第17話秋の収穫と宮廷からの使者

 村人たちは日々、収穫で忙しい。老人も子どもも畑に出て、1日中働いている。


 エマやノノも庭の果物を収穫して、ドライフルーツ作りに精を出していた。レオンは村の収穫量のチェックなど事務仕事をしていて、やはり忙しい。


 秋は一年で一番忙しい日々だ。


 日暮れを迎え、村人とエマたちも作業を終えた。

 館では蝋燭の明かりを頼りに、エマが作ったきのこのスープとパンとチーズでの食事である。基本的に朝も晩も同じ献立だ。ノノは食事をしないので、部屋にいる。


 薄暗く手元以外はほぼ見えない。魔晶石を使って照明をつければいいのだが、魔晶石はやや高価でめったに使わない。


 エマがレオンに、

「今年も去年と同じくらいの収穫量かしら?」

「ですね」

「良かった。なんとか皆、冬を超えられそうね」

「そっすね」


 収穫が一段落ついたら、村人たちは家畜たちの屠殺作業と加工肉作りが待っている。女たちは羊毛で糸紡ぎだ。

 レオンは収穫した麦の納税である。

 とにかく冬まで休む暇はない。


 毎年のこととはいえ、面倒くさいことである。

 レオンがボーッと黒くて固くてボソボソしたパンを口に放り込んでいると、誰かが入り口のノッカーを叩く音がする。


「あら、誰かしら? こんな夜に……」

「見てきますよ」


 夜とはいえ、まだ宵の口である。だが、村は娯楽がないし、すでに真っ暗だからこんな夜と言うしかないのだ。

 どうせ村人が厄介事を持ってきたのだろう。適当にあしらって追い返そうと思いながら、レオンが玄関を開けると、立っていたのはきちんとした身分を持つであろう立派な身なりの少女だ。


 13歳くらいだろうか。あどけない顔立ちではあるが、賢そうな顔をしているが、世の中をすでにクールに見ているのかどこか悟ったような表情をしている。


 レオンはジロジロと少女を見た。少女の服に見覚えがあった。


「お前の服、どっかで見たことあんな。つーことは、ここはお前が来るような家じゃねーよ。他の貴族家を当たりな」

「いえ。ここで合っています。私は宮廷風読み士のフォルテです。そして、この服は風読み士の制服です」

「風読み……。気候とか占うやつか」

「占いではありません。空の魔力や風を探知した予測です」

「ほーん。これは失礼したなー」


 宮廷風読み士は天候を読み、天候を変える魔術師である。そのため、王宮直属であり、こんな辺鄙な田舎には縁もゆかりも持つことすら許されない一大エリート様である。


「王様の直々の命令でやって来ました。エマ様に面会を」

「……奥方はすでに休んでる」

「起こしてください。緊急事態です」

「俺が変わって聞く」


「レオン、お客様はどなただった?」

 背後からエマの朗らかな声がする。

 振り返ると、蝋燭を持ったエマが歩いてきていた。朗らかな顔の一部が蝋燭の炎により橙色に照らされていた。


 フォルテはレオンの脇をスルリと通り抜け、エマの前に行くと膝まづいた。


「王より前王妃様にご報告申し上げるように命を受け参上いたしました」


 エマの朗らかな顔が一変して、一切の色が消えた。


「2日後にこの辺り一帯は途方も無い大雪に包まれるでしょう」


 通常、風読み士は王領以外では気象は操らない。気象の操作にはそれだけ大量の魔力と人手が必要だからだ。そして、通常なら、このような異常気象の報告も他の貴族にすることはしない。気象の情報は国家の機密情報だからだ。


 エマは努めて平静さを装い、


「王の深いご慈悲に感謝いたします」


 レオンは舌打ちした。

 季節外れの大雪が降れば、収穫はすべてパーで、エマもレオンも村人たちも冬を越すことができない。

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