第54話 異変の開始

 十七歳になりました、こんにちはプルメリアです。

 Cクラスとなり一年が過ぎ、私とブロワリアは先日十七歳になりました。

 この一年はドワーフ国と獣人国バオバブを中心に帝国より西の大小様々な国を旅してきた。

 その間に動きやすくなるからとフィカスさんが冒険者として登録、爆速でBクラスまで駆け上がったりとか少しの変化がありながらも、楽しく冒険をしきた。

 フィカスさんの冒険者ギルド登録については、私やブロワリアが難色を示す中「別にペディルム家の騎士を辞めるわけやあらへんし」と、私たちのスポンサーでもある帝国のペディルム伯爵家のパフィオさんと密談の結果ちゃっかりパフィオさんを説き伏せたらしく、さらっと登録したフィカスさんとブロワリアがちょっと喧嘩になったりもしてた。

 犬も喰わないからやめて欲しいよね。

 そもそも「Bぐらいが動くのに丁度良いし、誰かさんもBって話やったし」とかまだ張り合ってたの?と。

 存外面倒なところがあるなぁと思っていたんだけど、こういう面は獣人族の特徴らしい。

 まあその辺りは私がする話ではないよね。

 今日は久しぶりにバオバブに来ている、まあ冒険者ギルドから呼び出されたのだけど。

 バオバブの首都にある冒険者ギルドの受付、ウサギ獣人のデイジーさんから連絡が来たのが一週間前。

 その頃私たちはエルフ国イベリスより南にある、ホビット族の治める小さな国にいたんだよね。

 冒険者ギルドもすごく小さなギルドしかなくて、詳細もわからないまま至急来て欲しいと。

 ギルドに到着するなり私たちを見たデイジーさんにギルドの奥にある面談室に通された。

 「内密の情報なので」

 と一枚のメモを差し出された。

 「スタンピード、ですか?」

 「数年前から少しずつ予兆はあったらしいんですが一年前からはかなり魔獣の様子が変わっていて」

 そういえばアイスドラゴンが人里近いところに現れたのも一年前。

 「既に二週間前から帝国の首都である帝都にAクラス以上の冒険者が集められています」

 「え?帝都に?」

 それを聞いて私たちはハッと顔を見合わせた。

 「はい、そして三日前には帝都が封鎖されています」

 二週間前ならホビット族の国にある魔導書の話を聞いて尖塔に挑んでいた時期になる、私たちがギルドからの依頼を受けたのは一週間前。

 パフィオさんからの連絡はなかったはずで。

 ガタンと椅子を蹴倒した音にハッと顔をあげた。

 いつもは飄々としているフィカスさんが青ざめて立ち上がっていた。

 「自分、パフィオさまに連絡取って来るわ、丁度今パフィオさまは視察の時期のはずやから」

 なら帝都から距離はあるけどパフィオさんの預かる領地は辺境に近かったはず、最悪帝国を脱出出来ている?でも帝都にはペディルム伯爵家のみんなが居る!

 フィカスさんはこの場を私とブロワリアに任せて飛空艇まで走り出した。

 「かなり大規模なスタンピードが予測されているようなんです、ただ近隣国との兼ね合いで内々にギルドに達しがあった程度の状態で現在帝国全てのギルドと連絡がつきません」

 「詳細はわからないんですか?」

 「わかりません、ただ三日前の時点で帝都が封鎖されたという情報だけはありましたが」

 嫌な汗が流れる。

 何かに気付いたブロワリアが立ち上がり私を見た。

 「情報なら商人が一番早いはず!」

 あっと私も気付く。

 「ラピス商会のオーガスタさん!行こう!」

 コクと頷いたブロワリアと私はデイジーさんに断りを入れる。

 「あなたたちに依頼があるので後で必ず寄ってください」

 デイジーさんはそう言って私たちを送り出してくれた。

 私たちがギルドを出たと同時にフィカスさんが戻ってきた。

 「ちょーっとアレな感じでなんとかパフィオさまと連絡着いたわ、結論から言えばペディルム伯爵邸の非戦闘員は全員浮島にある本邸に避難してはる、護衛騎士隊は帝都の騎士団と合流、向こうはSクラス冒険者でほぼ堅めたらしい」

 「じゃあ大丈夫なんでしょうか」

 「安心は出来へんけど、パフィオさまから気になる話があってな、今一番被害が確認されてるのが、君らの育った村のある辺りや」

 ドクンと心臓が跳ね上がる。

 「何があったかは知れへんけどあの辺りの山はほぼ……」

 フィカスさんが気まずそうに口にします、が! 

 私はブロワリアを見た、ブロワリアも同じななだろう。

 私とブロワリアが気になっているのは捨てた村なんかじゃなくて。

 「あの近くには港町プラムがありますよね」

 「ああ、ただそこら辺までの情報はパフィオさまでもわからへんらしい」

 矢張りオーガスタさんに会わなくてはと、私とブロワリアは走り出した。

 「オーガスタさん!居る?」

 扉を開けるなりそう言った私を不審な目で見る従業員を割って出てきたのは灰色オオカミの獣人であるアスターさんだった。

 「二人とも、来るって思ってた、タヌキが待ってるから行くよ」

 オーガスタさんはアライグマの獣人だった記憶が……。

 「おい!タヌキ!」

 「誰がタヌキだ!」

 階段を上がった奥の豪奢な扉を開けながらアスターさんが声をかければ部屋の奥から声がした。

 「待ち人が来たぞ!」

 「!!」

 案内されて室内に入ると相変わらずタヌキに見えるアライグマの獣人でありラピス商会の会長であるオーガスタさんが難しい顔を見せて迎えてくれた。

 ラピス商会は元々パフィオさんと取引のある商会でもあり、それまでの情報は先にフィカスさんから聞いたものと変わりはなかった。

 「港町プラムの情報はありませんか?」

 「帝国が封鎖された三日前までは無事だった、だがその後はわからない」

 申し訳なさそうに項垂れたタヌ……オーガスタさんは三日前の通信記録を見せてくれた。

 どうやら一年半ほど前には私たちの育った村や近くの町が壊滅させられていたらしい、あの頃たまに来ていた行商人が壊滅した村を発見したと報告があったと、私は記憶を引き出す。

 「内緒だよ」と私に杖をブロワリアに剣を格安で売ってくれた行商人だ。

 あの村に来る行商人はあの人だけだった、時々来ては色んな物を村で売っていた。

 その度に食事もろくに与えられていなかった私に保存の利く固いパンをくれていたおじさん。

 彼がいつも通りに村へ行った時には既に村は原型を留めて居なかったらしい。

 生存者の存在は絶望的、近くの町に命がけで逃げ出したらしい村人が見たことのない大型の魔獣に襲われたと言い残し事切れた。

 その村も二週間前には壊滅の被害に遭ったと。

 「そんな……」

 村から町までは山道、町からプラムまでは馬車で一週間はかかる。

 その間も小さな村や集落はあるはず。

 「プラムに行こう」

 ブロワリアの言葉に私は頷いた。

 直ぐにラピス商会を出て冒険者ギルドに戻るとデイジーさんにプラム行きを告げた。

 「丁度良かった、Cクラス冒険者プルメリア、ブロワリア、Bクラス冒険者フィカス、三名に冒険者ギルドから港町プラムへの救助依頼が出ています、マリーを、妹をお願い……」

 港町プラムにはデイジーさんの双子の妹であるマリーさんがプラムの冒険者ギルドに居る、私とブロワリアが冒険者として登録をしたギルドですごくお世話になった人。

 「了解しました」

 直ぐに私たちはプラムに向けて出発した。

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