第55話 港町プラム防衛戦開幕

 本来なら帝都の空港に飛空艇を停め、そこから馬車で行かなければならない港町プラムに、封鎖されたため空港を使えない今、最善策として上空から飛び降りる形で到着する事になりました。

 そして人気の少ない広場に降りた私とプルメリアとフィカスさんは真っ直ぐに冒険者ギルドに向かいました。

 こんにちはブロワリアです。

 冒険者ギルドにはかなりの人が溢れていました。

 人混みを掻い潜り受付カウンターに辿り着くと私たちの顔を見たマリーさんがカウンターから飛び出して来ました。

 「マリーさん!」

 「プルメリアさん!ブロワリアさん!何故来たんですか!」

 小さく震えるマリーさんの肩を暫く二人で抱きしめてていると人ごみを割って声がかけられました。

 「よう、久しぶり」

 「ガウラ!」

 「ガウラくん!」

 背後のフィカスさんがぴくりと一瞬揺れた気がしますが、今はそれどころではありません。

 グラジオラスさんがお世話をしていた同じ初心者冒険者だったガウラくんです。

 あの頃の子どもっぽさは形を潜めて好青年になっていたガウラくんが私たちの方へ近づいて来ました。

 背後で不機嫌オーラがすごく出ていますが、ちょっとそれどころではないんですって。

 「はじめまして、Cクラス冒険者のガウラです」

 軽く会釈をしながら背後のフィカスさんに挨拶をしたガウラくんを私もプルメリアもポカンと見ます。

 「どーも。自分フィカス言います、Bクラスやねぇ」

 なんでしょうね、トゲトゲしい。

 しかも後ろから腕を回して私の頭に顎を乗せました。

 そんな様子をマリーさんが興味深そうに見てます、やめましょう?

 「ガウラはグラジオラスさんがお世話係をやってた時に知り合ったんだよ」

 「同じ新人冒険者で初めてパーティを組んだんですよ」

 「そう、ブロワリアの剣に付いてる真珠はガウラがブロワリアにあげたんだよね」

 ピシッ

 そんな音がしましたね?空気が凍ってますね。

 「あの真珠かぁ、嬉しいな」

 照れたようにはにかんで鼻頭を人差し指で掻くガウラくん。

 何故か私を捉えている腕に力が入って、ちょっと痛いですね。

 「ふぅん?」

 「初めて洞窟にパーティで挑戦したんですよ、あの時本当に危なくってそういう気持ち忘れたくないんです、それで私の剣を買う時にガウラくんから仲直りに頂いた真珠を付けたんですよ」

 兎に角何故か不機嫌なフィカスさんを宥めるために真珠の説明をします。

 「なぁ?」

 ガウラくんがプルメリアに耳打ちしながら内緒話を始めました、プルメリアはこくんと頷いています。

 「そう、だからあんまりブロワリアには触らない方がいいかな、フィカスさん強いし」

 「お、おう」

 互いに再会を祝って改めてマリーさんを見ました。

 「デイジーさんから聞いてとんできたんですよ」

 「デイジーから、そうですか」

 ギュッと胸の前で手を握り目を閉じたマリーさんが顔をあげました。

 「今から状況と作戦をお話します」

 マリーさんから受けた説明はこうでした。

 スタンピード、魔獣の集団異常暴走の予兆は数年前から報告があがっていた。

 この一年は各地で小規模のスタンピードが突発的にだが多くなっていた。

 今回のスタンピードはそれより遥かに大規模で帝都では厄災の再来と言われている、そしてスタンピードの本隊は真っ直ぐ帝都に向かっている。

 どうやらその中に首魁と思しき高位ランクの魔獣が居て、それには高名な伝説級の冒険者たちが対応に当たっていて帝都自体はSクラス冒険者を中心に騎士団と傭兵隊による防衛戦が二日前から開始されている。

 目下プラムの問題は、十数年前のスタンピードと同じで「本隊から外れた魔獣の襲撃」。

 比較的近い山中の村を壊滅させた大型魔獣とそれに釣られた魔獣の大軍が既に森の向こうにある山へと迫っている、が、山や森で戦闘をすれば明らかに不利であるため森を出た先の農場地区にて迎撃をしたいと。

 「迎撃にはプラムに滞在していた高位ランクの冒険者が当たります、他の冒険者たちに伝えられた指示は大軍からの防衛です」

 既に町の人は領主館へ避難しているらしく、防壁を突破されても大丈夫だとは言いますが、させる気はないんですよね。

 私はプルメリアとフィカスさんに目配せをしました、二人とも頷いています。

 フィカスさんはパフィオさんたちを心配しているでしょうから帝都に行きたいのではないかと、実はプラムに来る最中に聞きました。

 「自分は君らを任されとるからね、自分も君らを守りたいし」

 いつもの飄々とした物言いでしたが、そう言って私たちとプラムに降りてくれました。

 「魔獣の接触までは予想通りなら一日あります、少しでも休んでください」

 そう言ったマリーさんは私たちをダリアさんの宿に案内してくれました。

 ガウラくんとは一旦お別れです。

 明日また合流する事にして私たちは宿に着きました。

 元Sクラスのダリアさんは留守でした、恐らくこのスタンピードに合わせて帝都に召集されたのではないでしょうか、自由に使っていいと許可を貰ったとマリーさんに言われて私とプルメリアは階段を上がり突き当たりの部屋に行きました。

 あの日のままの部屋です。

 「絶対守ろうね」 

 不気味な咆哮が聞こえる中、私とプルメリアは決意を新たに明日に備えて休息を取りました。

 翌日、朝から激しい警報で目を覚ましました。

 「ブロワリア、プルメリアちゃん起きてる?」

 「はい、大丈夫です」

 遠慮がちに扉が開いてフィカスさんが入ってきました。

 「どうやら森におった魔獣らが後ろの気配でパニックになったみたいや、森の魔獣が押し出されて来たって話らしいで」

 フィカスさんに現状の説明を受けます。

 「ギルドのお嬢ちゃんから討伐本隊は森にて大型を討つ、BからDクラス冒険者は農場で魔獣を迎撃、ついでに引きつけ、以下クラスは町中の防衛と避難しとる領主館の防衛に回れ言うてたわ」

 「了解です、じゃあ農場に向かいましょう」

 農場は冒険者になったばかりのころ、角鼠をコリウスさんの指示で退治していた場所です。

 農場から森までは空き地が広がっていました、町を護る防壁までそこそこ距離はあります。

 私はひとつ、深呼吸をして部屋を出ました。

 町の通りを走り農場に着く頃には既に彼方此方で戦闘が始まっていました。

 私は直ぐに長剣を構えます、フィカスさんも二本の剣を構えました。

 背後に回ったプルメリアが鉄球付きメイスを取り出したのをチラッと見てしまいました。

 「プルメリア!シールドお願い!」

 「了解っ!」

 ぶんっと空気が振動して私とフィカスさんに物理と魔法のシールドが付与されました。

 私は身体強化魔法を足に集中させて加速します、その横をすいっとフィカスさんが追い抜いて行きました。

 ぐっ、あれで加速使ってないとか!狡いんですよ!

 群れになり作物に手を伸ばしているゴブリンをまとめて薙ぎ払いました。

 森から出てくるオークの数体はフィカスさんがぶつけた剣撃で吹き飛ばされていきます。

 プルメリアは周囲を見回しながら、危なそうな冒険者にシールドを付与したり回復したりしながら近寄って来た角鼠を鉄球でブチ飛ばしてます。

 森から出てくる魔獣もコチラに向かう大型が近づけばそれなりに強い魔獣が増えると予想されます。

 徐々に強くなる魔獣を少しでも数を減らさなければ、戦況が怪しくなりかねません。

 ドォンという音が響きゴブリンを巻き込んだ衝撃波が農場を走りました。

 何十人かがそれに巻き込まれて吹き飛ばされました。

 土煙の中から黒々とした巨体が姿を現しました。

 「魔猪?デカい!」

 普段見る魔猪の三倍はある巨体がそこにありました。

 「散開!」

 誰かの掛け声で私は横に飛び退きます。

 そのまま跳躍を使い魔猪の真上に跳ね上がると同じように飛び上がった影が二つ、フィカスさんとガウラくんです。

 空中からガウラくんが短剣を数本魔猪の目に向けて投げました、私は体重を長剣に乗せて剛腕を使い一気に突き出た長い牙に向かい振り下ろします。

 反対側の牙にはフィカスさんがクロスした剣に体重をかけて折りました。

 魔猪が大きく体を震わせます、衝撃に備える私の前方に物理シールドが複数枚展開されました。

 ドンっと重い衝撃に堪えながら着地すると間髪入れずに魔猪に向かい長剣を振います、同時にプルメリアが魔導書を開き、私の長剣へと雷の属性を付与しました。

 私は魔猪の前足に集中して剣を走らせます、フィカスさんが後ろ足を剣撃で斬り落としたところで、空気がぐわりと弛みました。

 一瞬の間を置いて魔猪の横から焔が走ります。

 その瞬間私は跳躍を使い飛び上がると一点を目掛けて長剣に体を預けました。

 ぐらりと倒れた魔猪の眉間に私の長剣が刺さり魔猪が沈黙すると、即座にプルメリアが浄化をかけました。

 私たちの視線はそれでも一点を見ていました。

 赤い赤い燃えるようなふわりとした長い髪を揺らせて、不遜なくらいこの場に似合わない笑みを湛えた彼女から目が離せません。

 「コリウスさん!」

 「久しぶりねぇ、随分強くなったじゃない」

 

 

 

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