第31話ルビー竜の住む山へ

 レオンが元の天使の姿に戻ればルビー竜など一瞬だが、この世界にもこの世界なりの秩序や理がある。

 これ以上の無駄な厄介事を増やさないためにも壊さない方がいいに違いないということで、ルビー竜には人間レオンと仲間たちで挑むことにした。


 絶大な魔力を持つポーカーフェイスハーフエルフのノノとジジイに誤った一目惚れをした炎の精霊リズと普段は炎の精霊界の溶岩に浸かっている氷竜を招集した。


 一度村に戻っているから、ここまで来るのに2週間は費やしてしまっている。王妃は今は参拝を終え、王都を目指している最中だろうから、まだ時間はあるはずだ。

 王妃が参拝に行かないで王都にずっといれば、エマの裁判はもっと早まった可能性があるから、不幸中の幸いと言える。


 炎の精霊リズは氷竜の首にリードをつけて引いている。まるで犬と飼い主のようだ。

「溶岩に浸かりまくって冷え性が改善したのか私たち炎の精霊も岩ちゃんに触れるようになったのよ!」とやけに嬉しそうだが、氷竜の冷たさを冷え性で片付けて良いのだろうか。


 ちなみに、岩ちゃんとは氷竜の名前である。溶岩につかっているから岩ちゃんと名付けられたらしい。


「でね、1日2回のお散歩をとても楽しみにしてるのよ」山を登りながら、そんなことを言う。

 話だけ聞けば、竜か犬かわからないが、竜の話である。

 登ってはいるのだが、険しい山道だから、歩くのが面倒くさいということで全員が飛行魔法を使っている。度々出会う魔物は岩ちゃんの氷ブレスで凍りついていく。


ノノが、

「ルビー竜は僕が地上にいた頃もいたよ。数百年に一度、災害をもたらしに、地上に降りてきていたが、今も変わらないんだな」

「昔からはた迷惑な野郎だ」

「仕方ないさ。ルビー竜は竜といっても竜じゃない。汚染された魔力といった汚れたものが寄り集まって具象化したエネルギー体だからね。魔物と変わらないんだ」


「魔力の汚染?」

「そうだよ。魔力は属性以外にも中性・聖・邪の3つの指向に分類できる。通常、僕や人間たちが使う魔法の魔力は中性なんだけど、世界にはそれ以外のもあるんだ」


「詳しいんだな」

 ノノの魔力に関する話は現代にないものもある。現代では魔力は属性にのみ分類され、中性や聖といった指向分けはされていない。


「現代ではそういう話はないのか。この指向性がエネルギー体の姿形を変えるんだ。邪に汚染された魔力のエネルギー体が具象化した姿が魔物だ。魔物を中性の力や聖の力を宿す者たちが狩ることで浄化が完了され、魔石となる」

 魔石はその名の通り、魔力が込められた石で、炎やら風といった属性に分類され、生活に活用されている。


「ルビー竜がなんで地上に降りてくんだろうな」

「邪の力が臨界に達し、攻撃衝動や破壊衝動に支配され、抑えられなくなるからさ。その時のルビー竜は強さも最大限になる」

「嫌だぁ。こわーい」

 炎の精霊は呑気な声を上げた。


「だから、僕の時代は定期的にルビー竜を討伐することで、力を削いでいたよ。今の人間たちはどうしてそれをやらないんだい?」

「山には強力な魔物がうじゃうじゃいるのと、ここの山登りが人間には辛すぎるからだろうな。飛行魔法を使いながら、戦うのも大変だからな」

「そうか。僕がいた頃は人間なんて実は少数派だったからな。その時は獣人とか体が頑丈な奴らが跋扈していたんだ。時代とは変わるものだね」


 現在も獣人はいるが、人口は少ない。かつて、魔物由来の疫病で数を激減し、現在も回復してはいない。

「まぁ、大丈夫だろう。ルビー竜は地上に降りてきていないということはまだ臨界状態ではなさそうだ。魔法を全力で叩き込めば、なんとかなるだろう」

 楽できそうだ。


 山頂が近づいてきた。

 そこには、赤黒い光を全身から発し、鋭い眼光の竜が一体いた。更に、光が強くなり、耳が避けそうな雄叫びが轟いた。

 さっきまできゃぴきゃぴしていた炎の精霊も思わず息を呑む。

 レオンはあまりの迫力に背中に冷や汗が出た。


「地上の人々は運がいいな。あいつはたった今、臨界を迎えたぞ」

 ノノは対岸の火事でも見るように静かに言った。 

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