第52話冬の災難
村一帯は白い雪に覆われ、寒い日々が続いていた。冬だから当然である。
移動も大変だから、春まで行商人もやって来ないため、陸の孤島のような場所になる。
エマは夏場に作っていた干し野菜でスープを作り、それを朝・昼・晩と食べる日々だ。
暖炉で作れるので、薪や燃料となる魔石の節約になるのだ。
ダシはベーコンやハムのような日持ちする加工肉も少し入っている。
レオンもパンに蜂蜜とチーズをたっぷりと乗せるのが好きだが、春まで商人が来ないため、節約のため少なめに乗せている。
エマが窓の外を見ながら、
「レオン。不思議よね。山のあそこだけ緑色なんだものね」
「そっすね」
山も雪で覆われ、真っ白いのだが、ある一部分だけ針葉樹の緑色の葉が見えている。
「どうなってんすかね」
レオンも不思議そうにするしかない。
二人以外にも村人たちも同様の疑問を持っていたが、表立っていうものはいなかった。
雪山登山は辛いからだ。
誰も雪山なんかに行きたくない。だから、不思議そうに今は山を見つめておいて、春になったら、山菜採りのついでにでも見に行くのがいいだろうというのが暗黙の了解であった。
エマは豆と干し野菜が入ったスープにパンを浸した。
「そういえば、もうそろそろお湯が湧くわね。あとで村に見に行ってみようかしら」
「そっすねー」
娯楽のない村には数少ない村の楽しみがある。それが、温泉である。
何故か冬にだけ湯が湧くのだ。この湯は単なる効能のないお湯なのだが、やはり浸かると気持ちが良いのだ。
食事を終えて、早速、村に行くと、村人たちも温泉場に集まっていた。そして、困り顔だ。
村長が、
「今年は温泉が湧かないのですよ」
「あら……」
エマは残念そうに屋敷へと戻った。
これを毎日繰り返し、10日経った。
さらに、村の井戸も水量が減ってきた。
これは一大事ということで、皆、井戸水の源がある山を見た。
緑色が広がっていた。
皆、薄々気づいていた。
なにか原因があるとしたら、山以外にない。
だが、山には登りたくない。
だから、誰も何も今まで言わなかった。
誰かが、誰かに、山に登って確かめてこいと言うタイミングが来ないことを祈っていたが、言うタイミングが来てしまったようだった。
歩くのも大変で、とっても寒い雪山。移動も大変だから、魔物に襲われたら、袋叩きに合い、魔物の胃袋に収まる可能性が捨てきれない。
誰が、誰に言うのか。
レオンは大雪に足を取られることなく、魔物をぶっ飛ばしながら、原因元に行ける人間をひとり知っている。
レオン以外の村人たちもたった一人だけそういう人間が村にいることを知っている。
もちろん、エマも知っている。
レオンは、
「奥方。一旦屋敷に戻りましょう」
「レオン。もしかして、山に何かあるんじゃないかしら?」
「春まで待ちましょう。井戸が枯れたら、雪を」
村長が、
「レオン。お前だけだ。空を飛んで、原因のある場所に行き、解決できるのは」
「寒いから、嫌に決まってんだろ。村人の分際で俺にとやかく言うな」
エマが険しい表情で、
「レオン。そういうこと言っちゃだめよ。私達は村人の皆さんがいるから生きていけるのだから」
「奥方。俺は寒いのは嫌っすよ」
「マフラー首に巻いてあげるから。温泉がないのなら、仕方ないと我慢もできたけれど、井戸が枯れたら大変よ」
エマの言うとおりだ。
レオンは仕方なく、空を飛んで山へと向かうことにした。
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