第23話王妃ご一行滞在場所設営部隊のご到着
しばらくしてから、フェルム卿の言葉通り、王妃ご一行が滞在するテントの設営部隊が村へと派遣された。
総勢100名ほどの部隊だが、とても物々しい。
朝の早い時間にエマとレオン、それに、神父のジジイが部隊を出迎えた。3人の背後では村人たちが野次馬として見物している。
随分と横柄な態度の部隊長がエマを頭の先から足の先までじっとりと見つめてくる。
「エマ前王妃。王の命令により、この村の畑に陣を設営させていただきます」
言葉こそ丁寧だが、態度は全く丁寧ではなく、顎を上げながら、喋る様子はこちら側を完全にかるんず様な態度だ。
「村のもの一同、皆様方を歓迎いたします。どうか皆様の勤めがつつがなく進みますように」
エマは丁寧に頭を下げた。
それに従いレオンもジジイも頭を下げた。
部隊長は嫌らしい笑みを浮かべながら、
「それはあなた次第ですなー」
「は? どういうことでしょう?」
部隊長及び部隊の面々は薄ら笑いを浮かべながら、
「とぼけるのがお上手で。ハハハ。者ども行くぞ!」と声を上げ、畑へと向かっていった。
レオンが背中を見送りながら、「嫌な野郎だぜ」
「レオン。いけないわよ」
ジジイが神妙そうな顔で、
「部隊が去るまで、ワシが奥方の屋敷へと滞在してもよろしいかな?」
「ですけど……」
エマが困っていると、話を聞いていた村長が、
「奥方。そうしていただくべきです。村で問題が起きた時はこの私が対処いたしますし、すぐに館へとご報告にあがりますので」
「そうですぞ。奥方が首を縦に振らなくてもワシは行きますじゃ」
「わかりました」
その後、エマを軽んじるような部隊なので、当然、村や村人たちも当然軽んじられることとなる。
昼頃には村人が館へと飛び込んできて、
「大変です。部隊の一部が勝手に山に入り、猟をしています」
たとえ、何者であっても山でとれる鳥獣たちを狩るには領主であるエマの許可が必要だ。
レオンは厄介事に頭を痛めながら、部隊の元へと急いだ。
道端では村の少女が兵に絡まれているし、さらに面倒が起きている。
「お前ンとこの領主は王妃時代、誰にでも股を開く下品な女だったんだよ。それに嫌気を指した王が前王妃を処刑しようとしたんだが、金の力で命拾いしたのさ。お前だって、そんな領主の所の村人なんだから、股くらい開けよ」
「嫌、嫌です。領主様がそんな方なはずありません!」
少女は泣きながら、抵抗しているが、兵士が少女の手を強く握って引きずっていこうとする。
レオンが、「お待ちください。村人に何もしないでいただきたい」
「王妃の執事か。確か奴隷だったな。奴隷の分際で指図するな!」
兵の一人がレオンに手をあげようとしたが、軽々とかわされる。
その隙に、村人の少女は兵の手から逃げ出し、村へと走っていく。兵士がそれを追いかけようとしたが、レオンが相手にバレないように魔法ですっ転ばした。
レオンは喚く兵士を置いて、部隊長の元へと急いだ。
部隊長たちは獲物を解体及び料理の準備をしていた。
レオンが部隊長に、
「猟の許可を与えてはおりませんが?」
「猟? この村に許可が必要だってのか? えぇ?」
「もちろんでございます。無断で猟をした獲物は回収させていただきたい」
「ふざけるなよ! 王のお情けだか弱み握っただかで村に追放された女の許可なんかとるわけねーだろ! ギャハハハ」
他の兵士たちが、
「奴隷がうるせーぞ!」
「……後でどうなっても知りませんよ」
「何言ってやがるんだ、一介の奴隷と股開き女に何ができるってんだ!」
「失礼いたします」
レオンは頭を下げて、その場を後にした。
エマは彼女の実家のライバル貴族たちの流言により、誰にでも股を開く好色女として世間に知られてしまっている。
そして、村の中では知らない人間もいるが、レオンが本当はエマの奴隷だということも都会では周知の事実だ。
もっとも、村人にも都会にも周知じゃない事実もあるのだが。
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