第20話大雪の日の赤い空
フォルテが館から去り、その翌日、とうとう前代未聞の秋の大雪の日を迎えた。空はまだ暗いが、雲ひとつない。
村人たちも起き始め、家々からはかまどの煙が上がってくる。
エマもかまどに火を入れ、朝の野菜スープを作り始めた。
最初にバターを溶かし、玉ねぎや人参といった野菜を少しの塩と一緒に丁寧に炒め、ダシ代わりのベーコンと水を少量入れる。オートミールを入れて煮込み、最後に塩で味を整える。
エマはレオンにチーズを切り分け、渡した。白カビがうっすらとまとったチーズに、レオンははちみつをかけた。
湯気を上げるオートミール粥を冷ましながら、食べる。野菜の味とベーコンの燻製の香りが口の中に広がっていく。
夜が完全に明けても、空は一面真っ青で依然として雲ひとつない。
村人たちは収穫作業のため、畑へと向かった。
エマも収穫したりんごを干す作業へと向かった。もちろん、彼女はこの作業がこの後降るであろう大雪で無駄になることを知っている。
レオンもいつもどおり、事務仕事を始めた。
昼となったが、まだ雪は振らない。だが、少しずつ冷えてきた。
午前の仕事は休憩を迎え、昼食となった。この日は硬いパンとホットミルクとりんごである。
ガンガンに固い黒パンをオーブンで軽く焼き、千切ったものをホットミルクに浸しながら食べていく。合間にカットしたりんごを食べるが、酸味が強い。おかげで口の中がさっぱりとする。
レオンは空を見上げ、
「いつ降ってくるんすかね」
「そうね」
午後の作業も終わり、各々が疲れた体を引きずって家へと戻っていく。
レオンもエマもソワソワした気分で一日いたせいか疲れてしまった。家の中に戻り、夕食である。
今日の夕食は豆と魚にゴッタな野菜を入れた素朴なスープである。そこに、固い黒いパンを浸して食べる。
「結局、振らなかったわね……」
「そっすね。これからっすかね」
「きっとそうね」
夕食も終わり、あとは寝るだけだ。
照明の蝋燭や魔石を節約するために夜は何もしないのである。
レオンはベッドに横になり、目を瞑った。しばらくすると、目を閉じているのに明るさを感じる。
目を開けて、窓の外を見ると空が真っ赤に光っていた。よく見ると、燃えているのである。
そのせいか熱が地上にまで広がっていて暑い。
あまりの暑さにレオンはタンクトップに下着一枚になり、エマの部屋へと急いだ。
エマも空を見上げていた。
レオンが話しかけると、エマは淡々と、
「レオン。あの空は不思議ね……」
「そっすね」
そこにノノもやって来て、
「君たちが言っていた大雪の原因は、上空に巨大な冷気を水属性の魔晶溜まりが発生したことなんだろうな」
「魔晶溜まり? 魔力の結晶だよな」
「そうだよ。魔晶は純粋な魔力のエネルギーだ。人が触れると、あまりの純度の高い魔力のせいで体が大変なことになるだろうな」
「で、あの赤いのは何だよ」
「炎の妖精たちだよ。人間の肉体にとっては悪影響でも妖精たちがあの魔晶を取り込むと、力がパワーアップして大妖精や精霊にパワーアップするんだよ。僕も同様だ。もっとも僕は興味がないけどな」
エマが不思議そうに、
「どうして、炎の妖精たちが冷たい水属性の魔晶に?氷や水の妖精たちならわかるけど」
「魔晶の影響力は強くて、氷や水の妖精たちは魔晶と同化してしまうんだ。同化してしまうと肉体が変形してしまって、精神も崩壊することがある。だから、近づかないのさ。炎の妖精たちは冷気を打ち消して魔晶を取り込んでパワーアップできるんだ。それにしてもまだまだすごい魔性溜まりだから、当分続くぞ」
ノノの言った通り、翌日になっても妖精たちの波は引かず、逆に増えていくばかりだ。それにより、暑さが増していく。
日中は真夏を通り越す暑さで夜は真夏のような暑さ。そして、妖精たちのせいで夜でも昼のように明るく、夜が消えた。
村人たちは収穫作業を続けているが、村では新たな問題が発生していた。
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