとエマは驚いている。
特にエマは激しく驚いているようだったが、レオンの言葉を待っている。
レオンが、
「この娘はユリウス帝国の人間兵器だと思う」
「魔物と合成され、理性や知能を失い、魔法の命令で動く人形同然の」
「そうだ。つまり、この娘はすでに魔物だ」
エマがようやく口を開いた。
「……レオン。この子はルナ王国の王女にそっくりだわ。王妃時代に王国を訪問した際に会ったことがあるもの」
ルナ王国は数年前にユリウス帝国に滅ぼされてしまっている。
「それならば、適性があったのでしょうのう。魔物の合成には適正が必要だそうですじゃ。なにせ魔物と人の合成は禁忌の技ゆえ詳しいことはわかりかねますが」
ユリウス帝国は十数年前から領土拡大のため、他国へと攻め入るようになった。
当初はエマたちが暮らすアリサ王国からはかなり離れていたが、帝国の領土の拡大により、隣国ではないにしろかなり近い場所まで迫ってきていた。
隣国が攻め滅ぼされれば、帝国がお隣さんになってしまうのだが。
そんな帝国の兵器がこの村にいるということは帝国は王国に何かを仕掛けたのだろう。攻略対象になったのだろう。
エマが、
「王国に報告しないといけないけど……、この子はどうなるの? まさか……」
ジジイが厳しい現実を告げる。
「奥方。この娘はもう理性も感情も何も残っておりませぬ。ただ、命令を受けて暴れまわる化け物ですじゃ。おそらく同行していた間者がヘマをし、辺境の山でスライム化させてしまったのでしょう。王国に明け渡し、然るべき方法で処分ですじゃ」
「そ、そんな……」
エマは動揺した。
ジジイは冷静にレオンに、
「間者はすでに逃げたと考えるべきじゃろうのう」
「だろうよ」
「奥方。今は魔法で雁字搦めにしておりますが、危険ですじゃ。離れてください」
「で、でも……」
少女がピクリと動いた。
ジジイはさっとエマの手を強く引き、少女から少しでも遠ざけようとする。
レオンも剣を出し、構える。
少女は瞳をゆっくりと開け、キョロキョロと動かし、エマを見つけると、
「……もしや……エマ王妃? わ、私はシェルマ。ルナ王国の第二王女です……」
「!」
エマがジジイの手を振りほどき、シェルマに駆けよった。
「シェルマ王女!」
エマがレオンとジジイに、
「まだこの子の心は人間です。この子をどうか助けてください」
そう言って、シェルマを抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます