第50話 討伐戦開幕
雪のまだ残る山道を進んでいく、時折吹き付ける風はまだ冷たくてローブでも身震いをしてしまう、おはようございますプルメリアです。
早朝に山小屋を出た私たちは先ず出没情報があった地点に向かって山を登っています。
パンジーは私の上着のフードの中でぬくぬくとしているので大丈夫として、さっむい!
ローブに保温効果があるのだけど、ローブのかからない顔や足元がかなり寒い。
風の冷たさは真冬と変わらないんじゃないかな。
一応ブーツにも保温効果のあるものを履いているけど、寒いものは寒い。
魔獣の気配を探しながらも寒さに気が散りそうになる。
泥濘む地面に足を取られながら山道を黙々と進む。
最後尾のフィカスさんが足を止めた。
気付いて全員がフィカスさんに注目する、シンと静かな時が流れフィカスさんの耳がピクと一点を向いた。
スラッと剣を取り出したフィカスさんとブロワリアが同時に飛び出し、グラジオラスさんが私の前に立つ。
ギリっと弓を引いたユーコミスの視線を追う。
全員の視線の先、音もなく現れたのは体長二メートル程はあろう巨体に白い体毛に鋭く伸びた爪を持つイエティがその数二十体。
「よっと」
真っ直ぐに飛び出したフィカスさんとブロワリアがイエティにぶつかる寸前で二手に分かれた。
空振ったイエティの爪が岩肌を抉る。
投石をしてくるイエティの石礫をグラジオラスさんが弾く、弓を限界まで引き絞ったユーコミスの打ち出す矢が投石をしているイエティの手を貫いた。
前面に出ているフィカスさんとブロワリアに向けて物理シールドを展開しながら、全体の様子を確認する。
混戦の中、少し離れた位置に居るイエティが大きく息を吸ったのがわかった。
そのイエティのブレスの線上にはブロワリアが三体のイエティを相手に奮闘している。
一際大きく吸った息をイエティが止めた瞬間、私は魔法シールドをイエティに向けてかけた。
自身の吐いた吹雪の息がシールドに阻まれ自分の体を包む、思い切り吐き出した息は途中で止められる事もなく吐き切る頃にはイエティ自身が自らの息で氷漬けにされていた。
魔法シールドが解けた瞬間に合わせ、フィカスさんが剣撃を飛ばした。
え?飛ぶの?剣撃が?てかその技なんですの?
そのフィカスさんに向かい腕を振り上げたイエティを飛び上がり体重を乗せた剣で一直線を描き腕ごとスパッと切り落としたブロワリアとフィカスさんが軽くハイタッチをしてまた二手に分かれる。
「ブロワリアのあれはツタの斬り方だな」
グラジオラスさんの言葉にツタさんを思い出す。
「ブロワリアは軽いからそうでもないが、ツタのあれは山も斬れるぞ」
ククッと面白そうに笑っているグラジオラスさんだけど、石礫を打ち返しながら確実に跳ね返した石がイエティに当たっている。
こちらに向かいブレスを吐き出そうと息を吸い込んだイエティにユーコミスの矢がその口に突き刺さる。
戦況を確認しながら、シールドを展開。
攻撃に加わる暇がない。
イエティに吹き飛ばされたブロワリアの背中に物理シールドを展開すれば読んでいたブロワリアがシールドを足場に跳躍を使い高く飛び上がる。
横から足元に飛んできた剣撃で動きを封じられたイエティの頭上からブロワリアが体重をかけた一撃を見舞う。
ピシャッと返り血がブロワリアの顔にかかるが、ブロワリアはそれを軽く袖で拭い視界を確保して素早く次の獲物に向かう。
二時間ほどの乱戦の後、全てのイエティが沈黙した。
肩で息をするブロワリアの顔をフィカスさんが拭っている、斜め前ではユーコミスがへたり込んでいる。
グラジオラスさんはイエティを見ながら何か考え事をしているようだ。
私はブロワリアとフィカスさんに駆け寄り回復魔法を使う。
大きな怪我がないのは良かった。
「さっきグラジオラスさんがブロワリアの体重かけて切るやつを見てツタさんのって話してたんだよ」
「うん、そう、ツタさんが持ってる魔法があれば私も威力上がるんだけど」
「あれか、体重くするやつ」
フィカスさんが続ければブロワリアは頷いた。
「加重、過重とかねあれば威力あがるんだって、でも大振りだから使い所は難しいんだよね」
なるほど、今回自在に使えたのはフィカスさんがそこに居たからだろう。
「プルメリアのシールドの多重展開もすごかったよ」
「あれよ、イエティ自分で凍らせるとか発想がプルメリアちゃんやわ」
クスクス笑いながらその場を浄化していく。
イエティを包んでいた瘴気が消えてなくなる。
「流石、帝国の騎士だね、強いじゃないか」
グラジオラスさんがフィカスさんに話かけるとフィカスさんの周りの空気が変わった気がする。
「いややわ、自分なんて全然強あらへんよ」
あ、これ口挟んだらダメなやつだ。
ブロワリアはと見れば既に空気と化している。
視線を巡らせユーコミスを見ればイエティから素材の回収をしている、逃げたな?
「まだ身体強化すら使って居なかっただろう?」
「さて、覚えてへんわぁ」
き、気温がっ気温が下がってる気がするんだけど?
二人の笑顔が怖い。
フィカスさんの尾が下に向けてゆらゆらしてるのって、これ、機嫌が悪い時のやつじゃないの?
「あ、そうだ、フィカスさんさっきの」
「ブロワリアちゃん、どないしたん?」
ブロワリアがフィカスに話しかけて先のイエティとの戦闘の話に持っていきながらその場から距離を取る。
チラッと私を見ていたので止めたんだろうな。
「グラジオラスさんさぁ」
「だってねえ?君たちはなんか妹みたいなもんだしね?」
「叔父さんじゃないんでって痛い」
揶揄ったら拳骨を落とされた。
「ブロワリアを任せるならね、俺より強い奴が良いじゃないか」
「おとうさん……」
「感情的には近いかもな」
まあ心配してくれているんだろうけど、私から見るに二人の気持ちはそうだけどまだどうこうはなってなさそうなんだよね。
「泣かされたら俺に言えよ」
「私が泣かさせるわけないんですよ」
「プルメリアもだよ」
「相手がいませんから」
「へえ?じゃあ俺にす」
「しません」
「これでもモテるんだがなぁ」
「でしょうねぇ」
どうでも良い話に切り替えて重くなりそうな空気を軽くするグラジオラスさんはブロワリアとフィカスさんを眺めている。
「でもまあ、なんかムカつくからちょっかいはかけたいかな」
にっこり笑ったグラジオラスさんに私はため息で返した。
パキッと音が鳴りブロワリアとフィカスさんが後方に跳んだ。
二人の向こう側から更に大軍のイエティが見える。
「嘘でしょ」
「数が多過ぎる!」
「プルメリア!たいきゃ……え?」
大軍のイエティが全て吹き飛んだ。
視界を雪煙が遮る、その向こうから地を這うような唸り声が耳をつんざいた。
「っアイスドラゴンだと?」
グラジオラスさんの焦る声に雪煙の奥から巨体がゆっくり姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます