第12話1つ目デカ口戦
レオンが右手をヒラヒラさせると、1本の剣が現れ、それを掴んだ。
かのが驚いて、
「わー、剣だー」
「そうよ、かのちゃん。レオンはあれで悪者を倒すのよ!」
「……悪者……」
「そうよ。あの怪物とか。しっかり応援しましょうね! フレーフレー」
「フレーフレー」
「うるさいんで、静かにしといてもらっていいすかね」
「あららん」
ガルガル向かってくる化け物に向かって、レオンは剣を構えると一気に走り出した。
見たところ、低レベルの魔族のようだった。だが、油断は禁物だ。何せまともな戦闘は久しぶりで、勘も鈍っている。
相手はでっかい口を開け、舌をむき出しに真っ直ぐに向かってくる。本当に飢えているのだろう。
ハーフエルフたちを飲み込んでもなお、腹が満たされることはない。
レオンは間合いに入った瞬間、剣を振り下ろした。
化け物に当たったが、刃が入らず滑った。脇に避けるわけには行かない。脇に避けたら、エマたちが喰われてしまう。だが、自分が喰われるわけにも行かない。
舌が自分の腹をかすった。執事服が強烈な酸で溶ける。熱い。
レオンは急いで、化け物の口に火球を放った。すぐに出せる下級魔法だが、相手をのけぞらせるには充分だった。
今度は目に剣を突き刺そうとするが、こちらも刺さらない。
固いわけではないが、謎の弾力があって、戻ってきてしまう。
化け物は尻尾を振り回し、レオンを弾き飛ばした。
目の前のエマたちに全力で向かい出す。
レオンは衝撃で起き上がれない。
もうダメだ。
これだから、人間の体は。ここから出たあと、なんと言い訳したら、処分が軽くなるのか、どうやって、原因となった教会の神父に全責任を押し付けようかなどと雑念がとめどなく現れる。
ノノが叫んで、前に出た。
「トムゾ! 食べるなら僕だけにしろ!」
化け物の走るスピードが落ちた。多少、動きがぎこちなくなっていて、迷いが出ているようだが、空腹には勝てず、エマたちに向かっていく。
エマがノノの後ろから、魔法で氷の刃を放った。正直、そこまで大きくもなく、スピードも遅い。学校で習った初級魔法でしかないが、それは化け物の目に突き刺さった。
緑色の血を目から吹き出しながら、仰け反った。おそらく、もう目は見えないだろう。
「トムゾ!」
ノノが叫びながら、駆け寄ろうとするのをエマが止める。
「駄目!」
「でも……」
血を出しながらも化け物は気配を頼りに目の前の食べ物であるエマたちにノロノロと向かっていく。
レオンは起き上がり、走りながら剣を構える。
「歯一本残らずへし折って、舌引きちぎってやるよ!」
「や、やめろ! あんな化け物でも、僕のたった一人の友達なんだ!」
ノノが化け物を庇おうとレオンの前に出た。
化け物が舌でノノを絡め取った。その時、彼女は心底穏やかな表情をした。
レオンが炎の玉を化け物の口の中に放り込んだ。
「ひぎゃーーー!」
悲鳴を上げるがノノを離すことはない。それほどまでに飢えているのだろう。
レオンは剣を化け物の口の奥に突き刺した。
魔族の血がレオンに降り注ぐ。
化け物は体から力が抜けていく。終わったようだった。
レオンはノノに、
「友達に、人生が終わらない終われない自分を救ってもらおうとするなよ。友達だって、そんな方法で友達を救いたかねーだろうよ」
「だから、トムゾは長い間、僕の前に姿を見せなかったんだろうか」
「知るかよ」
「友達だって、友達を食うより、こんな終わり方のほうが幸せなんじゃねーかね」
化け物改めトムゾの体が砂となって消えていく。そして、現れたのは扉だった。
ノノが、
「その扉から人間界や精霊界に行くことができる。行きたい世界を思い浮かべればいい」
「そうしたら、神父さんが行った精霊界ね」
エマの言葉に、レオンが溜め息を吐きながら頷いた。
エマが、
「かのちゃん! 一緒に大冒険よ!」
「うん。かの、冒険する」
そして、ノノに対して、
「あなたも一緒に行きましょう。ここにいても一人なのでしょ? 私たちの村に来れば、きっと穏やかに暮らせるわ」
「ぼ、僕は……」
「行きましょう!」
エマは半ば強引にノノの手を取った。
レオンは見たこともない精霊界を思い浮かべる。
すると、扉が自動的に開いた。
そこにいたのはエルフたちだった。
長い耳に、白い肌、金髪碧眼。
エルフの一人が言った。
「人間と、……もう1人はなんだ?」
この言葉を聞いたノノは顔色を変え、
「僕は君たちとは行かない! さあ、行け!」
三人を扉へと押し出し、バタンッと勢いよく閉めた。
薄暗い空間で一人残ったノノは、その場に立ち尽くした。
蘇るのは幼い頃の記憶。
人間からもエルフからも変わった姿形だと言われ続け、どこの国も街も村にも受け入れられず、奴隷のような扱いを受け、仲間たちとともに逃げ出しさまよってきた。
そして、この世界の底にたどり着いた。食料や光に乏しい、厳しい環境。
成長すると、精霊に近く食料を必要としない自分は、仲間から妬まれるようになった。
そこに現れたのが、どこからか迷い込んだトムゾだった。
最初は単なる精霊か妖精の類だと思い、共に過ごしていたら、いつしかハーフエルフたちを飲み込むようになった。
ハーフエルフたちはすっかり疲れ果て、自分たちを飲み込むトムゾを神と崇めるようになった。
多くの仲間を見送り、最後は自分一人になった。
トムゾは自分だけを飲み込むことだけはしなかった。育ての親だと思ったからだろうか。
ノノは蘇る思い出にはもう何も感じなくなっていた。ただ、頭が勝手に思い出しているだけだ。その場に座りこんだ。
自分は一人だが、ここは暖かくもなければ寒くもない。
ただ、ぬくもりがないだけの空虚な世界だ。
本当に、今度こそ、自分は、この世界の底で、一人となったのだ。
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