第9話かぼちゃまんじゅう

 翌朝といってもまだ夜が開けた直後。エマは台所の横にあるパントリーで食料をじっと見つめていた。何を作ろうか考えすぎてしまい、よく眠れず、早くベッドから出たのだ。

 豆やかぼちゃ、じゃがいも、玉ねぎ、人参といった食品の一部が貯蔵されている。

 自分が生きていた江戸ではしょうゆや味噌、カツオ節や昆布といったダシを多用していた。そして、米である。


「……どれもないのよね。違う次代の違う国のものなら作れるけれど、正直、こっちの世界と同じようなものだから、レオンは喜ばないだろうし」


 米なら手に入れようと思えば手に入れることはできるが、こちらの米はパサパサしており、粒が長い。おにぎりには向かないし、お粥にして食べることはこちらの世界でもやっている。

 何かないかと今度はツボが並ぶ棚を覗き込んだ。

 ツボには砂糖や蜂蜜、香辛料といった高価で貴重な調味料が入っている。


「あ、そうだ。作れるかも」


 エマは砂糖の瓶を手に取った。

 砂糖はたしかに貴重なのだが、こちらの世界とあちらの世界に共通の調味料である。それに、たまには使ってやらないといけないだろう。

 砂糖とかぼちゃを手に取って、台所へと戻った。


「この国って蒸し器がないのよね。まあ、いいか」


 あまり雨が降らず、乾燥気味の土地のため、水は少なく、水を使わない調理が多い。だから、基本的に肉でも野菜でもオーブンでローストすることが多い。

 だから、今回もカットしたかぼちゃをオーブンでローストしていく。こうすることで、余計な水分が抜け、甘みが凝縮する。

 1時間くらいローストしたら、青臭さもある甘い香りがしてきた。出来上がったようだ。

 オーブンから取り出し、少し冷めたら、緑色の皮を取り除き、マッシャーで潰して、砂糖を入れて味を調える。

 エマは指で、かぼちゃのペーストをつまみ、一口つまんだ。しっかりと甘い。


「こんなものでいいかしら」


 そして、それを小麦粉と水、砂糖を混ぜた生地で包み、再びオーブンで焼いていく。

 こうばしい焼き目がついたら、かぼちゃの焼きまんじゅうの完成だ。


「あら、おいしそう。やってみようと思えばできるものなのね」


 できたまんじゅうをお皿に乗せて、テーブルの上に置いた。

 丁度、その頃、レオンが起きてきた。あくびをしながら、


「なんすか、その丸いの」

「これ、おまんじゅう」

「は?」

「私が暮らしていた世界の国の食べ物」

「へー」


 レオンは一個手にとって、かぶりついた。


「うわ。あま。なんすか、これ? かぼちゃ?」

「そう。かぼちゃ」

「へー。結構、食えますね。うまいっすよ」

「でしょう」


 エマも一口食べてみた。とても懐かしい味だ。


「パンの中にかぼちゃ入れたって感じっすね」

「そうね。本当は蒸すんだけど、蒸し器がないから焼いてみたわ」

「へー」

「でも、よかったわ。このかぼちゃが美味しいかぼちゃで」

「砂糖ゴリゴリ入れたからじゃないっすか。かぼちゃはこの間、収穫したばかりっすよね。じゃあ、まだ本当においしくなってないっすよ」

「そうね。かぼちゃが美味しい時期は秋の仕事が一段落してからだものね。今日から小麦の収穫が始まるから、忙しくなるわねー」

「小麦の収穫今日からでしたっけ」


 レオンは途端に嫌な顔をした。

 秋は小麦など色々な作物が収穫期を迎え、農民たちから税金を取り立て、王都に収める時期だ。そして、冬に備える季節でもある。

 つまり、超多忙な時期なのだ。


 エマはニコニコしながら、


「そうよ。今日は収穫が無事に終われるように、村の教会で村の人達と一緒にお祈りをする日よ。忘れちゃダメよ。さあ、ご飯食べたし、お皿を洗って教会へ行きましょう」


 二人が後片付けをしていると廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。一人の少女が台所に入ってきたかと思うと切迫した表情で叫んだ。


「領主様! 大変です! 神父様が!」

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