第30話 眠りの王を目覚めさせる方法

 ジジイを抱えて空を飛び、夜になったら村や町で宿を取るを一週間は繰り返し、ようやく王都へと到着した。

 でかい城壁にぐるりと囲われた立派な町の中に城がある。城門にはデカデカと竜が描かれた王家の紋章が書かれている。


 なんでも、王家のご先祖が竜なんだと。それで、紋章にもしたらしい。随分な眉唾物語だが、そこらの人間より自分たちのほうが偉いんだと言いたいのだろう。


 城門では偉い兵士がジジイを待ち構えていて、やけに豪奢な馬車まで用意され、馬まで身なりが良い。

 ジジイは魔法は下手だが、世渡りは上手なのだ。

 休息をしたらどうかと言われたが、「そんなことは良いから、早く王の元へ!」と声を荒げた。


 ジジイのあまりの剣幕に、役人が急いでジジイを案内する。レオンはその後ろをつまらなそうについていく。


 王の寝室に案内された。ベッドには青白い顔をしているが、美しい顔の男が寝そべっている。この顔が聖女を虜にしたのだろう。

 レオンはツバでも顔にかけたくなったが我慢してやった。


 室内には王の家族の肖像画がある。王の両親はすでに他界し、身内である姉も原因不明の病で長い間昏睡状態にあるという。絵には幼い王と両親と姉が描かれている。


 ジジイは王を覗き込み、

「レゼル様……」


 横から神官が肩を落としながら、

「様々な癒やしと浄化の魔法を行っていますが、効果がないのです」

「そうか。すまんが、まだわしの部屋はあるかの」

「もちろんですよ」

 神官は若いものを呼んで、早速案内をさせた。

 ジジイはかつて住み込みで王に仕えていたのである。


 部屋で、ジジイは腰を下ろし、溜息をついた。

「のう、レオン。詳しくは話せぬが、これは想定内の出来事なんじゃ。いや、避けては通れぬことじゃった。じゃが、時期が早すぎるんじゃ。だいぶ早まってしまっている」

「あ?」


「その時期が来たら、エマ殿が王にあることをする手筈となっておった」

「なんだよ、それ」

「エマ殿が捕まった以上、そのあることはできぬ」

「できなきゃ困るのか?」

「困る」

 ジジイはきっぱりと頷いた。


「その時期っていうのはいつのことなんだ?」

「王の甥御が成人される日じゃ。それを持って、甥御に王位を引き継ぐんじゃ。国内は多少混乱するじゃろうが、それまでに継承の引き継ぎに盤石の体制を整える。それこそが王の使命じゃ」


「王はもう目覚めないのか?」

「目覚めるはずじゃ。まだ時間はあるしのう。なんとか目覚めさせることができれば良いんじゃが……」

「方法はないのかよ?」

「魔石じゃ。魔石があればなんとかなる」

「買ってこいよ。魔法屋かどっかで売ってんだろ」

「ルビー竜の魔石は売っとらん」

 レオンは思わず吹き出した。

「汚いのう」


「そりゃそうだろうがよ。ルビー竜ってこの国で一番高い山に住む炎の竜のことだろ。確か体がルビーみたいなもんでできてるっていう」

「そうじゃ。そいつじゃ」

「むちゃくちゃ凶暴で強いんだろうよ?」

「詳しいのう。その通りじゃ」

 むちゃくちゃ凶暴で強い竜な上に、魔物も跳梁跋扈する峻険な山の登山も大変だから誰もこいつの魔石を取りにいかない。

 時々、とち狂ったルビー竜が地上で大暴れして、村や町を破壊しに来る。そうはいったて、数百年に一度の話だ。


「レオン殿。頼みましたぞ」

「あ?」

「お主しかおらぬ。道は険しいという。竜を倒す前に、すっ転んでくたばんるじゃないぞ。くたばるんなら、魔石を持ってきてからにするんじゃぞ。持ってきたら、骨でも褒美にやろうかのう」

「俺は犬じゃねーぞ」

「ワシのサイン付きじゃぞ」


 レオンは辟易しながら、

「いらねーよ。奥方を助けるためとはいえ、割に合わねーよ」

「しょうがないのう。お主が魔石を持ってきた暁には、お主の葬式代はお主の内臓を売った金で特別に補填してやろう」


「俺がくたばる時はオメーを殺してからだよ」

「で、頼んじゃぞ」

「しょうがねーな」

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