第32話ルビー竜との戦い
ルビー竜は眼の前の獲物であるレオンたちに向かって、雄叫びを上げて、炎のブレスを吐き出した。
リズが炎の魔法で相殺しようとしたが、あまりの勢いにできない。
レオンとリズは命からがら脇へと飛び退く。ノノは炎が直撃したが、つったている。普通だったら、生きていられないだろう。
服は溶けて、裸になっているが、平然な顔をしている。
「多少、熱いものではあるんだろうなとは思ったが、大丈夫なもんだな」とやはり平然としている。
「ノノは普通じゃないわ! どうして避けなかったのよ」
リズが引きつるように叫んだ。
「僕はトロイから、避ける自信がなかったのと避けなくても良さそうだって思ったからなんだ」
氷竜岩ちゃんが雄叫びを上げ、氷のブレスを吐き出す。
山の頂上で大怪獣合戦の始まりとなり、両者は空中を舞いながら激しくぶつかり合う。
レオンがノノに、
「お前、服どうすんだよ!」
「皆が着てるから、なんとなく着ていたが、寒くもないのに服は必要なのか?」
「当たり前だろ! 裸見られて困るだろ」
「そういうものか」
リズが、
「レオン! その人は多分だけど、長生きしすぎて大精霊に存在が近くなったんだと思う! 大精霊になると考え方が普通じゃなくなるのよ!」
「もうわかったよ。ノノはとにかく普通じゃねーんだから、普通に合わせんだよ! 空気を読め!」
「空気を読むか……」
ノノは目を閉じ、耳に手を当て、耳を澄ましている。
本当に空気の空気を読もうとしているのだろうか?
レオンはあまりにも当たり前じゃない行動をするノノに思わず息を飲んだ。
ノノは静かに口を開いた。
「このあたりに満ちている魔力は邪に汚染されてしまっているな。ここはそういう魔力が集まりやすい土地のようだ」
本当にノノは空気の空気を読んだのだ。そういう意味じゃねーんだよ。
「邪の魔力に長い間、触れたりして人々が汚染されると、精神錯乱したり、怒りの感情に支配されたり暴力的になってしまうから、こういう場所も必要ではあるな」
「さて、空気も読み終わったし、岩ちゃんを助けよう」
ノノはそう言って、岩ちゃんに魔法をかける。
「ブレスの威力と筋力と速度を上げる魔法をかけたよ。僕たちもルビー竜のブレスを避けながら、攻撃をしよう。岩ちゃんだけだと持て余し気味だ」
「そ、そうね。私はルビー竜のブレスがこっちに来たら、威力を軽減させるわ」
「俺とノノは攻撃魔法をしこたま発動しまくるか」
「それが妥当だな」
炎属性であるルビー竜に氷魔法をお見舞いしていく。
ルビー竜の体の表面にところどころ亀裂が走るが、動きが鈍る素振りがない。
岩ちゃんのほうの消耗が激しく、動きが鈍くなっていく。
ルビー竜の体の亀裂から、赤黒い魔力が溢れ出て、それがさらに岩ちゃんを消耗させているようだった。
ルビー竜が岩ちゃんの首根っこに強く噛みついた。岩ちゃんは絶叫し、刃が固い鱗を突き破って青い血液が噴き出る。
「竜の血とはきれいなものだな」
ノノが場違いな感想を盛らすが、素っ裸という場違いな格好でも平気なやつだから仕方ない。
主力だった岩ちゃんがここで脱落か。残るは人間とハーフエルフと炎の精霊だが、炎の精霊がルビー竜に攻撃しても属性が同じなため圧倒的無意味。
人間とハーフエルフは魔法を連発することしかできないが、ルビー竜が硬すぎるせいで効き目が弱い。
もう逃げ出したい。
この世界の理を壊したら面倒とか言わなきゃ良かった。壊れたところで、自分が壊しましたって言わなきゃいいだけだった。壊れたところで無視すればいいだけだった。
だが、苦しみもがき出したのは岩ちゃんではなく、ルビー竜のほうだった。岩ちゃんを離し、暴れもがき出す。
何が起こったんだと思っていると、ノノが、
「魔力の指向性の話は覚えてるか?」
「聖とか邪とかだろ」
ノノは頷いて、
「岩ちゃんは聖だったんだろう。聖の魔力で満たされた血を飲んだことで邪が浄化されていってるんだ」
今度は岩ちゃんがルビー竜にかみつく。まるで、吸っているようだ。岩ちゃんの体が赤黒く光っていく。
「大丈夫か? 邪とやらに汚染されるんじゃねーのか?」
第二のルビー竜ができても困る。
リズも、「岩ちゃんとお散歩できなくなったらどうしよう」と不安げだ。
次は、ルビー竜に汚染された岩ちゃんを、「やー、お散歩できなくなったら困るから殺さないで!」とか言われながら、退治しなければいけないのだろうか。
レオンは覚悟を改めて決めて、魔法の準備をするが、岩ちゃんの体が次第に白く輝き、ルビー竜は赤黒い光の粒となって全て岩ちゃんへと吸収されていく。
ノノが、
「聖属性の本領は浄化だからな。浄化し尽くして吸収してしまったのかもしれない」
「すごいな」
「あぁ。すごいぞ。聖属性は」
岩ちゃんはケロッとしているが、見た目が2倍ほどに膨れ上がり、強くかっこいい感じになっている。
首輪も勢いでブチギレてしまい、リズが、
「あーん。新しい首輪つけなきゃ」
ルビー竜の後には赤黒い魔石が落ちていた。レオンはそれを拾い、袋に詰める。
レオンがノノに、
「お前、裸でなんともないのかよ」
「ないな」
リズが、
「大精霊は存在自体が世界の一部みたいなものな存在で、神様に近くなるって言ったほうが良いのかな。だからか、恥ずかしさとか怒りとか一部の感情は欠如しててるっていうかかなり少ないっていうか。ノノはハーフエルフではあるけれど、なにかの拍子に大精霊になってしまう可能性は十分にあると思う」
レオンがかつて天使として仕えていた神は羞恥心くらいは持っていたがな……と思いつつ、自分がつけていたマントを羽織らせる。
ノノは静かに、
「それじゃ、僕は村に戻っているから、レオンはその石を城に持っていくと良い」
「わかったよ」
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