第13話ジジイとの再会

 レオンが目の前にいるエルフに向かって、

「ここは炎の精霊の世界か? だとしたら、なんでエルフがいる?」

 問われたエルフの男は、

「ここは炎の精霊の世界と人間界の間でエルフの領域。ゆえに、エルフが住んでいる。で、貴様らは?」


 よそ者呼ばわりされる覚えはあっても貴様呼ばわりされるいわれはないとレオンは思いながら、


「俺様たちは炎の精霊に精霊界に連れさられた人間を探してやってきた」

「連れさられた?」

「炎の精霊に愛されちまってな。こっちの世界に連れていかれたんだ。本人は同意していない」


 この話を聞いて、エルフたちは眉をひそめ、

「人間の世界との間で問題が起こると厄介だ」

「だから、俺たちはその人間を連れ戻したい。この世界を歩き回るのに許可がいるのなら、許可を出してもらいたい。こっちも精霊界とは穏便に済ませたい」


 何せ連れ戻すやつは単なるジジイである。

 面倒が発生しなければ、このままいなくなっても一向にかまわないのだが、そうなると、手続きやらなんやらをレオンがやらないといけない。教会や役所など公的な連中との話や手続きは非常に面倒くさい。

 ジジイを取り戻すのと事務手続きのどちらの面倒を取るかと考えた結果、ジジイを選択したのである。


 エルフたちはあっさりと、

「それは構わないが、この先は炎の海と大地が広がる。火除けマントをつけないと普通の人間なら燃えるだろう。持っていくと良い」


 赤いマントを3つ寄越した。


「炎の精霊の世界はあの入り口の先に広がっている。まっすぐ進めば、炎の精霊たちが住まう場所にたどり着く」


 レオンたちは言われたとおりに、火除けマントを身に着け、エルフの里を出た。


 歩きながらエマが、

「エルフさんたち親切だったわね」

「あっちも面倒を嫌ったんじゃないっすかね」

「そうかもしれないわね」


 そして、しばらく歩くと大地が空が、赤くなっていく。炎だ。火の粉が辺りを舞っている。

 エマは見渡しながら、


「炎に炎ばかりだわ……」


 一方のかのは世界をほっつき歩きまくっているせいか、気にせず、のほほんとしている。あまりにも動じていないので、逆に気味悪い。


 レオンは、だりーなーと思っているだけだったが、炎の平原を歩いていると、小さな炎が舞い上がり、それらが小さな妖精へと姿が変わっていく。どうやら、新たな精霊たちが生まれているようだ。


 そして、平原を抜けると、例のジジイが空高く舞っていた。

 連れ去ったほうの炎の精霊は泣きながらジジイに向かって、炎の玉を乱射していた。

 ジジイは少ない魔力と少ない手数でその炎の玉を捌いていた。それで、ついでに飛空魔法を使ったのだろう。


「どうして、じじいなのよ! みんなにバカにされちゃったじゃないのよ! もうあんたのことなんか嫌い! 燃やしてやる!」

「やめるんじゃ!」


 仲間たちにあれこれ言われて、正気に戻ったのだろう。

 一方の仲間たちと思われる一段は遠くで3メートルはあろうかという魔竜と戦っているので、痴話喧嘩の仲裁どころではなさそうだ。


「あらー、賑やかねー」

「そっすね。こんな賑やかだとは」

「おー」


 エマが、

「先に神父様を助けましょう」

「そっすね」


 レオンは剣を出し、飛空魔法で空を飛び、炎の精霊の頭を柄で小突いた。


「いったーい」

「もう気が済んだろ。ジジイは連れて行くから、お前はあの魔竜退治の手伝いでもしてやれよ」

「へ? 魔竜?」


 炎の精霊がレオンの指差す方を見ると、仲間の精霊たちが次々と倒れ伏しているところだった。


「さっきまではみんな、元気に戦ってたのにな」

「……あいつは……」


 黒い魔竜は口から強烈な氷のブレスを吐き出した。周囲一体が冷気で包まれ、炎の精霊たちは次々と倒れていく。


「……嘘。あいつは……エルフに退治されたはずじゃ……」

 炎の精霊は怯えて動けなくなっている。

「あいつはなんだ?」

「氷の魔竜で、あいつの吐息はこの世界や炎の精霊たちの炎を消してしまうの。私たちにとっての最大級の災厄」

「はーん。大変だなー」


 ジジイは助けたし、このまま帰っても良かったが、あろうことかジジイは飛行魔法の操縦をミスったため、魔竜へと突っ込んでしまった。

 それを魔竜がナイスキャッチ。

 ジジイを生きた状態でないと意味がないのだ。


「ち。面倒くせーな」


レオンは舌打ちをして、剣を構え直した。

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