第52話 そりゃあクラスもあがるんですよね

 「いやいやいや、おかしいよね?」

 迎えにきた飛空艇に乗ったグラジオラスさんの一言目がこれでした、こんにちはプルメリアです。

 何故かわからないけど突然退却したアイスドラゴンとの交戦、駆けつけたユッカ爺と合流して私たちは空港町に向かってる。

 簡易のシャワー室でサッと体を洗い会議室に集合してからも、グラジオラスさんは飛空艇の中をキョロキョロと見回してる、見過ぎだし。

 「振動すらないとか、意味がわからん」

 「ユッカ爺が好きにやってくれてるから」

 「だからってこれだけの改造になると資金だって」

 「ペディルム伯爵家は金だけはありますよって」

 フィカスさんがブロワリアの横に座りグラジオラスさんは私の横に座った。

 「イエティって話でしたよね?」

 「ああ、そもそもアレだけ人に近いところまでドラゴンが出てくること自体が本来あり得ない」

 グラジオラスさんが話すには私たちが登っていた山は山小屋の位置もあり人の出入りがそれなりにあるため、人を嫌うドラゴンはあまり近寄らないのだとか。

 ワイバーンのような飛竜ですら人里は避けて生活する。

 今回の討伐はイエティだった、あれは餌を求めて人里に降りてくる種だ。

 イレギュラー、そういうことなんだろうけど問題は何故イレギュラーが起きたか。

 その辺りはギルドに報告した後、偉い人が考えるんだろうけど自分たちでも考えておかないと、討伐依頼が受けにくくなっちゃうんだ。

 受けた依頼以上の魔獣に出会すなんてのはよくある、けど分布として情報が変わっていたら、ね。

 しかも今回の依頼はグラジオラスさんへの指名依頼、アイスドラゴンが居るとわかっていたり出没の可能性があったなら知らせておかないと命にかかわる、実際私たちが今生きて空に居るのは奇跡みたいなもんだし。

 「アイスドラゴンなんてAクラス以上で組んだパーティでもギリギリだってのに、ブロワリアやプルメリアに何かあったらアイスドラゴンよりコリウスに召されかねん」

 頭を抱えたグラジオラスさんが天井を仰ぎながら大きなため息を吐いた。

 「自分、とりあえず一回パフィオさまに報告だけしてくるわ」

 「そうですね、理由はどうあれ今回のことはお知らせしないといけませんね」

 ブロワリアとフィカスさんが操縦室に向かうのを見送り私はキッチンに行く。

 サッと食べれるだろう軽食を用意しようとパンとハムなどを取り出しているとユーコミスが手伝いにキッチンに入ってきた、グラジオラスさんも一緒に。

 「狭いから向こうで待ってて」

 「いや、ここもおかしいだろ」

 「だよな、普通ここまでの施設はないと思うんだよ」

 グラジオラスさんとユーコミスは相変わらず船内についてそう言うんだけど、私だってこれがおかしいのはわかってるからね?

 こんな豪華な内装もおかしいけど、簡易キッチンとは名ばかりのちょっと手狭な厨房とか、どっかの貴族の邸にでもありそうな会議室とか、壁紙がまた豪華になってるとか照明がシャンデリアだなぁとか本当は驚いてるから!

 パンにバターをたっぷり塗って具材を挟み込んだものを人数分用意して会議室に戻ると報告を終えたブロワリアとフィカスさんが戻っていた。

 「そう言えば、どうしてアイスドラゴンは退いたのでしょう」

 飛び出したパンジーを庇った時は覚悟を決めていた。

 そうだ、何であの時アイスドラゴンは退却したんだろう。

 あのままだったら私たちは全滅していてもおかしくなかった。

 「精霊……パンジーが居たからじゃないかな」

 ユーコミスが顎に手をやりぽそりと呟いた。

 「ドラゴン種は瘴気を纏っていないのは知ってるよな、瘴気を纏う魔獣と瘴気を纏わないドラゴン種や動物、俺たちエルフや獣人や人、ドワーフやノームとかさ、その違い」

 「精霊や女神の加護があるかないか、だったか」

 「うん、単純だけど一番可能性が高いのはパンジーが居たから精霊を攻撃出来なかったんじゃないのかなって」

 なるほど?

