第53話 そろそろハッキリさせましょう

 こんにちはブロワリアです。

 グラジオラスさんは今回の指名依頼を出した依頼主に会いに行きました。

 「コリウスやガウラに会ったらよろしく言っておいてくれ」

 と言い残して。

 直前までフィカスさんやユッカ爺と難しい話をしていたみたいですが、私たちにはわからないのでその辺はノータッチです。

 ユーコミスもCランクになったのでお知らせを兼ねて叔母であり錬金術師のルクリアさんに会いに行きました。

 その後はドワーフ国のサルビアさんに報告に行くそうです。

 今回入手したアイスドラゴンの鱗を結婚祝いに届けるらしい、やっと心から祝えると笑ってました。

 「またな!」

 そして先程あっさりそう言って颯爽と旅立って行きました。

 「やっと通常運転って感じだねえ」

 プルメリアがしみじみと口を開いて伸びをする、仮の根城にしている借り家にサラサラと外から入る風の音がします。

 静かと言うほどではないけれど少しだけ寂しく思うくらいには四人になるのも久しぶりな気がします、実際久しぶりなんですけど。

 そういえば、と私は思い出してフィカスさんを見ました。

 私の視線に気付いたフィカスさんが剣を手入れする手を止めました。

 「あの時ブロワリアって呼んだじゃないですか、何でまたブロワリアちゃんに戻ってるんですか?」

 「へ?」

 あ、珍しい。

 今のは素ですね?

 肩をびくりと跳ね上げて一瞬だけ膨れた尾と耳がペタンとしました。

 「呼び捨てで良いんですよ?」

 「あーいやぁ、あの時はちょっとアレやったしな?」

 わかりにくいですが視線が泳いでますよね?

 何故かフィカスさんと私の様子をプルメリアとユッカ爺がニヤニヤしながら見てますけど。

 「なら私もプルメリアでいいよ」

 「プルメリアはちゃんが付いててもいいでしょ」

 ニヤニヤしながらそんな事を言い出したプルメリアにそう言ったら何故かすごく嬉しそうなんだけど?!何!

 「こう言ってるんだから呼んであげたら?」

 「うっ」

 「……ヘタレ」

 ユッカ爺……そんな目で見てあげないで欲しい。

 フィカスさん随分困ってます、私、タイミング悪かったですかね?

 ちょっと申し訳なく思っているとフィカスさんが困ったように笑いました、最近よくこんな笑い方をします。

 「どないしようかなぁ」

 「無理にとは言いませんよ、ただ」

 「ただ?」

 「少し距離が近くなった気がして嬉しかっただけなので」

 全員が片手で目を塞いで天井を見ながら「あー」とか言い出しました、え?どういう状況ですか?

 「そっかぁ、嬉しかったかぁそっかぁ」

 プルメリアが私の肩を叩いて来ますが本当に何?

 「フィカスさん、もう腹括ってやってよ」

 「まだウダウダやってたのか」

 「君らなあ、そない言うけどな」

 はぁと肩を落として耳も尾もペタンとしたフィカスさんが剣を仕舞うと私に向き直りました。

 「ブロワリアちゃん、ちょっと二人で話しよか」

 「うぇ?」

 私がビックリする番でした。

 ニヤニヤするプルメリアとユッカ爺に見送られて私はフィカスさんと町の中にある公園に来ました。

 歩きながら木陰に作られたベンチに座ります。

 「はぁ」

 珍しくガシガシと頭を掻いて髪を掻き上げたフィカスさんが暫く遠くを見ながら息を整えています。

 「まあこれ以上変な虫付いても困るしなぁ」

 変な虫……もしかしてグラジオラスさんのことでしょうか。

 「フィカスさん、私ちゃんと好きですよ?」

 「あーもー、格好良いよねぇ」

 はぁぁと長い息を吐いたフィカスさんが困ったように眉尻を下げました。

 いえ、流石に鈍感な私にもあれだけされたらわかりますし。

 ふっと視界が暗くなりました、ふわりと前髪があげられて額に柔らかい感触がありました。

 私にしか聞こえないくらい小さな声で告げられた言葉に私は笑顔で返しました。

 結局あれから公園を出て町を歩いたりして夕飯用に串焼きなどを買い込み家に着いたのは夕方になっていました。

 「遅いわ!」

 「ピッ」

 とプルメリアとパンジーに怒られながらリビングに行きます。

 「今後のことだけど」

 プルメリアが切り出しました。

 「魔導書もまだ集めたいし、ブロワリアと話してた最初の目的もあるからさ」

 「そうだね」

 「最初の目的?」

 私とプルメリアは目を合わせて頷きます。

 「たくさん色々な世界が見たいんだよね」

 なるほどとユッカ爺が微笑みました。

 「ここまでで行ったどの国も、そんなにしっかり回れなかったし」

 「魔導書を探しながら色々見てまわりたいなって」

 「ドワーフ国なんて興味あるものたくさんあったけど、慌ただしくて全然見れてないし」

 折角ランクも上がったのでもっとじっくり色々な国を周りたい、そう言う私とプルメリアにフィカスさんもユッカ爺も異論はなかったようです。

 三日後の出発を決めて私たちはまずドワーフ国へ行くことにしました。

 技術大国と呼ばれる職人たちの集まる国、通過するだけだった小国だってありました。

 まだたくさん見たいものが見たことのないものがあります。

 新しいパンジーという仲間も増えたし、楽しみですね。



エルフ国イベリスを旅立って、そして一年が過ぎました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る