 「どっちにしろ、正解はわかんねえけど鱗は詫びかなんかじゃないかなと、なら一応の説明にはなるだろ」

 そう、ドラゴンが何を考えて退いたのかなんて憶測しかないんだし、一番可能性が高くて筋が通るのはユーコミスの言う通りなんだろう。

 「ピッ」

 フードから飛び出して得意げに会議室のテーブルの真ん中に陣取ったパンジーに全員の緊張が解けた。

 「まあ、難しいことはお偉方が考えるだろうし、俺も今回は依頼主に言ってちょっとふっかけてやらねえと気が済まんしな」

 グラジオラスさんが苦い笑いをこぼした。

 「空港町に行けば俺も飛空艇がある、ギルドに報告をあげたらすぐに依頼主のところに行ってくるつもりだ」

 「すぐに?空港町なら私たちが今拠点用に借りてる家があるんで一日ぐらいは休んでからの方がいいんじゃないです?多分ギルドに報告したら夜ですよ?」

 「ならお邪魔させていただこうかな」

 「え?宿屋で良ぇんやない?」

 「フィカスさーん、そろそろ仲良くしてくれないかなぁ」

 「嫌ななぁ、プルメリアちゃん、自分は仲良くしてますやん?」

 はぁとため息を吐くがフィカスさんが本気で言ってるわけじゃないのはわかるし、おそらく単なる牽制なんだろうなぁとは思うんだけど、それならそれでちゃんとすれば良いのに。

 あからさまに周りを牽制するくせに、はっきりしないからブロワリアが困ってるじゃん。

 もしかしてフィカスさん、ヘタレなの?

 そんな考えが顔に出ていたのかブロワリアが軽く睨んできた。

 まあブロワリアが良いならいいんだけどね。

 「ユッカ爺は?」

 「かなり飛ばして来たみたいでな、動力用の魔導石の確認中」

 「アレだな、速度はあがるが全速力で飛ばすと中の生体が持たんというのがわかったぞ」

 会議室に入るなり笑いながらユッカ爺がそう言う。

 「ユッカ爺、ありがとう」

 「これが俺の役回りだからな」

 そうは言うが、あの後あそこから町に徒歩で帰ることを考えたらゾッとする。

 何よりアイスドラゴンが私たちの匂いを辿り町に降りたかもしれない。

 ユッカ爺には感謝しかない、空港町からあの通信を聞くなり飛空艇を飛ばしてきてくれたのだから。

 「ゆっくり行けば夕方には空港町に着くだろう、それまで休んでおいたらどうだ?後フィカスはちょっと顔を貸せ」

 「あー自分もちょっと休憩を……」

 「喧しい」

 「はいはいっと、じゃあブロワリアちゃんとプルメリアちゃんはゆっくり休んどき」

 ユッカ爺に連れられたフィカスさんが操縦室に戻されていく、私とブロワリアは自室に、ユーコミスとグラジオラスさんはユーコミスが使っていたロフトに向かった。

 ベッドにごろんと転がるなり睡魔が襲ってきた、極度の緊張と矢張り体の疲れもあったのだろうし、シールドを使いすぎた。

 ブロワリアもベッドに入るなり寝息を立てている、私も意識を手放した。

 ユッカ爺の言った通り、夕方前に空港町に着いた私たちは先ずギルドに向かった。

 ユッカ爺は夕食とグラジオラスさんの部屋の準備に家に向かう。

 ギルドではグラジオラスさんがパーティのリーダーとして報告をあげて諸所の手続きをしてくれた。

 「プルメリア、ブロワリアおいで」

 呼ばれてギルドの職員さんの前に連れて来られる、冒険者証を求められて渡すとひょいひょいと何かを書き入れたようだった。

 「おめでとうございます、お二人とも今日からCクラスとなります」

 「へ?」

 「は?」

 間抜けな声が私とブロワリアから出たのは仕方がない。

 「アイスドラゴンの鱗なんか持って帰ったんだ、そりゃあランクも上がるんだよな」

 え?え?

 私たちがCクラス?

 「冒険者登録から一年でCクラスなんて……」

 実感が湧かない。

 だってコリウスさんがCクラスだったんだよ?私たちがそこに並ぶなんてあり得ない。

 「二人ともおめでとう」

 グラジオラスさんがクスッと笑ってる。

 「う、あ、ありがとうございます」

 「え、ありがとうございます、うわ、実感ない」

 ブロワリアわかる、私も実感ない。

 「この先はギルドからの依頼や個人や国からの指名依頼が受けれるようになります、有事の際にはご協力いただく事もあります」

 職員さんが冒険者証を私たちに渡しながらそう言った。

 実感がないまま家に戻りユッカ爺に報告する、嬉しそうに笑ったユッカ爺が祝い酒だとか言い出して、グラジオラスさんとフィカスさん相手にお酒を飲み始めた。

 騒がしい一夜を過ごした後、早朝にグラジオラスさんが依頼主に報告するため出立した。

 私たちは数日休んでからこの先のことを考えることにした。

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